第17話 加速する日本の変革2

 2月になって、順平はアメリカに向けて発って行った。

 山戸理学部長と教授になった牧村に、斎藤正人も一緒に山戸の研究所理事長室で話している。斎藤は、博士課程修了と共に博士号を与えられ、今は技術開発研究所での教授である牧村の助手として働いている。


 彼も様々な発明、開発に絡んで助手としては大変恵まれたロイヤリティの配布を受けている。そのこともあって、彼は、かねてから恋仲だった1年後輩の新垣百合子と結婚したが、百合子はまだマスターの3年である。


 ソファに座って寛いでの会話に山戸が学長選挙のことを言う。

「結局、学長は医学部の伊藤学部長にお願いすることになったよ。伊藤さんは、最近のがんの治療法で世界的な権威になられたことだから、適任だ」


「医学部も、がんの治療法を確立して世界中から指導要請のオファーが大変らしいですね。順平君もおばあさんをがんで亡くして、その治療法にはだいぶこだわっていましたからね。相当、伊藤先生のところにも出入りしていましたね」

 山戸の話を受けて牧村が言う。


「うん、ガンは長く日本人の死因のトップだから、インパクトは大きいね。それがあるんだろうけど、政府も伊藤さんの新薬および化学療法を、両方ともにあっという間に認可したね」


「無認可の段階で、あれだけ処方して効果が歴然と出れば、認可しないはずはありませんよ。実は私の妻の叔母さんもあの薬で救われたのですよ。」

 今度は斎藤が口を挟んだのに山戸が答える。


「うん、そうだったね。最初のうちの臨床はもはや医者のさじを投げたものばかりだったものね。斎藤君の叔母さんは、それなりに臨床結果も積みあがっていたから、使うのも安心だったな。

 話は変わるけど、牧村君のネイチャーに載った論文は、結局事実に先を越されたような具合になったね」


「ええ、まあ反対論者はずいぶんいましたが、これで反論の余地はなくなったわけですから、まあいいんじゃないですかね。結局、アインシュタインの相対性理論は間違っているわけではなく、一面の真実ということでしたね。

 それより、山戸先生もご存知の通り、順平君が月に行ったあと、さまざまな試験をした結果のデータですが、非常に面白い傾向が出ています。

 まず、光速に近づいたところの速度の上昇の度合いは、順平君が計算した結果に奇麗に乗っています。確かに光速に近づくと必要なエネルギー増すというのはアインシュタインの予言通りですが、その度合いが定量的に示されたわけです」


「うーん。そりゃああのヤマトが無くては測定する方法が無かったものね。しかし、これだけでも画期的な発見だな」


「いえいえ、確かに発見としては大きいですが、生むものは別にないですよ。それより、この時間に係わる現象です。これから言えば、時間も確固としたものでなく物理現象の一部で、やり方によっては操作も可能のようです」


「うーん、私もちょっとそれは感じていたのだけど、まさかと思っていたが。いずれせよ、まとめたら見せてほしい」


「とは言え、悲しいかな私としては、それをどうするというのは結局順平君待ちです。でもいずれにせよ、進捗があったら報告はします。

 ところで話は変わりますが、研究所はすごいことになっているようですね」


「うん、知ってのとおりFR機の設置のロイヤリティは、まだ我が国だけで施設能力の増加が述べ3億㎾を超えた。 さらに海外へは契約段階で金をもらっているけど、すでに12億㎾だ。

 これに国内で千円/㎾で、海外はその倍の単価だからすごいよ。また発電量当たりも国内だけで現在の年間5千億㎾時に0.1円㎾時だからね。まだ海外分の発電量は同じ程度だけど、国内の倍の単価だからね。そして、量的には国内の10倍以上だから、将来はすごいことになる。


 また、江南大学発のロイヤリティ対象は1昨年、去年だけで70件あって、今年はFR機を除いても700億を超えそうだ。やっぱりS型バッテリーとモーターが大きいがね。これをどう使うか、決めなきゃならんが、いずれにせよ。技術開発に主に投資したいと思っている。  

