第19話 政治状況の変革

 2028年8月、衆議院選挙が行われる。

 さらに衆議院選挙に合わせて憲法改正の是非を問う選挙も行われる。それに先立って、衆参両院の3分の2の多数の議決をもって修正憲法案は採択されている。マスコミの予想では改正は過半数の賛成を得られることは間違いないとされている。


 これに対して、過去見られたような気違いじみた反対運動は起きていない。これは、国の将来を真剣に考えて、誇りある日本を作ろうと、順平がさまざまな人と話し合った結果設立した新日本新聞とチャンネル新日本の影響が大きい。


 順平は、このような活動の資金のために、重力エンジンの特許を山戸、牧村の了解の上個人で取得し、江南大学技術研究所を通さず、“日本の夜明け”という政治団体を設立し、そこにその実施権を移した。


 そのうえで、この特許を2千億円の権利料で、世界最大の自動車メーカーであるT自動車に売りつけて金を作、り新日本新聞とテレビ局である新日本チャンネルを設立した。2チャンネラーの面目躍如たるものがある。


 この新聞社は経営悪化していたS新聞を買収して、元々右翼と言われていた論調をより鮮明なものとしたものである。テレビ局はやはり経営悪化していたキー局であったVTテレビを、資本参加の形で経営権を乗っ取り、新日本テレビと改名した。


 新聞社の社長の青山俊明や編集者は、一般に右翼といわれるが、愛国的な論者であり日本の自虐史観をなんとかしたいという人々である。テレビ局についても青山が社長を兼務しているが、どちらかと言うとテレビ局は中立を心がけている。


 これは、新聞で議論を巻き起こし、その論の影響をテレビでフォローすることによって世論をリードしていこうという訳だ。これらは、年間100億円の赤字を出してもいいという順平の後押しで、人材を募り、猛烈な活動を始めた。


 新聞社の場合はその設立後、新聞のみでなくインターネットでの発信に力を入れた。特に中国、韓国を中心としてねつ造されたウソ歴史を暴く綿密な資料を世界15カ国語で翻訳して発信し始めた。


 これは、非常にわかりやすい初級編、ある程度わかった人のための中級編、歴史学者レベルの上級編に分かれている。そして、そのすべてに根拠が付けられたもので、だれもが納得せざるをえないものであった。


 このことで、これまで隠されてきた様々な事実が、根拠付きで発表されることで、今まで中国・韓国が国際的に針小棒大、うそを織り交ぜて日本の残虐行為を叫びたててきたものが、誰でもうそ、誇張であることが理解できた。


 これが、あらゆるメディアを通じ、金を惜しまない広報費を使って広めた結果、じわじわと世界中に広がった。その結果は、国際的にも影響を増してきたが、日本国内でのインパクトがより大きいものになった。


 侵略、強制労働、慰安婦、植民地での収奪、虐殺等、日本が一方的に悪いとされてきたキャンペーンが悪意に満ちた偽り、また誇張であって、日本を貶めるためのみに使われてきたことが明らかになった。

 また、こうしたキャンペーンに進歩的と称する日本人が積極的に加担してきたという事実も知れ渡るようになった。


 無論これに対しては、中・韓は政府を先頭にやっきになった反論があったが、一般人が意外に思ったのはアメリカの反論への参戦である。アメリカの場合には、政府が直接ではなかったが、民間のシンクタンク、大学を中心にしたものであった。


 このアメリカの反論は、新日本新聞が中心になった学者の作成した史実に基づく資料には直接反論は出来ないためにしていない。その代わりに、彼らの論は、侵略戦争に狂奔したあげく太平洋戦争に突き進んだ、日本人の凶暴性と本質的な残虐性を強調するものであった。


 そして、それは欧州を中心とする白人諸国からはそれなりの支持を得ている。しかし、それに対しては普通の日本人が怒った。実は国内では数年前からあの手この手で世界史のブームを作り上げてきた。


 そして、その結果として多くの日本人が歴史の中で、白人がアフリカ・アジア・南北アメリカ大陸、オーストラリアでやってきたことを、具体的に知るようになったのだ。


 そうなると、アメリカ人のネイティブアメリカンや黒人奴隷に対する扱いを思うなら、日本人に偉そうなことを言えた筋合いではないという考えは素直に出てくる。そして、一般人を中心とするネット上での怒りの表明は世界のみならず日本人を大きく動かした。


 元々、若者の政治意識は自虐史観とはほとんど無縁であり、右傾化していると言われてきた。彼らは客観的には右傾化している訳でなく、公平な目で見始めているということなのだろうが、若い世代ではこのように怒りを表すものが多数になった。


