第22話 事情と俺

「なんかすげえ写真撮られたな・・・・。」

「キャッキャ!!」



歩いていたら、2人組の女の人に声をかけられた。しかも何やら興奮している様子。

スマホを片手に何をするつもりだ!?!?と、腕の中の子に危害が及ばぬよう両手で抱え直し、2人を軽く睨みつけたら「きゃあ!!」と喜ばれるという手の付けられないこの感じ。

ドン引きだ。


まあ、気を取り直して。

2人に事情を聴いたところ、単に俺の写真が欲しかったらしく、それならばと今度俺の写真出るからと伝えた。

「もちろんそれも買うけど、今写真撮ってもいい!?!?」

今まで出会ったことのない人種だ・・・。なんかここまでくると、未知の生物にあったみたいで、俺も俺で彼女らが面白い人たちなんじゃねえかと思えるようになった。


「まあ別にいいけどよ。・・・変なことに使わねえよな???」

「「やった!!!」」


俺が粘りに負けて?写真をオッケーすると、嬉々として写真を撮り始めた。


「うわあ~俺系かあ。いい!!」

「妹さん???ハイピース!!」


SNSには乗っけないから!!!・・・・だそうだ。




こんな感じで、ちょっと面白い2人組に写真を撮られるというハプニングはあったものの、新しく情報はゲットすることができた。

なんと。迷子センターなるものがあるというではないか!

そこでは迷子になった子を預かり、アナウンスで親御さんを呼び寄せてくれるらしい。

・・・そんな配慮があるだなんて・・・。


「これから迷子センター行くぞ~。そこでママ呼んでくれるからなあ~。」

「ママあ??よいでくえゆ~??」

「そうそう。呼んでくれるぞ~。」

「ママ!!」




しばらく歩き、迷子センターのある所にたどり着いた。ふくよかで、とても優しそうなおじさんが椅子に座っており、

「迷子なんですけど・・・・。」

と言ったら、「そうでしたか~。では奥にどうぞ」と、椅子に座らせてくれた。書類に一応俺の名前と、あーちゃんの名前を書かねばならないらしい。

あーちゃんは俺から離れたがらず、しょうがないので膝の上に。


「えーと。名前は・・・おい、あーちゃん。お名前は???」

「あーたぇん!!3しゃい!!」

「・・・ここあーちゃんでもいいっすか??」

「大丈夫ですよ~。服装とか、髪型でアナウンスもできますので。」

「そうっすか。」


ふわふわの髪の毛を撫でながら、書類の空欄を埋めていく。

あーちゃんは自分の事を迷子だと思っていないのか、楽しそうに膝の上で一人遊びしていた。

たまに、俺の髪の毛引っ張ってくるのは痛いのでやめて欲しい・・・。


「はい。ありがとうございます~。じゃあこれからアナウンス掛けますので。少し待っていてくださいね。」

「お願いするっす。」


ーーーーーピンポンパンポーンーーーー迷子のお知らせです。現在、5階迷子センターにーーーーーー繰り返します。迷子のお知らせです。現在、5階迷子センターにてーーーーー




「はい。これでお母様も来て下さると思いますよ~。」


放送用のマイクをミュートにしたおじさんが、ニコニコ顔で座っている俺らを振り返る。


「よかったなあ。あーちゃん。」

「しーしーすゆの!!」

「おー。すごいなあ。」


これで一安心だ。後はゆっくり親御さんが来るのを待つのみ。あーちゃんも元気そうに膝の上で揺れてるし、体調は大丈夫そうだな。


あ、あざっす。これ何味っすか???小さい子って飴食えるんすかね??


