第22話 宇宙時代の始まり

 2022年に始まった、日本の産業革命は世界に浸透し、すでに世界で用いられるエネルギーはほぼ80%余がFR機によるものとなっている。日本では、電気代は産業用が5円、家庭用が6円/㎾時と極めて安くなっており、あらゆるエネルギーは電気由来のものになっている。


 例えば、車はすべてバッテリーを電源にモーターで駆動しており、ほとんどが油やガスを熱源に使っている事業所の工程は電気を熱源に使うように改められた。さらに、家庭や事業所においての石油・ガスによるコンロ、ボイラーやヒーターはまずなくなった。


 結果として、日本の発電能力は2020年の5億㎾から8億㎾になっており、夏ではエアコンによる排熱が問題になってきたが、これは発熱を電気に変換するシステムが開発されて、解決された。


 日本は2023年以来、年率平均8%の経済成長率を達成して、現状では年間900兆円のGDPとなっている。

 国の借金として財務省とマスコミが騒いでいた、政府の借金である国債は、現在1500兆円であるが、すでに日銀が70%を所有している。日銀はいわば、日本政府の子会社なので、政府から国債の金利は受け取る。


 しかし、利益分は国に還付するので、結局その1050兆円分は無利子と一緒である。近年、インフレ気味な中で、国債金利も上がってきて3%を超えたが、国債は発行時の金利で固定なので、現状のところ市中に持たれている国債は金利が低い。

 また忘れてはならないのが、日本政府は大きな金融資産を持っており、これは5百兆円に達する。したがって、実質的に政府の借金というものはすでに無いことになる。


 貿易収支に関していえば、日本ではその製品は年々、月々改良されており、為替レートが80円/ドルでも国際市場で圧倒的に強い。輸入の多くを占めていた燃料資源分がなくなったこともあり、現状の貿易収支は年間10兆円余の黒字である。さらに、特許料等を含む経常収支の黒字は年間25兆円に及ぶ。


 これは、日本では開発発想セミナーがあらゆる組織で活用され、“触媒”になる人材も数多く出てきたことから、技術革新が経済活動の隅々まで及び、あらゆる日本での活動の効率は日々改善されている。


 なお、現在ではこの触媒になる人材は、資格制度になっており、1級から3級まですでに10万人以上いるが、なかでも最上級の能力を持つ特級はわずか10人である。むろん特級と言えども、順平とは比べられない。

 当然、工業製品も世界の人々からいえば高かろうがどうしても欲しいという存在になって、圧倒的な競争力をもっている。


 この点では、やはり、日本人の国民性が、そうしたグループで協力しあうという活動に向いていることが、国際的な比較のなかでますます明らかになってきている。

 若者の収入も増えてきて、将来に夢を持てるようになってきたことから、出生率も上向いて現在では2.0程度に回復しており、シベリア開発、宇宙開発の話が具体的な話題になるようになってからはさらに上向く傾向を見せている。


 このように、経済面の改善とともに、様々な開発・改良は極めて活発に行われ、便利かつ、コストが低く暮らせる世の中になっている。


 中国は、尖閣での無残な敗戦が響いて共産党政権が倒れたため、今は11の独立国になっている。政権が倒れた後の調査で、1200兆円あると言われた中国のGDPの実態は、800兆円たらずであったことが判明した。


 これは、ソ連が倒れた時も、実際のGDPは公表値の半分程度であったことからも、情報の信頼性という意味で、共産主義の問題がまたもやクローズアップされた。それに加えて不良債権が1000兆円を超えるという無残な状態であった。


 その中で、旧共産党幹部の不法資産持ちだし高が、様々な推計から220兆円の総計になっている。そのため、中国の利権を引き継いだいくつかの新政権による、世界中、特に米国に逃げた旧幹部の追及は熾烈をきわめた。


 結果として、アメリカ他の西側諸国の協力もあり、半分ほどは取り返した結果になったようだ。しかし、日本円で数千億円もの不法な金を私物化して追及を受けた旧幹部は殆ど殺されたり、厳重に身元を隠してひそんだりと、優雅な生活は送れなかったということだ。


 韓国は、西側諸国に背を向けて中国に肩入れしたなど、過去の歴史に倣って時世を読むのを誤り、輸出が漸減していることもあって、GDPが継続的に減っている。また一連の出来事を通じて、日本人と韓国人が相互に互いを強く嫌うことになった結果、互いの国へのビザ取得は極めて難しくなっている。


 このように交流がないので、日本からの関心もどんどん薄れていっているというのが現状である。それに伴って、数十もあった嫌韓ブログも話題がないためどんどん減っていっており、順平も『すこし寂しいです』などと言っている。