 その中で、マスコミの多くが、国民が知るべき情報を故意に隠してきたとされ、A新聞やK通信など、既存マスコミの多くに対する国民の不信感極めて強いものになって、あらゆる記事が叩かれるようになってきた。


 反面として新日本新聞に対する信用は増すことになり、既存のマスコミも新日本新聞の論に同調を迫られることになった。この中で、新日本テレビもごく普通の局とみなされるようになってきた。


 こうした国内の動きに相応して、さまざまな日本を貶めるキャンペーンを行ってきた中国・韓国との関係はますます悪化している。特に韓国については長年の政府主導の反日キャンペーンにより、国民の反日感情はすでに最高潮になっていて、日本人の反感をますます高めている。


 中国については、西側世界から完全に孤立の道をたどっていて、正直に言って日本の歴史認識どころではないのだが、共産党政権は自らへの支持つなぎ止めのために伝統に沿って、日本憎しをあおっている。


 また、互いの悪感情の高まりから、韓国人の日本への入国者の犯罪率の高まりも受けて、そのような世論の高まりに押されて、韓国人に対するノービザは停止され、韓国も報復として日本人へのノービザを停止した。


 中国に関しては、日本では爆発的な技術革新の進行でバブル以来の好景気に沸いているため、経済的にはすでに眼中にない。このため中国政府が日本に対して圧力をかけるすべはすでにほとんどない。


 ここで、中国の公船がたびたび侵入してきな臭くなっていた尖閣諸島は、2025年ついに、日本がヘリポートと宿舎を建設して(実際は重力エンジン機での交通が可能)、公務員を常駐させた。


 これに対して、中国政府からは猛烈な抗議があり、3隻の軍の駆逐艦からなる艦隊が同諸島に近づいた。だが、日本からレールガンを積んだ護衛艦が、45ノットの高速で4隻編成で現れると、こそこそ逃げ出した。


 日本国憲法については、新日本新聞のキャンペーンの一環で、アメリカが戦後日本が二度とアメリカの目障りにならないように押し付けた代物、ということが国民に知れ渡り、特に9条は改正するのが当然という風潮になった。


 なお、2028年の政治状況は、自民党が依然宗教団体付属の公新党と組んで政権与党であるが、民主党や社会党はほとんど力を失っている。一方共産党はコアな支持者に支えられて一定の勢力を保ち、維新の会は殆どのメンバーが後述する新党に合流した。

 総理大臣の加藤率いる自民党は、絶好調の経済を反映して盤石の支持率70%超を誇っている。ここで、新日本新聞社長の青山を中心に、政治団体“日本の夜明け”を正式に党として登録して、候補者を立てるということを公表した。

 順平も表に出てきており、設立者の一人であることを公にしているのみならず、いままですべて断っていたマスコミにも、積極的にでるようになった。


     ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー


 ある番組に出た、順平のインタビューの様子である。これは、本人が生放送ということで要求したものである。


「本日は、吉川順平さんにおいで頂いています。吉川さんは、みなさんもよくご存知のとおり、現在16歳、FR機をはじめとする、近年の我が国からの数々の画期的な発明・開発の中心人物です。

 吉川さんがこうした番組に出演されるのは初めてかと思います。それでは、吉川さん、皆さんに自己紹介をお願いできますか」


「はい、吉川順平です。本日はよろしくお願いいたします。

 現在は、江南大学技術研究所の研究員という立場です。今日、こうしてこの番組に出させていただくのは、16歳の少年にすぎない私ですけど、私なりにこの日本という祖国、および世界、それから人類に関して思うことを皆さんに聞いていただきたいと思ってのことです」


 金曜日の夜8時というゴールデンタイムの番組であるが、視聴率は35%達している。これは、順平の功績として、世界を変えたFR機や重力エンジンの開発の実質的な発明者であることは既に広く知られている。

 また、それのみならず開発発想セミナーを始めた個人であり、そのためにS型バッテリーやモーターが開発され、これまた世界を変えつつある。


 そのことから、その極端な若さもあって、今や世界で最も有名な個人であり、ニュースではたびたびその姿を現すが、短いインタビューに答える程度で、一般人からはほとんどその人となりは知られていないためである。


