第7話番号
そこまで話し終わっても那須の無表情は変わらず
「押川さんは巻き込まれただけなんです。私が、もっと『ちゃんと』していなかったせいで。周囲の反感をどうすることも出来なかったから」
僕が何も言えずにいると那須は顔を上げて悲しげに笑みを浮かべた。
「だから本当にごめんなさい。巻き込んでしまって。その上、こんな愚痴を聞いて頂いて」
「聞いてもいい?...甲斐さんだって那須が確信しているのはなんで?」
僕が取った、という可能性を初めから那須は考えていないようだった。持っていた、という証拠が上がっているのは僕なのだから真っ先に疑いそうなのに。
「職員室に行った帰り際、私のバッグを抱えて走る甲斐さんを見たからです。...ほら、棟は違いますけど職員室の真正面が1年の教室じゃないですか。でも、一瞬だったのでそのとき確信はしていなかったんですけど...」
だから誰から受け取ったのかを確認されたのか。確信するために。
那須さんはぐーっと伸びをする。
「ん〜!話したらなんかスッキリしました。ありがとうございます、勝手に巻き込んだ上にここまでお付き合い頂いて」
ああ...
「いや、別に大丈夫...だけど」
「私もまだまだですね。本当は自分で、抱えないといけないことなのに」
まるで、以前の自分を見ているようだ。
周りに合わせ、期待に答えようと自分を犠牲にしてまで努力する。
このまま続ければきっと身を滅ぼすのだろう。
僕のように。
「...そう言えば敬語...」
「はい?」
「いつもそんな話し方なの?」
「ああ、...いや、違いますよ。いつもはもっとノリノリで、軽い感じで、でも、素はこっちなんです。なんか初めて会った人だから...ですかね?普段のノリじゃなくてこっちで話してました」
乾いた笑みを浮かべる那須にまた既視感を覚えた。
何か、出来ないか。
そんならしくない事を考えてしまう。
「別に話しやすい方で良いよ。普段の那須のことは知らないし」
「あ、...はい。ありがとうございます」
「あと、......」
努力はしない。
これは僕のモットーだ。
疲れることや面倒事、高校からはそれらを避けて平穏を望んでいた。
まだ高校1年の2学期でそのモットーが多少崩れてしまうのは嫌だ。
クラスどころか学校の人気者の那須。そんなのと関わり続けたら確実に平穏とは無縁の面倒事に巻き込まれる。それは安易に想像出来る。
でも...
「何かあったらまた、相談乗るから」
そう言わずにはいられなかった。
那須はワタワタと
「えぇっ!?いや、でもこれ以上迷惑は...」
「よく知らない人だからこそ、話せることもあるだろ?それに僕は那須を絶対特別扱いしない。...好みから外れてるからな」
嘘じゃない。
僕はどちらかと言えば大人っぽい人が好みだ。中学の時相談に乗ってくれたお姉さんのような。
那須も十分過ぎるほど美人ではあるがまだ幼さが残る。
それに恋愛ごとでも相当苦労してきたようだから下手に好意を持たれるということに対して警戒心もあるだろう。だからこそ、敢えて付け足した言葉だった。
那須はポカンとした後、クスクスと笑いだした。
「ふふ...だったらお願い、しても良いですか?」
「...おう」
なんだか気恥しくなって鞄からスマホを取り出す。
「連絡先、直で会うよりこっちの方が良いだろ」
QRコードを呼び出して那須の前に差し出す。
だが、
「あ、えと、私持ってきてないです」
あ、那須は校則をきっちり守るやつか。
うちの学校では学校への不要な物の持ち込みが禁止されている。携帯電話も例外ではなかった。
だが、そんな校則を皆守っているわけが無い。
クラスでも教師の目がない休み時間や放課後にコソコソ弄っている奴が多いから那須も当然所有しているものと思いこんでいた。
「じゃあ...」
鞄にスマホを戻し代わりに筆箱を取り出してメモ用紙にペンを走らせる。
「これ。僕の番号とID。気が向いたら連絡してくれていいから」
そうして小さなメモ用紙を差し出すと那須は両手でそれを受け取り、そのメモ用紙で口元を隠した。
「ありがとう、ございます...」
頬を染め上目遣いで見つめてくるのは多分素だろうが、その完璧に計算尽くされたような仕草につい顔に熱が集中し、鼓動が早まった。
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