 そうはいっても韓国は、中国が分裂して成立した共和国群に地理的な近さもあって、比較的遅れた工業製品であっても、それなりに売って食料他資源を手に入れて細々とやっている。


 アメリカは、やっぱり俺様国家である。GDPに関しても伸びは低いが、1500兆円余で(円ドル交換レート80円/ドル)まだ日本の1.7倍である。軍事力もまだ世界一であろうが、重力エンジンの導入と、日本における細かい部分での技術革新をベースにした質の面ではすでに日本に軍配が上がると言う専門家もいる。


 江南大学周辺では、牧村は、山戸、順平と一緒に2025年にノーベル物理学賞を受賞した。牧村は、いまでは山戸が理事長を務める江南大学技術開発公社の副理事長である。


 江南大学技術研究所は、日本のみならず世界の研究機関への財政援助を認められて、無税の公益法人になったのだ。これは、年間予算2兆円を握る世界最大の研究機関であり、世界各国の大学・研究機関・個人に年間8千億円の研究開発予算を投じている。


 順平は18歳になり、公にはなっていないが、5人の子持ちである。彼の子持ちは公然の秘密であるが、なにしろ日本のマスコミは、都合の悪いことは報道しない自由を発揮するので、問題ないであろう。


 彼は、自分の子供と遊ぶのが大好きで、よく遊んでいる。4歳になった長女の麗奈ちゃんは、どうも相当優秀であるようで、4歳にしてすでに大人と変わらないレベルで言葉をしゃべるし専門書も読める。

 だから、順平2世かと期待が高まっている。順平の母の洋子は、5人の孫を順次訪問して、あやして回るのが仕事になって幸せにくらしている。


 日本の政治的な状況については、すでに日本の夜明け党が衆議院で第2党、参議院では選挙で改選議員の過半数をしめて、次の衆議院選挙では過半数を占めることが確実とされている。

 このことは、彼らの理念も理解されて、国を愛する、人々を愛する、世に貢献する、人に迷惑をかけないという当たり前のことが当たりまえに言える世の中になったということである。


 その中で、いまでは自民党は長く続いた公明党との連立を解消して、日本の夜明け党と連立を組んでいる。内閣には、同党はからも3名大臣として加わっているが、加藤首相の元、自民党の大臣を含めて皆リアリストである。


 憲法改正に伴って、防衛省はそのままであるが、自衛隊は自衛軍になった。宇宙軍が創設されたこともあって、現在の予算規模は9兆円、装備はすべて改新され、現状では兵器体系は世界で最も新しいとされている。


 ちなみに、日本国政府の年間予算規模は150兆円となっているが、現状の税収は130兆円に達しており、税収以外の収入もあって、ほぼ収支が均衡する状態になってきている。


 一方で、アメリカ軍は膨大な兵器体系を維持していたのが逆に災いして、すべてを一新するのは余りに費用がかかることから、兵器体系の更新は遅々としている。

 しかし、日本とは疎遠になりつつあるが、一応の同盟国で少なくとも軍事的な脅威ではない。また、中国の脅威がなくなり、またロシアも日本の同盟国になることで軍事的な野心を捨てている。このように、脅威になる存在がいないことから、特別に更新を急ぐ必然性もないわけである。


 宇宙に関しては、すでにヤマト型で順次に竣工した3機のうち、フソウがさまざまな試験をくりかえし、ついに重力エンジンによる推進に時間の要素を操作することで光速を突破し、1光年/日超の速度で飛行することが出来るようになった。


 2029年2月、フソウはマスコミ関係者も5人乗せての20人の乗員で、恒星間飛行に乗り出した。順平は行きたがって暴れたが、国をあげて引き止め、2回目以降には絶対に連れていくとの約束で思い留めさせた。日本、いや世界のためにも万が一にも順平が失うわけにはいかないというのは、政権担当者の共通認識である。


 フソウは、まず最も近いケンタウルス・アルファを目指したが、すでに発見されていた惑星の他に3つの惑星があり、発見されていたものは巨大ガス惑星または大気の無い岩の塊でいずれも生命の痕跡はなかった。


 次にシリウス、これも8つの惑星が発見されたがやはり酸素、水のある惑星はない。しかし、このことから、恒星は惑星を持つのはごく普通のことであることがわかった。


 さらにエリダヌス・イータ星、この第4惑星は青く有力だ。接近し観察すると、直径は1万5千㎞で1万2千㎞の地球より直径で25%、面積で56%、体積で1.95倍大きい。重力波の測定結果からは地表での重力は地球の1.1倍程度で、平均密度は少し小さく5.2程度である。


 青い海、雲が浮かぶ空、赤道で気温が40℃程度で地球よりやや暑いが、中緯度地方は適温である。大きな大陸が2つあり、地峡でつながっている。陸地面積は全体の21%である。

