第15話 お披露目会と俺
「どう?どう??」
俺はとうとう動画を投稿した。そして、動画を自分でも観る。
今は、パソコンで配信をしながら、スマホで動画を見ている状態だ。
<え?>
<え?>
<え?>
「やっぱすごいよなあ。編集。俺やってないんだけどさ。やってくれた人がすっげえ上手えのな!!」
画面を見たら、皆の反応が「え?」で埋まっていた。
わかる。わかるぞお~。俺も最初見たときはあごが外れるかと思ったからなあ~。やっぱり編集長は名前だけの編集長じゃないんだよ。しっかり俺のケアから編集までできる最高で最強の編集長なんだぜ!!
他人事ながら、皆の反応に、まるで自分が褒められたような誇らしさを感じた。
この動画の醍醐味は編集長の編集と、皆の要望通り撮らせていただいた、家族の様子だ。
期待以上のものが見れたと思うので、皆が呆然とするのも無理はない。
「この臨場感を演出すんの、ぜってえ俺だったらできないわ。」
改めて動画を見ながら、効果音とか風景だけを切り取る技術とか、カメラがぶれる感じとか。どこまでも行き届いた、こだわりを感じさせる編集に俺は心を奪われる。
流石編集長。と、腕を組み、うんうんと頷く。
<ちげーよ・・・。>
<私が思ってたんと違う・・・。>
<すげえ・・・。>
<あれ?ほのぼのはどこへ。>
<Japanese Ninja!?!?>
<重力感じねえ。>
「あ、知らない人のために言っておくと、灰色の毛をした狼犬がクレイ。雌な。で、黒の毛をした狼犬がシュヴァルツ。雄。で、虎柄が甲斐犬の虎徹。全員可愛いんだあ~。ほら挨拶!!」
配信の様子はいったん置いといて、知らない人もいるだろうと、俺はピューイと指笛を鳴らした。
「ヴォフ!!」
「グル」
「ワン!!」
「よーしよしよし偉いぞお~。」
部屋の中で思い思いに過ごしていた彼らが返事をする。
しっかり指示にも反応できる超優秀な猟犬たちだ。思わずにんまりとしてしまった。
「どうだ??聞こえたかな??」
この可愛さと賢さにやられる人続出しているだろうな。
顔のゆるみをそのままに、画面を覗く。
<脳の処理能力を超えてる・・・。パルクールを森でやってるみたい・・・。>
<本当に同じ人間なんだろうか・・・()。>
<↑パルクールそれな!!!>
<カルマって人間??>
<お声が!!!しっかり返事してるう!!!>
<もふ・・・もふ・・・>
<肉食べてる様子が狼にしか見えん。>
<なんで気配とか感じれるのかが分からない。>
あれ。挨拶に触れてる人が少ない・・・???
どちらかというと俺に対する、同種であることへの疑問の数々と、容姿に関するコメントで溢れていた。
どうやら俺の走る様子と、シュヴァルツたちの走る姿に目がくらんでいるようだな・・・・。
まあ、いつもより張り切って遊んでたのは確かだな。運動量は普段の2倍くらいかも。
ていうか、皆はどうやって動画を見ているんだ??俺みたいにしてるのか?という素朴な疑問がここで浮かんだ。
<てか、カルマ先輩すげえ顔小っちゃくね。>
<狼犬が小さいのか、カルマ先輩が大きいのか・・・>
<犬たちと並んで走ってる姿めっちゃかっこいいんですけど!!!アシ〇カみたい!!>
<↑お前に〇ンが救えるか!?!?>
脳内で素朴な疑問を少し考えていたら、いつのまにかコメント欄は知らない内容で盛り上がっている・・・。
俺の顔がちっちゃいのか大きいのか問題からなぜ、誰かもわからん人を救う話になるのだろう。言葉がおしゃれすぎてたまにわかんなくなるんだよなあ・・・。
俺は必死に何度も文章を読み直したのだが、解読は断念した。残ったのはシパシパになった俺の瞳だけ。
「なんか俺の知らん内容で盛り上がってる・・・・。」
ひでえよ。皆俺を置いて、勝手に!!誰も説明してくれねえし!!
人知れず疎外感を感じた。同じ言語を話しているはずなのに。
「クレイ~皆が俺を無視するんだ!!!」
「グルル・・・。」
悲しそうな声をあげる俺にそろりと近づき足を温めてくれていたクレイ。
やっぱり、俺にはお前しかいねえ!!
ヒシっと彼女にしがみつく。毛皮からいい匂いがした。
彼女はフンっと鼻息を鳴らしたかと思うと、しょうがない人ねえ、というようにぺろりと俺の頬をなめる。
「ヴォフ!!」
すると、クレイと俺が遊んでいると思ったシュヴァルツが突撃してきた。クレイとは反対側から2本足で立ち上がり、髪の毛をなめる。じっちゃんもそうだけど、髪の毛をよだれででろでろにするといつも「こらあ!!」と言って追いかけているので、彼にとって遊びとしか認識されていない。
「シュヴァルッ・・・ちょ・・お前!!!でろでろになるだろが!!!」
右手で、シュヴァルツの顔を無理やり離させた。
手によって押された彼の顔はお世辞にもかわいいとは言えない。肉が寄せられて、目は半分も開かれていないばかりか、鼻の穴は押されて豚のようになっている。
・・・・・ぶちゃいく。
「ヴォフ!!!ヴァウ!!!」
ムキッとシュヴァルツの足に筋肉の筋が浮かび上がる。対抗する気だ。
「ちょ・・・まじで・・・。今はだめなんだって!!!・・・ちょ・・・!!」
「ヴァルルル!!ヴォン!!」
「だから〜!!そこはダメだっていつも言ってるだろ!!・・・ちょっと!!・・虎徹!!!」
右にクレイ、左にシュヴァルツの俺は、うまく力の入る体制をとることができない。救援信号を、座布団に寝転がり、ヘソ天している彼に送った。
「うへえ。べとべとだ・・・。」
「ワンワンワン!!ワオーンワンワン!!」
「ヴォフ・・・」
「ワン!グル!!」
「クルル?・・・クーン」
虎徹の制裁により、シュヴァルツは大人しくなった。
どことなく反省した顔で、お座りをする。しかしよく見ると、彼の尻尾は若干揺れていた。
これ実際はそんなに反省してないからね。内心虎徹に構ってもらえて嬉しいとか思ってるから。
俺はよくやったと虎徹を撫でて、視線を画面に戻した。
ちなみにクレイは、シュヴァルツが怒られている時も動じることなく俺の頬をなめ続けていたぜ。
<ごめん!!ごめんよ!!謝るから!!>
<俺も謝るから!!!>
<ちょいちょいちょい・・・>
<なんか・・・聞いてはいけないものを聞いてしまった気がするわ。>
<・・・・・_(:3 」∠)チーン>
<衛生兵ー!!!衛生兵はおられるかあ~!?!?>
<た・・・たぎりますなあ・・・。でへへへへ。あ、初見ですどうも。>
<開いてびっくり急にAVが始まったんと思うたわwwww>
俺が画面見ていない間に大分視聴者が増えたみたいで、さっきまで20人前後だったのが、今は60人近くいる。
しかも、誰もがそろって「やめて~」とか「ごめん」とか何かに攻撃されている様子。
心当たりがなさ過ぎて、なぜだ?と、俺は首をかしげる。
「え、どうしたん??」
<どーしたっておま!!>
<でも実際見たら和みそうなことが起こってそう。>
<自覚なしかーいww>
<草のアイコンで騙された(*´Д`*)>
<しかも結構見てる人がいるっていうね。>
「なんか見てる人増えたな。なんでだ??」
コメント欄がなんで気づかねえんだよ!!一色に染まる。
が、そんなこと言われても心当たりがないものはしょうがない。ごめんと言われても、良いよというくらいしかできないのだ。
「あ、ていうか話は変わるんだけど。」
<え??スルー??>
<草>
<動画から来ました。動画もすごかったんだけど、本人もすごかった件について。>
<分かりみが深いですね。サムネを見てチャンネル登録しました。>
<たぎるのでチャンネル登録しました。>
<↑お?腐女子か!?!?わいはAV聞きに来たんだけど。登録しました。あ、これはアニマルビデオって読むんすよ??>
<草>
<やめろwww>
<せやなwwwそれは確かにAVやww>
なんで急に見てる人が増えたのかと疑問に思っていたけど、動画から来たのかあ。”狼犬と甲斐犬と俺で散歩”って名前にしたんだけど、そんなに変な題名だったかな・・・??ただ散歩しただけなのにAVとはこれいかに。
あ、でもアニマルビデオってんなら合ってるか。
「俺、uwatwitter?始めたからよ。これからはそっちで動画の日とか、配信の日を言うようにするな!!配信で約束するのも、ちょっと楽しかったんだけど、やっぱ不安だしな。」
<話変わりすぎ笑>
<しかも約束って言い方よ。>
<確かに懐かしいものはあったなwww>
<初見です~。動画すごかった!!>
<おおおお!!!やっとか!!>
<てか、YouTube→uwatwitterってなかなか珍しいよなwww>
<流石カルマ先輩っす!!>
その後も、クレイたちとじゃれあうたびにこんな感じの会話が繰り広げられることになるのだが、仁は最後まで、ピンとくることはなかった。
「多分俺とクレイたちのわちゃわちゃの事を言ってるんだと思うんだけど、これ、じっちゃんともよくやってるからなあ。何をそんなに騒ぐのかよく分からねえなあ。」
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