第3話昼休み
学生にとっての自由な時間、だけどそれと同時に学校の外に出ることが出来ないで校内で終わりの時間まで過ごさないといけない不自由な時間。
僕はお世辞にも友達が多いとは言えない。
中学までは努力して友達にノリを合わせたり、休日に付き合ったりもしていたのだが、『ある事情』に加え、中学卒業後に友達だった奴らが軒並みに別の高校に進学したことを機にその努力を辞めた。
今は周りに合わせることもしていないし、多少誰かと居ない時間クラスで気まずく過ごすこともあるけど、なんだかんだ一人の時間は別に嫌いではない。
だが、多少の友人関係はクラスで浮かない為には必要となってくる。
具体的には、僕は入学してから偶然出席番号が近かったというだけの理由で話すようになった唯一の友人とこうして今日も同じ机を囲って飯を食べていた。
「ほんとマジで嫌い...」
どんよりした空気を
「まあ、今日の
大迫というのは昼休み前の4限に授業して行った数学教師だ。
背は160cmと小さいが、細めの目はいつも「怒ってんの?」と聞きたくなるくらい目つきが悪く、スキンヘッドの頭も相まってどこぞのヤクザのようだ。
いつも指し棒に使っている大きなものさしも「こいつヤル気か!?」感を醸し出している。
だが、一方で授業は上手く、この地域じゃちょっと有名な敏腕数学教師らしい。
なんでもその授業を受けた生徒は最後までボヤきつつ、なんだかんだ成績は上がるというミラクルを起こすとか。
だが、やはり大迫を嫌いな奴は多いようだった。
なんせ、授業は基本指名制。それも数学を苦手なやつばかりを集中的に狙っていく。
それに加え、毎度の小テストで平均以下を取った奴は昼休み、放課後の容赦ない再テスト。問題が満点になるまで永遠と大迫の丸つけ、やり直し、鬼の指導のループ。
それこそが学年末の大幅な成績アップに繋がるのだろうが、そのためにはこの地獄を1年間乗り切らなければならない。
数学嫌いからすればマジで地獄の時間だろう。
僕は数学は可もなく不可もなくといった調子でテストでは毎回ギリギリ平均は越すため鬼のペナルティはほとんど受けたことがなく、指名は3日に1度くらいだった。
対して、こいつは大の数学嫌いらしくほぼ毎時間指名され、間違えればキレられるわ、鬼のペナルティは常連で昼休みや放課後は潰れるわで精神的にかなりきているようだった。よく最後まで投げ出さないでいられるものだ。
先程の授業の小テストでもやはり平均は越えられなかったようで放課後もまた呼び出しがかかっているらしくおかずを口に入れては溜息をつき、ボヤいている。
「あー...、マジで頭おかしいやろ...あいつ。ぜってー俺の事好きだって。だって毎回当ててくんだもん」
「嫌われるよりいいんじゃね?愛のムチってやつ?」
そう言うとあからさまに嫌そうな顔をされた。
「そんな好意いらねぇって。あんな人を殺やったような顔、授業んときと放課後...下手すりゃ昼休みまで突き合わせてたらマジでノイローゼになるから。今日は昼休み解放されてるからまだマシだけど」
そう言い半分残った米を掻き込む。
確かにいくら結果的に成績が上がるとはいえ、それは嫌だ。
あまり頑張ることをしたくない僕も、数学だけは復習を欠かさない。
全ては指名をできる限り避け、鬼のペナルティを回避するためだ。1度目を付けられたら毎日毎日大迫の影に怯えなければいけない。そんなのまっぴらごめんだ。
「でも、やっぱすげぇよ、
「はあ?どこが?」
残った飯を全て平らげ、水筒のお茶を飲みながら
「毎日毎日なんだかんだ言いつつ鬼のペナルティクリアしてんだろ?普通投げ出すって。実際何人か『脱獄』してるやつもいんだろ?」
あまりにも大迫の指導が拷問的過ぎて一部生徒の中では大迫のペナルティを放棄し逃げ出す行為を『脱獄』と称していた。なんでも、前に大迫の受け持ちの生徒だった先輩が初め面白がって付けた名称が定着し密かに受け継がれているそうな。
「そうだけどさ...やっぱ後が怖ぇって...逃げた奴らも相当な
大迫は滅多に笑わない。
それにあの犯罪者顔だ。
それが笑うってーーー
僕はゴクッと唾を飲む。
チラッと教卓正面の席に座る村瀬に視線を向けると野球部特有の丸坊主が目に入った。
村瀬は弁当片手に何やらプリントと格闘している。分かりやすく頭を掻き何かに悩んでいるようだ。
先程授業終わりに大迫にプリントの束を追加で貰っていたからそれかもしれない。
脱獄者の生きる屍に手を合わせておこう。南無南無。
「ああ...俺もやんなきゃ。...なあ、時間あったら教えてくんね?」
弁当箱を片付けた直樹は机からA3サイズのペナルティのプリントを取り出した。この間入った場合分け、確率の単元の類似問題だ。
「良いけど。僕に教えられるやつならな」
「お前数学得意じゃん。少なくとも俺より」
「まあ、直樹よりはいいかもだけど、いつも平均ギリ越すレベルだかんな?」
力にはさほどなれないということを遠回しに言ったつもりだが直樹は顔の前で両手を縦に擦り合わせている。「一生のお願いっ!」レベルで拝まれていた。
僕は小さくため息をつき
「分かったって。で、まずどれからーーー」
しょうがないなと嘆息し、頬杖をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます