第3話 東京観光と俺
「え、どゆこと!?!?!」
じっちゃんの予定が狩猟免許の取得ではないことが発覚した夕方16:00。
話を聞いたところ、
狩猟免許を取ってしまったらもうずっとあの集落で生活して、結婚もせずに犬と戯れて死を向かてしまうと、ばっちゃんに涙ながらに訴えられたらしい。
さらに、20歳にもなるのに首都に行ったことがないのは世界を知るという意味で、よくないことだから1度は連れて行くべきと言う内容も、後日追加で言われたんだとか。
じっちゃんの顔は苦々しいものに変化する。
「わしは都会に染まってしまうのを見たくないと言ってのお、本人の好きにしたれ、いうたんじゃがのお・・・。」
せめて1回くらいは連れて行ったって下さい。と言われてしかなく東京に連れてきたんだと。
え、でも普通俺本人にその意図は確認するくね?行くよくらいの言葉はかけてくれてもいいんじゃね?
「え?言うたぞ?ほれ、庭で遊んどったときじゃ。」
え?そうなの?遊んでたってことは、狩猟免許取るかって聞かれた時だよなあ多分。
ーーーー
ーー
ー
「狩猟免許でも取りに行くかね??」
「おおおおおお!!行く行く!!!」
「ほっほっほ。」
俺はテンションが上がって庭に駆け出した。黒の毛皮をまとった狼犬のシュヴァルツ♂と灰色の毛皮の狼犬のクレイ♀、
「そうじゃ、今度東京行くからの。」
「はーい!!」
なんて言ってたか聞こえなかったけど、今度行くって言ってた気がするから、免許の話だろう。
とりあえず返事をした。
ー
ーー
ーーーー
そうそうこんな感じだったなあ。確かに言ってたような言ってなかったような。
嬉しさから、今旬の琵琶の実をむしり取って、3人全員にあげてたからしっかり聞いてなかったんだよな。うん。
「そうだったかも。俺講習受けに来たんだとばかり思ってたわ。」
「違うぞい。」
たははっと頭を掻いて笑顔を向けたのち、ゆっくり表情を普通に戻す。
「てか1週間も何すんのさ。」
自分の間違えは認めよう。俺の心だけが犠牲になっただけで誰の迷惑もかけていない。後ろめたいことは何もない。
そこで浮かぶのはこの一週間何をするのかということ。
「観光じゃよ。観光。まあ一番の目的はお前さんの携帯電話とか、パソコンとかを買うことだけどのお。」
「??別に要らねえよ?俺、声で大体集落の人とは連絡とれるし。」
「そのやり方だと、さすがのお前も集落の外の奴らとは連絡とれんじゃろが・・・。」
原始的かと思ったあなた。やまびこというものを利用した、超自然的な連絡手段だ。よく俺の声がうるせえって近隣住民から文句が来るけど、そういってるあいつらもやまびこ使ってるから、お互い様だ。
外の奴らとの連絡?それはちょっと厳しいな・・・。基本集落にしかいない俺は外の奴らの武勇伝を聞くのが大好きだ。牛が暴走してはねられたとか。ヒッチハイクしたら、どこぞの組のもので、なぜか気に入られたとか。
まあ、だからと言って外に出ようとかは思わなかったんだけどな。十分快適だし。
「でも家に電話ついてんじゃん?」
「携帯はできんじゃろが。」
家の電話じゃダメなのか・・・。
「ていうかじいちゃんも携帯は持ってないじゃん。」
「わしのも買う予定じゃよ??お揃いじゃよ。お揃い~♪」
「げええええ。その年でお揃いはきっつう~!まじきっつ~!!!」
携帯電話を買うのは決定事項らしい。
まあ、買うのはいいとして、流石にじっちゃんとお揃いは嫌なんだが・・・。
眉間に皺を寄せながらも、じっちゃんの様子を確認してみる。
もう既に、当の本人は、「うおおお!!来たぞい!!ジャパ〇ットたたたじゃあ!!」とテレビの画面に引っ付いていた。どうにも本気とは思えないんだけど・・・。たまに本当だったりする。
じっちゃんのああ言う話は冗談か冗談じゃないかわかんないから時々困る。
もう一度聞いたところで同じ返答が返ってくるだろう。
俺はもうどうなでもなればいいさと、ため息を吐いた。
必要のない情報かもしれないけど、一応追加しとく。彼のトークがじっちゃんのハートにドストライクなんだと。
*******
東京・池袋。様々なお店が立ち並ぶ。
今回の目的は携帯電話、パソコンなどの情報機器の購入だ。
池袋にはカワダ電機や、ピッグカメラの本店があるため、いろいろ買うにはもってこいなんだそうだ。
昨日もそうだが、電車に揺られながら、窓から東京の風景を観察していた。
・・・本当に自然が少ない。
あとは、でかいテレビがビルについていて衝撃的だったし、皆が携帯電話をじっと見つめているのもなんだか不思議な感じだった。
小さな箱を見つめる社会人、パソコンなるものをカタカタ動かす女性。本当に別世界に来てしまったなあとしみじみ感じる。
電車を降りて、どでかいビルの中に入る。
俺はもうビルでも驚かない。何があっても動揺などしないさ・・・・「すげえええ!!!」・・。
ね?。
そこには所狭しと商品が並んでいた。そのほとんどが初めて見るもの。
こんな小さなものが掃除機!?!?何!?自動で掃除してくれるのか・・・。目を離していても大丈夫なんだよな!?!?
