十二 疑念と刺客

沖田声「はっ!」


-沖田が飛び込んでくる。それを追って入る、ザンと糸泉。


糸 泉「戦うか逃げるか、どっちかにしな!って、ここは…」

沖 田「富岡!」


-富岡に駆け寄る沖田。息が無いのを確かめ、祈りを捧げる。


糸 泉「どうやら相打ちしたみたいだね。残るはあたしらだけ。ここでケリを付けよ

   うじゃないか」

沖 田 「…残念じゃが、それはヤメじゃ」

糸 泉「ヤメ?何言ってるんだい?」

沖 田「まず聞くが、アルコール本田は刃物を使うのか?」

糸 泉「はぁ?」

沖 田「答えてくれ。返答次第じゃ、続きをしてもいいぞ」

糸 泉「…使わないよ。こいつは血が流れる得物は使わないんだ。血の匂いを嗅ぐと

   悪酔いするんだとさ」

沖 田「では、富岡を背後から刺し殺したのは、別の人間ということじゃな」

糸 泉「別?あたしら以外に雇われた護り屋はいないよ」

沖 田「そうか。この仕事はいくらで頼まれた?」

糸 泉「そんなの聞いてどうすんだい?」

沖 田「前金一億二千万。成功報酬二億ではないか?」

糸 泉「何で知ってるんだい?そいつ富岡には教えてないよ」

沖 田「わしらも同額で依頼を受けたからじゃよ。前金も成功報酬もな。これをただ

   の偶然と思うか?」

糸 泉「いいや。パパが言ってたよ。大概の偶然は、だってね」

沖 田「わしも、師匠からそう教わったわい。そうなると、わしらの依頼主も怪しく

   なってくるの。報酬が同額の意味はさておき、真の狙いはどうも、わしら殺し

   屋とお主ら護り屋をぶつけ、潰し合わせること自体にあるように思える」

糸 泉「確かに、ここまで互いに死人が出るのはなかなかないね」

沖 田「もしかしたら、わしやお主とは全く別の組織が動いてるのかもしれん。わしらが潰し合いを止めたことに気づいたら、一体どう動くかのう…むっ!」


-背後から突き出た刀を躱す沖田。


沖 田「誰じゃ!?」

糸 泉「あたしに任せな!」


-ザンを操り、刺客を引きづり出す。

-刺客は佐々斬り小次郎の娘、登美子だった。


沖 田「登美子ちゃん!なぜお前さんが!?」

登美子「登美子?誰のことだ?我は、佐々斬り小次郎…」

糸 泉「佐々斬り小次郎?何言ってるんだい、この子は?」

沖 田「乗っとられたか…」

糸 泉「どういうことだい?」

沖 田「佐々斬り小次郎とはな。あの刀の名前なんじゃ」

糸 泉「妖刀ってわけかい」

沖 田「ああ、登美子ちゃんの父親は、強靭な精神力で呪いを押さえ込んでいたんじ

   ゃが、登美子ちゃんはそうもいかなかったようじゃの。暴走しとる」

登美子「やっと出られた。もう刀の中への。好きなだけ斬らせ

   ろ!」


-襲い掛かる登美子。

-ザンを操り応戦する糸泉。しかし、激しい攻撃に追い込まれていく。


糸 泉「なかなかやるね。あの子ただの学生じゃなかったのかい?」

沖 田「登美子ちゃんは妖刀に振り回されとるだけじゃ。このままじゃ、あの子の身 

   体が先に壊れてしまうかもしれん」

糸 泉「へぇ。じゃあ、ほっとけば自滅するかもね」

沖 田「あの子を見殺しにするのか!?」

糸 泉「冗談だよ。あたしも子どもを見捨てるほど堕ちちゃいないさ。どうすりゃい

   い?」

沖 田「僅かでもいい。あの刀の動きを封じることができれば」

糸 泉「その役はあたしに任せな。行くよ!」


-糸泉がザンで妖刀を押さえつける。その隙を逃さず、登美子を気絶させる沖田。


糸 泉「うまくいったね。…うん?」

沖 田「登美子ちゃん!…とりあえずは生きておる。よかった」

糸 泉「よかったは…、まだ早いよ」

沖 田「なんじゃと?」

糸 泉「やばいね。こんなのってありかい?」

沖 田「まさか…」


-ザンが、抱えていた妖刀を持ち直し立ち上がる。


ザ ン「我は、佐々斬り小次郎…」

糸 泉「制御できない!」

沖 田「死体であるザン・リーの体をも乗っ取れるのか。最悪の組み合わせじゃな」

ザ ン「…使いやすくていい身体だな。続きを始めよう。ハイ~~~!!!」


-銃声。

-頭を打ちぬかれ、ザンが倒れる。

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