第6話人気もの
物心着く頃から私、
「可愛いね〜祈ちゃんは。将来絶対に美人さんになるよ」と近所のおばさんが言っていた通り、見てくれはいっちょ前になりました。
小学校のときからチラホラあった告白も中学のときには爆発的に増え、マンガみたいに靴箱に手紙が溢れることもほとんど毎日の告白タイムも日常茶飯事。
ここでマンガであれば、周りの女子も穏やかで、男女ともに好かれる憧れの学園生活、というものになったのかもしれないですね。
でもそれは漫画の話。
現実、私を取り巻く環境はそんな状況が許されるものではありませんでした。
男子の目の届かないところで行われる陰口、仲間外れ、私物の消失、見覚えのない切り傷や落書き、靴箱やロッカーへの異物混入、当番の押し付け...
これが世間一般に言ういじめだとは理解していましたがそれを彼女たちが行ったという証拠もないし、何よりそれを誰かに相談して哀れられるのはもっと嫌だったんです。
私にはそれに耐えるという選択肢しかありませんでした。
そんな時、ある本を読んだんです。
ベストセラーになった有名な本で、ただ朝の読書の時間に読むために何気なく書店で店頭に平積みされていたから手に取っただけだったのですが。
その中のある言葉が今でも私の胸に残っています。
高校で上手く周りに溶け込み人気者になった主人公の過去の回想シーンで、主人公の恩師が言った言葉。
『誰しも生まれた時に人とは違う特別なギフトを持っているの。私だって、クラスのみんなだって1つは絶対に何か持っている。ーー神様に愛されたあなたは他の人より多くのギフトをもらったの。だから、悲観することなんてない。高く飛びなさい。打ち落とそうだなんて思いもしないほど、誰の手の届かない場所へ、高く、高くーー』
その言葉は私の心にもジーンと届きました。
能力を持つ者が持たない者に合わせて堕ちるなんて間違ってる。
私も、誰も打ち落とそうだなんて思わないほど、完璧に、高く飛べばこんな状況から抜け出せるかもしれない。この物語の主人公のように。
その日から私は今まで行っていなかった『努力』を始めました。
面倒だった髪や肌の手入れを念入りに行い、好きだったゲームの時間を無くし、予習復習を完璧に、平日は毎日放課後に分からない所を何か1つは絶対に質問に行く時間を作りました。皆が嫌がる役割は進んで引き受け、話題を合わせるため興味のなかったエンタメの情報を集めました。
すると、中学3年に進学した日クラスの中心的なリア充に声をかけられ一緒に過ごすようになり、私はついに高みへ登りつめたことを実感しました。
普段はノリが良く、男子に媚びることはなく、リーダーシップもある。勉強も運動も上位で卒がない。
それもこれも私の努力の賜物です。
以前より気を張る時間が増えて、睡眠時間も削られているため体調を崩す事も増えましたがいじめを受けることはほとんど無くなりました。。
そう『ほとんど』。
高校に通い出しても私はクラスの中心になりました。
休み時間も昼休みも放課後も私の周りには人が集まります。
でも、その中の誰も、『友達』まではいきませんでした。
学校ではいつも誰かが傍にいるし、たまにクラスメイトと休日も遊ぶこともあるし、メッセージのやり取りもします。
彼女たちは私の事を当然友達と思っているのでしょう。
ですが、私は彼女たちを友達と素直に思えないんです。
思いたくても、思えないんです。
中学の時のように、友達と思っていたその子がいつ裏切るか分からないという不安が私をいつも留めていました。
中学の時みたいにあからさまないじめがないだけマシ。
そう思っていたんですけど...
※
入学して3ヶ月が経った頃、私の周りには相変わらず人が集まっていました。
周囲から見れば順風満帆。ですが、この辺りの時期から私の周りに身に覚えのある違和感が生じ始めました。
クラスメイトの一部が私のことを良いように思っていないとすぐに気がつきます。
もちろん、それはほんの一部でその他の人達は違う。
ですが、一緒に行動することが多い美化委員の
周りの人も私の事をよく思っていないのでは、と考えるだけで怖かったんです。
だから、更に頑張りました。勉強も役員も、人間関係も。
もっと、もっと、もっと頑張って、努力して、高みに行かないとーーー
そう思い。
甲斐さんも他の一部の人もあからさまなことはしないし私も空気に身を任せることしか出来ませんでした。
そのまま何もなければそれでいい。
そう思っていた1週間前。私のシャープペンシルが消えました。
背筋がゾッと凍り付き、グラグラと視界が揺れます。
幸いすぐ見つかったものの精神的ストレスか、普段の極限まで切り詰めた生活のせいか体調を崩し1日だけ学校を休みました。
過去を繰り返してはならない。
だからもっと『ちゃんと』しないと。
そう、思っていたのにーー
そして、また今日、今度はトートバッグが消えました。
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