 しばらくは順平の功績についての紹介があって、それらに関して受け答えがあったが、その後順平の意見陳述の機会が与えられた。


「わたしは、自分の祖国日本という国と人々が大好きです。我々日本人は全員とは言えませんが、基本的には有能であり、優しく、お人好しであって引っ込み思案です。

 でも、反面僕がその美点と思っている性格のために損をしているなあと思って歯がゆい思いをしています。

 日本は過去において、自ら追い詰められたと思って、無謀な戦争に突入したことは事実です。そして、その結果世界に被害を与えたと言われていますが、実際に大部分の被害は日本が自ら受けています。


 しかし、このような無謀な戦争を起こしたことは、それを煽った指導層・マスコミ、及びそれに乗せられた一般の人々は全て真剣に反省すべきでしょう。

 個々人の世界の人々は、実際に触れあってみると優しく思いやりがあるように感じます。だが、残念ながら全体の国や民族は基本的に利害で動きます。多くの国家及び民族の歴史は血塗られています。


 日本の場合もご多分に漏れず同様な歴史をたどっていますが、わが国の場合には過度にそれが強調され押し付けられてきました。その結果、我々は、他から押し付けられた歴史観を受け入れて、いわれなき中傷を言われてもしょうがないと受け入れてきました。

 しかし、僕は歴史として証拠がなく裏付けのない話、それも我が国の祖先の皆さんを貶めさせるようなうそが蔓延するようなことは繰り返さないでほしいと思います。

 一方で、むろん恥ずべき、反省すべきこともあります。これは、まっすぐ受け止めて反省の材料にしなくてはならないでしょう。また、こうした歴史を踏まえての、日本の今後について、私も皆さんとともに真剣に考えていきたいと思っています。


 ここで、お知らせしたいことがあります。

 私どもは、すでに恒星間飛行が可能な宇宙船を完成しています。詳しくは申しませんが、1年後程度には探検飛行に出発するはずで、私の考えでは私達が居住可能な惑星が見つかる可能性は高いと思います。

 この場合、早急に日本人を中心とした植民団を送ることになるでしょう。つまり、近いうちに宇宙時代が訪れるのです。100年後振り返れば、今の時期は人類が宇宙に出ていく始まりの時代として記録されるでしょう。


 こうした思いもあって、私も協力して、『日本の夜明け』という政治団体が立ち上げられました。これは、今のさまざまの世界での問題を乗り越えて、宇宙時代をできるだけ希望に満ちて、スムーズに迎えようという人々が集まったものです。


 8月に迫った総選挙には、その『日本の夜明け』からたぶん200人程度の候補者を立てて、皆さんのご支持をお願いすることになります。皆さん、今後10年間は大変変化に富んだ、変革の時代が続きます。

 皆さん。私及び意を同じくする同志の方々の考え方を理解し、できれば一緒に歩んでいただき、これを希望に満ちた時代の訪れとして共に進んでほしいと思います」


 その後、さらに、宇宙船の話を中心に30分程度のインタビューがあって、実質45分の番組は終わった。

 少なくとも、視聴した人々は、歴史始まって以来の天才という吉川順平という少年が、どういう考えか、また真剣に日本の将来を考えていることは伝わった。また、『日本の夜明け』という名前はしっかり皆に伝わった。


 そのこともあって、『日本の夜明け』党は、自民党、維新の会からの参入もあって、200人の立候補が予定されている。そのなかで、江南大学関係では、新技術開発研究所の事務長を務めていた瀬川幸平、他大学職員2人も立候補している。


 8月、憲法改正の是非を含む、激しい選挙戦が行われた。

 憲法改正については、基本的に以下のような内容になっている。


『諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した』などという寝ぼけた前文をまず全面的に改訂し、武装、交戦権を否定するなど人間の性質を考えたら、死ねと言わんばかりの9条も全面的に改定する。


 しかし、侵略の禁止は侵略の定義の明確化と共に謳っている。その他、時代にそぐわない内容は改定するとともに、憲法は衆参両院および国民投票で過半数の賛成で改定できるものとしている。


 この憲法改正については、すでに衆議院の候補で表立って反対できるものは少なく、共産党と社会党の全部と民主党の一部の候補者のみが依然として反対している。アメリカを忌み嫌う共産党が、それが作った憲法堅持を謳うのはおかしなことである。


 投票の結果、自民党が第1党は変わらなかったが、減らされた定員500名に対して以下驚くような結果となった。

 自由民主党:248名

 公明党:30名

 日本の夜明け党:187名

 民進党:35名

 維新の党:15名

 共産党:12名

 その他諸党:0名

 無所属:3名


 日本の夜明け党は第2党に躍進!

 江南大学では新技術研究所の瀬川幸平他2名も当選している。

 なお、憲法改正については賛成票72%で決定した。

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