第21話 迷子と俺
犬の飼い主さんの許可が下り、その後の写真撮影もなんだかんだうまくいったので、午後3時くらいで全体の仕事としては終了した。
犬と俺が遊んでいる様子を使うというのはカメラマンさんからの猛烈プッシュがあったそう。
「あれほどいい顔をしているのにもったいない!!!」
30代くらいの男の人に言われても・・・って気はする。
仕事が終わった後は、胡桃さんが来るまで俺のホテルまで運んでくれた。ホテルに着くとすでに午後5時を回っていて、暗くなった東京を1人で歩けるほどの度胸もなかったし、疲れもあった俺はそのまま健やかに眠りにつく。
ふかふかのベットで、つるつるのシーツに包まれながらの睡眠は快適であった・・・(*´ω`)
ぱっちりお目目で、気分もいい。そんな俺は今、ホテルのフロントにある椅子でくつろぎながら考えていた。
仕事も1通り終わり、あとは何かあったときのための保険期間。
およそ3日。
足を組み替える。
「・・・・スリルを味わうか・・??」
あごを撫でてみた。
これは個人的な見解だが、東京に来たからには一秒たりとも、おのぼり感を損なうようなもったいないことをしたくないと思っている。おのぼりというのは一種のステータス。
わかりやすく微笑ましい顔をされるのだが、案外これをやるといいことがある。(経験則)
そしてそれを利用したことを考えたときに思い浮かんだんだ。
「思い描く高そうなお店に突撃することだな!!!」
無謀なことをしてみようと。
説明しよう。
思い描く高そうなお店というのは、文字から簡単に読み取れることとは思うが、六本木にある高級店のこと。そこにとりあえず突撃してみよう!といった内容になっている。
高級店=お客を心底もてなす
の定理によりこの作戦は成り立っており、都会の空気を感じるためだけにこの作戦の実行をすることにした。
”一見様お断り”の言葉は念頭にない。
俺は財布とスマホを持って、駅に向かった。
******
ザッ
俺の靴がうなりをあげる。
電車を降りたその世界は、イメージする東京まんま。
「おおう・・・。」
失敬。
あまりの高級感に肺から空気が漏れ出る音を言葉で表現してしまったぜ。
歩く人、休んでいる人。
どことなく優雅で、余裕のありそうな様相がこの空気感を醸し出しているのか・・・・。
もちろん街の景観も素晴らしく素晴らしいので、そこに気圧されているというのは前提条件だ。
「ろっぽんぎーひるずー。」
既視感があるのは、気のせいだろう。
しげしげと一番高いビル内にある、案内板を確認する。
「・・・・4階だな。」
ガーーーーーー
俺はエスカレーターを使い、一番横文字のお店が多かった、4階に向かった。
エスカレーターの最後の段差を躓きながら降りた仁は、さてどーすっか。と、左右を見渡しながらお店の物色を開始する。ただし、物色と言っても人混みが混み混みしていたため、人の波に乗る感じで。
お、あそこなんかいいんじゃねえか??
ある1店舗に目を付けた。
シックな雰囲気を感じさせるとても大人な感じのお店。シャンデリアがあったのが決定打。
俺は波に少し逆らいながら、目的のお店一直線に歩みを進める。
「あ、すんません。」
お店を見すぎて、足元が疎かになってしまった。誰かの荷物にあたったかと思い、反射的に謝る。
でもなんとなあく、柔らかかったような気がして視線を下に向けると、そこにあったのはかわいいつむじ。
「ママぁ・・・??ふっく・・・」
「・・・・おん??」
パチッと視線が合う。
「マ"マ"ぁーーーー!!!うえあーーーん!!!」
「え??」
「ママあああああああ!!!」
「・・・・・俺・・ママ??」
必死にこらえていたのであろう涙が、俺と目が合った瞬間あふれ出してしまった。
どうやらこの3歳くらいの女の子は迷子らしい。
女の子の泣き声はするものの、周囲のマダムや、アヴァンギャルドな青年グループは仁を避けるようにして通り過ぎていく。
迷惑そうな目。気まずそうな視線を向けるものの、こちらを手助けしようとする様子はない。
仁はどうしたらよいのか分からず、とりあえずあの手この手で、この子に事情を聴こうとした。
しかし、「ママは?」と聞くと、「ママああああ!!!」と余計声が大きくなるばかりか、鼻水まで大噴火。
「とりあえず道の端に寄ろうか?」というと、「うわああああ!!」と歩くのを拒否。
どーしようもねえ。と、視線に合わせしゃがんでいた体制を元に戻し天を仰ぐと、ぐわし!!っとズボンを握られた。
・・・逃がす気はないらしい。
・・・・ほっとくつもりはもともとなかったけど。
涙で前が見えないだろうその子は、もちもちの手で俺のズボンを握り締めながら、いやいやと首を振る。
ヒックヒックと、喉から嗚咽が漏れていた。
「しゃーねえなあ。嬢ちゃん。じゃあ一緒にママ探すか???」
やんわりと手を外させて、しゃがみ込み、両手で腫れ始めた目に浮かぶ涙を拭く。
「歩けそう??」
いやいやと首を振る。
「名前は??」
「・・・・あーたぇん」
ふわふわの髪の毛とお花柄の可愛いワンピースがとても似合っている。
「よし。じゃあ。あーちゃん。にーちゃんの頭しっかり持っとくんだぞ。」
「う?」
「・・・ほっと。」
「!?」
頭が重いことに気を付けながら、俺はグワッとわきに手を入れ持ち上げる。
急なことだったので女の子も頭で理解できていない様子。目をシパシパ。
本当は肩車しようと思ったが、あまりに軽すぎて、目の届くところにいてくれないとちゃんといるか不安になった。なので、その案は却下し、片腕に腰掛けるような形で抱き上げ、首に手を回させた。
「よし。大丈夫か??」
「キャッキャ!!」
驚かせてもっと泣かせちまったか・・・??と思ったのも束の間。腕に乗る女の子の目は腫れていたものの、涙は引っ込み、弧を描いていた。
3歳児ってすげえなあ。もう笑ってらあ。
この子の将来が逆に心配になって来たぜえ・・・。
でも、これで泣かれていてももっと困ってたから助かる。
「じゃあ行くぞ!!しゅっぱつしんこーー!!」
「こー!!」
迷子の3歳児に、東京迷子予備軍。
カードとしては心もとないが、気分は最高。ポテンシャルも最高。
舞台は六本木ヒルズ。
任務はママの探索。
**********
「どうだ~??ママいたか~??」
「あえ!!あえ!!」
「お!!あっちか!!」
「ってちげーじゃん!?!?これはどう見ても青いし、3頭身だからママじゃねえよ!?!?」
「あえ!!あえ!!ぱーま!!ぱーま!!」
「ええ??パパとママ??」
「ア〇パンマンじゃねえか!?!?・・・ってよく知らねえんだけどさ。」
「ごえしゅごいの!!」
「え?すごいのか??」
「ぱーま!!ばーんて!!ばいばいーよ!!」
「へえ。なるほどなあ。」
「ちーじゅもいゆ!!」
「ちーじゅ・・???・・・わり。わかんねえわ。」
*
「ねえねえ。あの人かっこよくない~??」
「え?どの人??」
「あの人だよ!!背高くてあきらかオーラ違う人!!」
「あ、一瞬で分かった。あの腕に女の子のっけてるイケメンね。」
「そうそう!!さり気なく見えるあの二の腕の筋肉感とかやばくない!?!?」
「確かに!!あの顔で!!」
「そう!!綺麗系イケメン!!hshs」
「きゃー!!写真撮りたい!!」
「わかるー!!」
「あ!!でも、そんなことしたら普通にきもくね??」
「そうだけどお・・・・。」
「・・・まあぶっちゃけ私も撮りたい。なかなかお目にかかれぬ綺麗系イケメン・・・。」
「ああ!!・・・目の保養がいってしまう・・・。」
「許可取れば・・・・有か無か。」
「・・・・欲望に忠実であれ!!」
「wwwwww」
「あら。見てあなた。あの青年。」
「ん??どーしたんだ??」
「かわいいわねえ。腕に妹ちゃんかしら??それとも娘さんかしらね。楽しそうよ。」
「ん??・・・・すごい劣等感を感じる。」
「???あらどーして??」
「いや、別に。」
「???顔も、パパ力もあなた負けたとか思ってるくらいでしょげないでよ。全く情けない。」
「え・・・。正直に言いすぎなのでは???」
「じゃあ、明日の掃除洗濯はあなたがやってくれるの???」
「え・・・あ・・・」
「やってくれるの???」
「あ・・・・。」
「やってくれるのね??」
「・・・・はい。」
「あれ見てみ??やヴぁくね??」
「どーしたの??たけちゃん??」
「あの感じの筋肉つけて見たくねェ??」
「確かに細く見えるけど、結構がっちりしてるね。」
「だろォ?おめえもよォ。そんなヒョロヒョロでなよなよじゃあモテねえぞ??俺っちに置いてかれても知らねえぜェ??」
「どうしてたけちゃんはモテると思ってるの?」
「顔、服はよしだろォ??後たりねえのはって考えたら筋肉だろォ??」
「うーん。」
「なんだァ??」
「あ。嫌やっぱやめとこ。」
「言えよォ!!気になんだろ!!」
「そう??そこまでいうならここで言っとこうかな。僕も君が傷つくのは見たくないし。」
「???」
「たけちゃん。そんなに顔はよくないと思うよ。控えめに言って中の下。控えめに言わないで下の下。」
「!?!?」
「うん。10年位前から思ってたんだ。」
「!?!?俺っちショック!?!?」
「はあ~すっきりした。」
「言い方ひどくねェ!?それにもうちょっと早く言って欲しかった!?!?10年何してたのォ!?」
※その後、女の子たちは仁に許可を取り、写真を撮りました。
追記の追記としては、夫はひそかに筋トレをはじめ、たけちゃんは金髪をやめた。
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