 その中でも、すでに実用できることが証明された、航空宇宙への投資をやろうと思っている。ここから、40㎞山に入ったあたりに牧原山地があるだろう?」


 牧村と斎藤が頷くのを確認して山戸が話を続ける。

「あそこは、半分くらいは国有地なんだ。あそこに、宇宙船工場と、国際空港、航空宇宙基地、それから宇宙飛行士学校を作る。民間の土地はもう買い集めさせているし、国とも折衝してほぼ合意できている。

 もう、県知事とは何度も話しているけど、彼も大乗り気で県の後押しも大きい。たぶん、投資額は1兆円は超えるけど、研究所だったら十分出せるからね。

 ちなみに、君等も知っているだろうけど、江南大学の医学部、工学部、理学部は日本で最難関の大学になった。学部、学科は研究所を含めて思い切り拡充はしているけどね」


「ええ、最難関大学になって入学試験は難しくなりましたが、就職はすごいですね。あらゆる企業、研究所から引っ張りだこです。その意味では僕なんかは、以前の中堅国立大学の卒業生ですから内心は忸怩たるものがあります。

 とは言え、その遷移期に入った学生も順平セミナーで鍛えられて、今の江南大学の卒業生にふさわしいものになっているとは思います」

 そのように言う斎藤の言葉に山戸が大いに頷いて言う。


「斎藤君が卑下することはない。君もまさに順平君を受けいれた後のこの江南大学のレベルを上げた功労者の一人なんだから。そして、君のいう変化している遷移期の学生、卒業生はやはりセミナーのお陰で十分なレベルになっている。


 ところで、重力エンジン関連については、これもすごいことになるね。航空機は近い将来すべて重力エンジン方式に代わるな。これはコストと温暖化効果ガスの削減から必然だ。

 さらに、船舶については海を走るものは、今後意味をなさなくなるから淘汰される。これは重力エンジンでは軽く作る意味はないから、例え10万トンの貨物機でも鋼製で容易にできるし、低いコストで空を航行できるようになるからね。

 しかも、速度については時速500㎞くらいは容易に出せるし、コストは航行、この場合は飛行か、それごとの燃料費が不要で、しかも要員の拘束時間が大幅に短くなるから極端に安くなる。

 防衛省には、順平君が随分協力しているね。この点は斎藤君の方が詳しいかな?」


「ええ、大体一緒に行っていますからね。順平君の言う宇宙戦艦ヤマトの件はすでにご存知ですが、既存の戦闘機と戦闘爆撃機の重力エンジンへの換装をほぼ全面的に進めていますね。中国との関係が相当危ないということで、防衛省も焦っているようです。勿論戦闘機については新規の設計を進めているようですが、なにせ新型の開発には時間がかかります」

斎藤の言葉に山戸、牧村共に頷く。


    ―*-*-*-*-*-*-*- 


 順平が、アメリカでの1.5カ月の訪問を終えて帰ってきた。半月延長した上での帰国である。日本でも最重要人物の一人になっている彼には、アメリカまで2名の随員である“ボディガード”が付いて行った。


 日本にいるときは、彼一人に対してガードは交代要員を入れて8名でチームを作っており、少年相手ということもあって男女4名ずつである。アメリカでは、基本的なガードはアメリカ側が行うと請け合われたので2人に絞られたのだ。

 随員は安田亮一24歳、合気道3段の猛者と、もう一人はリーダー役の木山健二30歳、柔道3段であり、どちらも射撃術は上級である。


 アメリカでの行動は、基本的には研究所を回って、開発発想セミナーを開くというものであった。これは、プライドの高いアメリカのエリート研究者の感情的な反発もあり、最初はなかなかうまくいかなった。


 しかし、この場合でも融和的な人物が指導的な立場でグループに入った場合は、大きな成果が得られた。基本的に1日2回、週に5回実施して10回を過ぎるころ、成果が出ているのが知れ渡り、感情的な反発も薄れてきた。


 アメリカ側からも常に同行する随員がつけられたが、5人の随員の中に、ずいぶん若い娘が混じっている。ソフィア・カーター18歳で、飛び級でMITのドクターコースに所属する天才である。


 彼女の身長は155㎝で、アメリカ人としては少し小柄であり、今13歳の順平と同じ歳である。ダークブラウンの髪と緑の瞳のすらっとした美人で、落ち着いたやわらかいしゃべり方をする感じのいい人だなと、最初会った順平は思った。ちなみに天才順平は英語には全く困らない。