炊飯器極上!?!?俺の家の炊飯器は最新だと思っていたんだが、あれよりも上があるだなんて・・・・!!!
「すげえええ!?!?!」「あ、あれもすげえええ!?!?」「あ、あっちも・・・。」
すぐに目移りしてしまってウロチョロしてしまう。
「これ。静かにせんか。この階はあとで来る。とりあえず上に行くぞい。」
すげえええと、目をキラキラさせていた俺の頭を軽くはたいたじっちゃん。田舎者がばれるぞいと言われたが、もうこの際ばれてもいい。もう少し探検させてほしい・・・。
しかし、その願いが叶うことはなく、ずるずると襟首をもって引きずられていく。
あああ!!!あのチカチカした奴はなんだ!?!?見させてえええ。
「全く。後で来るんじゃからいいじゃろ。はしゃぎすぎだ。」
「ふおおおおお!!」
どこまでも怪力過ぎて嫌になるぜ。
上の階に移動し、その階のとある一角に向かう。
”docodemo” 看板にはそう書いてあった。
「いらっしゃいませ~。」
「おう!お邪魔するぞい。」
店頭に立っていた店員さんを捕まえて、じっちゃんが会話を始める。その隣で話を聞いていたが、月額だの。jphoneだの。よくわからん単語が並んでいた。
難しい話ばかりで顔が引きつりそうになる。
そんなこんなであくびを我慢していると、ふと、視界の端に白い台の上に張り付けられている、商品が見えた。
皆が持っていた携帯電話がたくさん並んでいて、お試しできるのか、いくつかはチカチカ光っているようだ。
じっちゃんに「ちょっと向こうの見てくる」と一言断りを入れて、その台のほうに近づく。
一番手前にあった携帯電話を覗いてみる。
ーーーーーー
「ドカーン!!・・・よっしゃワンキル!!」
「ん?SWの方向で別パがバトってんな。」
「うわっ。ミスディレクションとかずりーぞ!!」
「はっはあ~!!!1位打ち取ったりい~!!!」
ーーーーーー
画面に流れるは何やら戦闘している人と人。銃を使ったり、刀を使ったり、様々な攻撃方法で人を倒していた。
「なんだこれ・・・。」
現実でないことは何となくわかるが、それをどうやって動かしているのか分からない。しかし、動かしているであろう人の声と、複雑な挙動をする、画面の中の人。なぜだかとても、心が奮い立つような感じがした。
「すげえ。俺のじっちゃんより命中率良いんじゃねえの・・・??」
森の中で銃を持てば、必ず獲物をとってくると言ってもいいほどの腕の持ち主であるじっちゃん。知る限り一番だ。
そんなじっちゃんより、画面の中の人は命中率がいい気がする。ほぼ確実にヘッドショットを決めていた。
もう一つの携帯電話を覗いてみる。
ーーーーーー
「そそそそこにいたのかあああ!!!急に出てこないでええ!!!」
「ああああ!!回復う!!回復うう!!衛生兵はどこですかあ~!!!」
「あ、ここで終わり・・・・ぎゃあああ!!!」
「今度こそ終わり??終わりだよね?・・・終わるんかい!!」
ーーーーーー
とても暗い室内をのそのそ進む画面の中の人。襲い掛かる、とても人間とは思えない人間。それがどんどん、襲い掛かってくる。
頭を撃っても死なないだなんて・・・。恐ろしいゲームだ。ん?何だ・・・ゾンビ・・・ボス・・・??
横文字俺無理。
ただ・・・
「すげえぞくぞくする!!!」
緊迫感と言い、何が起こるのか分からないわくわく感といい。実際に動かしていると思われる動画の人とシンクロして、この登場人物を動かしているような気になれた。
「どれも面白いや・・・。俺もやってみてえ・・・。」
「やればいいじゃろが。」
「うおおおおおお!?!?!」
完全に世界に入り込んでいた。
俺の後ろにいたのは携帯電話の購入が終わったのか、紙袋を持ったじっちゃん。ニコニコほくほくの顔でピースをしていた。
「あ、携帯買ったの??」
「おう!お揃いじゃぞお?」
「え????」
「嘘じゃ♡」
「え!?!?!?」
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