第20話 ありのままと俺
「おなしゃーす!!」
「あ、仁君!!待ってたわあ~。ささ!こちらにこちらに!!」
準備が整った俺は「ここらへんでまずは撮ろうか」といわれ、芝生に立った。
「じゃあまずは軽くポーズをとって~」
カメラマンさんからの指示が入る。
軽く・・・・???軽くとは???
ポーズ・・・???
肩幅に開いた足と、握り締めた拳。
手に汗を握るとはよく言ったもので、今の仁は汗で手が包み込まれている状態だ。
どうしよう・・・どうしようと目をかっぴらいていたら呑気にニコニコしている編集長を視界の端でとらえた。
あ!!あれか!!軽くポーズ!!
パシャッ
「いいねいいねえ。表情が夏の風を感じさせるようなさわやかさがあるよ~。」
肩幅に開いた足はそのままに、握り締めた拳の力が抜けた瞬間、シャッターがきられる。
その時の仁は、うまい具合にナチュラルに立っているモデルさんのようになっていた。
なんだ??こんなんでいいのか???俺まだ何もしてないんだけど。
今度は腕を組み、ニコニコしている編集長の真似をしてみた。
パシャリ
次は編集長が片足立ちをしたので、同じように片足立ちをしようと、重心を預けた。だが、途中で芝生にサンダルの端が引っかかって、中途半端に足に体重を乗せた形になってしまう。
パシャリ
「いいねいいねえ。足の長さが際立ってるよ~。」
あっぶね。転びそうだったぜえ~。冷や冷やしたああああ!!!(汗をぬぐうポーズをとる)
パシャリ
(日差しを遮るいい感じのポーズになる。)
それからも編集長の真似をしようとしてちょっと違うポーズをとっていたらどんどんシャッターがきられ、ものの15分でその場所での撮影は終了した。
「え?もう終わりなんすか???」
「そうだね。結構いい感じのが撮れたから、今度は木陰での撮影に入ろうか~。えっと・・・・いい感じの木は・・・・。」
「あら。それだったら、中央の噴水近くにいい木があるわよ~。」
目をつけてたのよ~と、意気揚々に俺たちを案内してくれる。
彼女の後ろにぞろぞろと付いていく様子は、食料を運ぶありみたいでちょっと面白かった。
歩いている道中はもちろんたくさんの人がちらちら見てきて、
「何の撮影~??」
「かっこいい!!」
「もう夏の服かあ~早いねえ。」
などなど、話題に取り上げられる。
初対面のおばさまに、「お兄ちゃんイケメンねえ~。」といわれ、2ショットを撮られた。
流れるような動作で写真を撮り、御年いくつかは知らないが、年齢を感じさせない速さでその場を去っていったため注意する暇すら与えてくれない。
唖然。
まあ、俺は「このサンダルやっぱ歩きやすいなあ~」とか考えてたから、「え?」って言った瞬間にはもう、おばさまの後ろ姿しか見えないなんて状態にあったわけだが。
みんなよくあることだって苦笑いしてた。
公園中央にある噴水の周りはさまざまな大きさの犬がたくさんいて、交流会を行っていた。
ここで撮影するからといって飼い主たちをどかそうとすると、世間体があれなため、休憩するふりをすることにした。
犬たちがワフワフ。犬の犬による犬のための会議をしている。
お腹を見せてなでなでされているハスキーや、飼い主の足元をくるくる回るミニチュアダックスフンド。
噴水から少し離れているところで待機していたがどうしても手がうずく。
「あの・・・ちょっとばかし、毛皮に触れてきてもいいっすか???ちょっと禁断症状が・・・。」
俺は指で噴水周りにいる犬たちを差しながら、スタッフの皆さんに問いかける。
「ああ。いいわよ。でも、飼い主の方々に迷惑をかけないようにね。」
現場にいる最高責任者が、OKを出したので俺は一目散にあのグループに突撃することにした。
ていうか、編集長は俺のなんなんだ!?!?それは母が言うセリフなのでは!?
俺こんな変わった母親をもった記憶はないぞ!!!