おじちゃんが飴がたくさん入った籠をもって勧めてきた。


え??ピザ??おいしいんすか??それ。


「あーたぇんおちっこいうー」


これは微妙だからあげるって・・・・。笑いながら言うところが怖いっすね。まあ、くれるんならもらいますけども。


「あーたぇんおちっこいうー」

「え?」

「おちっこおおおおおおお!!!!」



*****



「っこおー!!!」

「危なかったぜえ・・・・。あと少しで漏らすとこだったんじゃねえか??」


やれやれだぜと思いながら、あーちゃんを抱っこする。


俺はあーちゃんをトイレに急いで連れて行き、ギリギリのところで間に合わせることに成功した。

今はトイレから迷子センターに帰る途中だ。



「あーちゃん。もうちょっと早く言ってほしかったぜ・・・。俺過去一早く走れた気がすんぞ・・・。」

「ちーじゅ!!ちーじゅ!!」

「・・・・ちーじゅですか。そーですか。」


少し歩いて見えてきた迷子センター。

まだ5分もたっていないのに、とても懐かしい気がしてならない。


「おじちゃん教えてくれてあんがとなー。」

「なんのなんの。」

「本当に危なかったわ・・・。」

「ちーじゅ!!」

「ちーじゅすごいねえ。で、どう??ママさん来た??」

「着てますよ~。奥のイスに座ってもらっています。」


そうなのか。結構早かったなって・・・まあそりゃそうだよな。大事な娘が迷子なんだから。


奥にある、扉のない部屋に入る。


こちらに背を向け、先ほど俺の座っていたところに座っている1人の女性。


「すいません。遅れてしまって・・・。」

「いえいえとんでもない。私が目を離してしまいまして。本当にありが・・・」

「見つかってよかっ・・・・」


「「あ。」」


俺の声に振り返ったその人。

細めの目に、茶髪、そして少しきつめの化粧。



座っていたのは先日食堂であった、日下部 由美さんその人であった。


「えーーーと。この間ぶりっすね、日下部さん。」

「そうね。」


・・・・・・・。


か・・・会話続かねえ・・・!!!!

どうしよう。いい印象全くない人と、会う予定でなかった時に出会ってしまった時、どうするのが正解なんだ・・・!?!?


「今日は・・・どういったご予定で来たんすか??」

「見てわからない??あやを迎えに来たんだけれど??」


・・・・・・・・。


「あーっと。彩さん「あーてぇん!!!」あーちゃんは、娘さんですか??」

「彩は私の甥よ。」

「なるほどっすね・・・・。」


椅子に座る日下部さんと立つ俺。

そして、降ろそうとしても、服にしがみつき、一向に俺の腕から降りようとしないあーちゃん。


「あーちゃん。ほら、日下部さんとこ行こうぜ??」

「や!!ママいーい!!」

「あーちゃん。でも今日は日下部さんが連れてきてくれたんだろ??」

「ママちばう!!」

「あーちゃ「構わないわ。」・・・・でも・・。」


呆れを込めた溜息を吐いたのち、俺の言葉を遮る日下部さん。地を這うような声色に、あーちゃんはビクッと肩を震わせた。


「もともと、私の姉がここでやるショーに連れてくる予定だったのよ。見てのとおり、私は嫌われているの。笑いたきゃ笑えばいいわ。」


・・・・笑えねえ・・・


ギラリと、子供に向けるのにふさわしくない目つきであーちゃんを見る日下部さん。そっと腕の中にいるあーちゃんの顔を隠すように胸に押し付ける。


子供・・・・嫌いなんかな・・・・。


「日下部さんの姉さんは今どちらに??」

「友達と出かけてるわ。本っ当に勝手で嫌になる。」

「頼まれて今日はここに連れてきたってことっすね・・・。」

「急に呼び出されて、このざまよ。事前の連絡なんてないわ。」

「なるほど・・・・。」


お姉さんも大分やばい人なんだ。あらかじめお願いすることもしないなんてな・・・・。


「身勝手身勝手。それでいてなんで周りからは評価されているのか分からない!」

「はあ・・・。」

「この子を私に押し付けて、自分は2日間の旅行。どれだけ私に負担を負わせれば気が済むのかしら??私にだって仕事あるってのに。・・・イライラするわ。」


正直言って同情する。家族であっても合う合わないがあるんだろう。

妹だからといって、相手の事を考えずに押し付けるのは嫌だよな・・・と思う。


だからといって、子供の前で親の事を責めて、あまつさえ直接的な攻撃をしてもいいという理由にはならんけどな。



「・・・今日はどうするんすか??」

「私もさすがに大人だから、放っておいたりはしないわよ。私の過ごしてるマンションに連れて行くわ。」

「大丈夫っすか・・??」

「大丈夫・・・??大丈夫に見えるの?見えるんだったらあなたの目は腐っているのね。」

「そんなトゲトゲしく言わなくてもいいんじゃねえっすか。それに、あーちゃんの前でその態度はよくねえと思いますよ。」

「・・・・。これでも結構我慢しているの。悪かったとは思うけど、これ以上刺激しないで頂戴。」




俺は眉をひそめ、腕の中にいるあーちゃんを見る。

顔を俺の方にうずめ、小刻みに肩を震わせていた。じんわりと俺の服が濡れている。


・・・・このまま預けるのは、双方に良いことがなさそうだな・・・。


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