 順平は、日本ではほとんど家族以外の女性との付き合いはない。あっても、10代の女性は日常の生活の中では接点がないし話がまったく合わない。だから、女性自体はつまらないという思いであまり関心はなかった。

 一方で、健康な13歳の男の子らしく、性に関する関心はあって、夢精も何度か経験しているし、いわゆるネットのエロ画像などには興味はある。


 もっとも、ソフィアが普通の18歳と同じかと言えば、疑問があるだろうが。順平は日々アメリカ中の旅をして、毎日セミナーを開いて、ソフィアはそのすべてに参加する。彼女も専門は理系であり、現状の研究は理論物理学であり牧村に近いが、順平セミナーに立ち会うにつれ、自分が成長してきたのが自覚できた。


 日程の半分を過ぎるころは、彼女もセミナーの中でキー的な役割をするようになっていており、彼女のアシストもあって尚更セミナーの成果は高まっていった。そうして、彼女と日々接触するうちに、順平は目から入る女性の柔らかさ、さらに近く接することでにおいに性的な刺戟を感じざるを得なかった。


 もっともソフィアには、すでに恋人がいて彼女とそういう関係になることはないが、なにかもやもやした感じになっていく。さて、1カ月の期限が近づき、帰るころには、アメリカ政府内部でかなり深刻な話し合いがあった。


「順平とはいうのは何なのだ。たった1カ月に満たない間、人々とディスカッションするのみで、おそらく我が国の種々の研究の3年分が成し遂げられてしまった。こうしてみると、日本の、一大学があれだけの成果を上げるのはよくわかる。

 彼自身が、おそらく歴史に現れたことのないレベルの天才であり、さらに、超絶的な触媒的な能力を持つ。日本では、すでに彼がいなくてもそれなりの成果を上げているらしい。今までの成果からすると我が国でもどうなんだ」

 報告を受けた大統領が10人ほどの出席者を見渡して言う。


「例のソフィアが順調に育っていますね。彼女から、触媒の役割ができる人材を8人ほどピックアップしてもらっています。その人々は例外なく優れた成果を上げている人々です。

 しかし、彼らを機能させるためには、すこし順平自身からの集中的なレクチャーが欲しいということです。そう、あと半月ですね」

 世話役をしている補佐官が答える。


「うん、ではあと2週間滞在の延期を頼もう。首相の加藤にも頼んでおくが、本人には私から頼むよ。今、彼はワシントンだったよね」

 順平も、さすがに大統領から直接2週間の滞在延長を頼まれると、嫌とはいえなかった。


 帰国後、随員の木山、安田が、上司の酒匂に報告する。

「滞在中は報告書でお送りした通りで、アメリカ側も成果に大変満足したようです。それと、これは報告書には書いていないのですが、順平君、女性に大分関心を持ち始めたようですね。どうもカウンターパートのソフィア・カーター18歳に刺激を受けたようです。彼も13歳ですから、もう性欲をもつ年頃ではありますね」


 代表しての木山が報告に、「1.5カ月ご苦労だった。少し休暇は伸ばして10日間与えるからゆっくり休んでくれ」酒匂が答える。


「は、ありがとうございます」

 木山たちが嬉しそうに言うのを聞いて、酒匂は、木山、安田が去ったあと、ある番号に電話をかける。


「酒匂です。順平君も春の訪れのようです。カウンターパートのソフィアという18歳の女性、彼女もMITの博士課程ですから天才ですけど、その彼女に刺激を受けたようです」 


 女性の声が答える。

「でも、そのソフィアにお熱を上げなくてよかったわね。そう、少し遅めね。ちょうど、新学期だから都合がいいわ。早速手続きをします」


 牧村が順平の部屋に入ってきて言う。

「順平君、こんど研究室に3人院生が入ってくる。彼らは、東京のK大学で新しくできた飛び級制度ですでに学部を終えた学生だ。少し学期には早いけど。明日、顔を出すはずだよ」


「飛び級というと若いのですか。」

「うん、2人は18歳で、一人は16歳だ。みな女性だよ」


「ええ、女の子が3人!」

 順平が言うのに牧村が冷やかし気味に言う。


「いいじゃないか。華やかで。楽しいと思うよ」


「ちょっと苦手だな」順平は照れて言う。

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