 大陸の海沿いは緑でおおわれており、長さ2万㎞、幅1万5千㎞にもおよぶ大陸の中心部では部分的に緑はあるが、茶色の大地が広がっている。この惑星の千㎞の上空を3回ほど周回したが、文明の痕跡はみられない。


 フソウは2カ月の旅から帰還した。現状のところ通信手段はないので、地上に降り立ったあと、報告して初めてどういう結果であったか、人々は知ることが出来るのである。フソウが降り立ったのは、航空自衛軍小牧基地である。


 待ち構えていたマスコミ、また、一目見ようと来た人々、数万人が集まるなかで、記者会見が行われ、以下の点が発表された。


1.11光年離れたエリダヌス・イータ星の第4惑星は地球型の惑星であり、直径は 地球より25%大きく、海洋78%に陸地22%の面積割合で、植生は海岸寄りでは植生に覆われ、内陸では砂漠も見られる。大気には酸素が20%程度含まれ、地球に住む生物の居住に適する。調査の結果では、知的生物の存在は発見できず、さまざまな金属鉱物の鉱床が確認された。病原菌等の調査は、探査ドローンによって3点行ったが、危険なものは発見できていない。


2.同エリダヌス・イプシロン星の第6惑星で大規模な鉄鉱床が発見された。この惑星に大気はなく寒冷ではあるが、採掘に大きな困難はないと考えられる。


3.12光年離れた、クジラ座タウ星の第3惑星は同様に地球型の惑星であり、直径は地球とほぼ同等、海洋70%に陸地30%で陸の状況は、エリダヌス・イータ星の第4惑星と同様に地球に住む生物の居住に適する。調査の結果では、知的生物の存在は発見できず、さまざまな金属鉱物の鉱床が確認された。病原菌等の調査は、探査ドローンによって3点行ったが、危険なものは発見できていない。


 これらの、映像およびデータは公表され、特に映像データは世界のテレビで放映されて、大人気番組となった。

 その後、日本政府と、江南大学技術開発公社が共同で、発見されたエリダヌス・イータ星の第4惑星。エリダヌス・イプシロン星の第6惑星、クジラ座タウ星の第3惑星の追加詳細調査を行うこと、さらにフソウはさらなる探査を行うことが発表された。


 2024年の4月、クジラ座タウ星の第3惑星の詳細調査に出発した、ヤマト型護衛艦フジの中に順平も加わっていた。

 これらの調査の結果、日本政府は、クジラ座タウ星の第3惑星、名称“新やまと”を開発することを決し、アメリカ政府はエリダヌス・イータ星の第4惑星、名称“ニューアメリカ”を開発することを発表した。


 アメリカにあえて、“ニューアメリカ”を譲った理由は、あまりに日本のみが突出して惑星を独占することは危険であるという判断からである。かって、満州国の時代、日本はアメリカの満州への利権をかたくなに拒んだ結果あの戦争があったとの反省でもある。


 また、今後発見する惑星については、順次、他の国に開放することも約束している。実際のところ、日本にとっては新やまとのみの開発で、当分の間、多分100年くらいは十分であって、それ以外の惑星を取得しても持て余すのみになるとの考えである。


 2030年4月、かねてから江南大学技術開発公社が中心になって建設していた、牧原宇宙基地が完成した。これは100㎢の用地に10㎢の宇宙港、200㌶の国際空港、100㌶の学校用地(すでに宇宙船員養成学校、江南大学宇宙工学部は完成している)、500㌶の工業区(宇宙船造船工業の工場はすでに完成している)、500㌶の商業区、さらに500㌶の住居区からならなる。


 開所式のセレモニーは、本来の用地の一部100㌶で部分的に完成した宇宙港で行われた。セレモニーには、日本国首相、アメリカ合衆国国務長官等の来賓に加えて、当然山戸江南大学技術開発公社理事長、牧村教授、順平も出席した。


 そのなかで、日本国総理大臣の加山のスピーチである。

「………、今日、こうして牧原宇宙基地が開港にこぎつけたのは、一人の若者の才能と思いだったのです。ここにいる、“吉川順平”君、彼の才能と取り巻く人々の熱意が、停滞感が漂っていた我が国に再度エネルギーを吹き込みました。また、人々に将来に希望を持たせ、このような巨大な宇宙港をつくる意欲を持たせ、明日にも宇宙に住むため飛び出していこうと、その熱気をもって勇気づけたのです。

 吉川順平君、ここに上がってください。

 さあ、皆さん彼に拍手を、そして、順平君!今後も我々と一緒に歩んでください」


 出席していた、3千人余の人々の力一杯の拍手が広大な用地に響き渡った。

いる。

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