「すいませーん!!」
心の中で編集長への突っ込みを入れつつ、噴水近くで風情を感じながら談話を続けている毛皮天国に手を振りながら駆け足で近づいた。
「すんません。あんまりにかわいいもんで。触っていいいっすか???」
着いたと同時にしゃがみ込み、犬たちの目を見ないようにしながら手の甲を彼らに向けて出した。
「あらあら。」
「若い子だねえ。」
「どうぞどうぞ。」
マダムにダンディに、30代くらいのお姉さん。
「あざっす!!」
飼い主さんたちの顔を見ながら返事をする。
「何かの仕事をしているのかしら???」
「服を紹介する本の仕事っす!!」
「それ、雑誌よね???何の雑誌なの???」
「え~と・・・ぷらすぷらす・・・だったっけかな・・・・??」
「え~!?僕それ読んだことあるよ!!」
飼い主の皆さんと会話をしつつも俺の手は大人気のようだ。先ほどから鼻息がフンスフンスと当たっている。
「本当っすか!?!?俺は見たことないんすけどね!!」
「え!?仕事なのに知らないのねえ??」
「へへへっ。照れるっす。」
「褒めてないわよwww」
「いつ頃の雑誌で出るの!?!?君もかっこいいけどその服もかっこいいね!!」
「え~と・・・5・6月のやつっすね。」
「もうすぐじゃないの!?!?」
「そうっすね。もともとのモデルの人がけがと病気でできなくなっちゃったみたいで。急遽の代打って感じっすね。」
あらあら。キャッキャウフフ。
話が盛り上がるにつれて、俺の手の定員もそろそろ限界を迎えようとしていた。
「すんません。話の腰折っちゃって申し訳ないっすけど、この子たちとちょっと戯れるっすね。」
飼い主の方と会話をしつつも戯れに本腰を入れる。
「わしゃわしゃ。ふははははは!!!」
大型のハスキーはちょっと雑目に。
ミニチュアダックスフンドは軽めに丁寧に。
柴犬は警戒心が高いので視界に入りやすい位置で。
「名前は何て言うんすか??」
聞いてみたところ、ハスキーは夢ちゃん。ミニチュアダックスフンドはチョコ君。柴犬は黒豆さんと言うんだそう。
「そうかあ。皆いい名前貰ったんだなあ。」
良い名前というと飼い主の皆さんも、犬たちも嬉しそうに笑ってくれて、俺もうれしくなった。
「お。顔アタックはやめとけ~??」
黒豆さんが跳ねて顔をなめてきた。
今日はいろいろ髪の毛に付けてるから舐めるのはやめた方がいいぞ。体に悪いかもしれんからなあ。
夢ちゃんもチョコ君も舌を出して、俺の周りをくるくる。
何かいい匂いがすんのかな??
服は新品なんだけどなあ。
「黒豆さんが家族以外で嬉しそうにするのは珍しいねえ。普段だと、すぐに興味なくしちゃってねえ。触ろうとすると明らかに逃げるんだよ。」
「夢ちゃんは人懐っこいんですよ~。いっつも私に構わずぐいぐいです。」
「チョコ君は半々くらいですかね。好き嫌いが激しいかもです。」
へ~そうなんかあ。
でもみんないい子だな。尻尾プンプン丸だしなあ。
きっと飼い主さんたちが本当に愛情込めてるんだろう。
お。ここ痒いんか???ほれほれ~
そんなこんなで戯れているうちに時間は瞬く間に過ぎて行ってしまった。仕事中だということを完ッ全に忘れてた!
俺はハッと思い出し、立ち上がって事情を説明する。
「そろそろ行かなきゃだ!!あざっした!!めっちゃ楽しかったっす!!」
「僕もだよ~今度雑誌買うね~。」
「あたしも買おうかねえ~。」
「私も忘れてなかったら買いますよ!!」
「あざっす!!」
最後の最後まで、本当に気持ちの良い人たちだった。
そんな人たちの元で暮らす子たちも幸せだろう。
さあ!!俺も頑張るとするかな!!
******
「すんませーん!!待たせちゃったっすね!!」
俺を待っていてくれていたカメラマンさんや、編集長の元に急いで戻る。
機材を持ちながらずっと立っている人は本当に重かっただろう。
彼らの元に駆け寄る俺とすれ違うように、スタッフの方が噴水の方に駆けていく。
あれ?
すれ違ったスタッフの方を目で追いながら、顔と足は編集長たちの方に向ける。
「え~と??噴水の方で次は撮ることにしたんすか??木陰はやめたんすか???」
またまたニコニコ顔の編集長。
今回は彼女だけでなく、カメラマンさんもニコニコ顔だ。
???なんだ???
「あのワンちゃんたちの飼い主さんたちに許可を取ってるのよ。」
「????」
「そうそう。雑誌に仁君とワンちゃんたちが映ってる様子を乗せてもいいですか??ってね。」
「????」
「あ、もちろん飼い主さんたちの顔は載せないわよ???」
????
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます