第4話 様々な出会いと俺
じっちゃんに話しかけられてびっくりした俺は、下の階に向かいながらさっき言ってたことについて聞いていた。
「どゆこと?俺もやればいいじゃんって??」
「?そのまんまの意味じゃよ?あれはゲームだからなあ。こないだ光回線引いたじゃろ?だから家でできるぞ??」
「そーーなの!?!?」
ゲーム。あれがゲームだというのか。
俺は今までカードゲームとかパチンコとかしか知らなかった・・・。
テレビがそもそも家になかったし、ゲームとかも街に行かないと無かったから触れる機会がなかっただけだ。別に言い訳してる訳じゃない。
でも、こんなん知らなかったなんて・・・損した気分になるぜ・・・。
外に出てった奴らも話に上がらなかったしなあ・・・。
「じゃ、じゃあこれやりたいんだけどさあ・・・??買っていい??」
何を買うのか知らないけど、できるんならやりたい。
「ええぞお。ただし、やるからには稼いでもらわんとなあ。」
「え、稼ぐってどゆこと??」
ゲームって楽しむもので、仕事ではないと思うんだが・・・。このじじい、まさか、買ってやるからどっかに働きに行けって言ってんのか??
「え、働きに出るのは嫌だぜ?俺将来は猟師って決めてんだ。」
昔からずっと言い続けてたと思うんだけど・・・。
「なわけなかろう。将来はむしろ猟師になってもらわんと困るわい。山から害獣祭りになってしまうじゃろうが。わしが言ってるのはYouTuber?っちゅうもんで稼げというとるんじゃ。」
「YouTuber??」
YouTube。横文字に弱い俺が初めて聞く言葉だ・・・。
それはインターネットが繋がる機器、パソコンやスマートフォンから見れる動画サービスアプリらしい。そのアプリで見れる動画というのは、個人で撮影した動画が大半だそうだ。
母数が多く、数多の種類のコンテンツがそろっている。その中でもゲーム実況というのは人気の高いジャンルだそうで、そこでの人気争いは苛烈らしい。
収益化。俺が狙えと言われているのは、お金が稼げるほどに視聴率。激戦区に飛び込めと。じっちゃんはそれをやれと言っている。
「それにのお?ただの?ゲームだけじゃなくての?わしらの集落の紹介もして欲しいと思うてるんじゃ。」
集落の紹介??ゲームの実況と集落の紹介とを、情報機器全般初心者の俺にやれというのは無理があるんじゃなかろうか??
「最近出てくものが多いでのお。残った畑や、いなくなってしまった家が可愛そうなんじゃよ。修理とかはわしらでできるから、新しく住んでくれる人がいないかと思うてなあ。」
確かに最近外の世界で活躍する人が増えてきた。10年前までは100人くらいあの集落にいたはずなんだけど・・・。
「人気になった時に仁がそれを宣伝してくれたら、きっと人が来ると思うんじゃあ。」
そういうことだったら、俺も気合入れてやんなきゃいけねえなあ。仕組みが全く分からないけど、宣伝はしなくちゃ人は集まらねえ。・・・ていうか、そもそもそれが目的でYouTuberやれとか言って来たんじゃ・・・。
ハッとなって横に並ぶじっちゃんを見ると、片手でオッケーマークを作り、「正解」と言ってきた。
なるほどなるほど。それが俺にゲームを勧めた理由ということか・・・。山で遊ぶ以外ほとんど犬たちとゴロゴロしている俺ならば大丈夫かあっ・・・て。
じっちゃんは何もしねえのかよ!?
え?パソコンも携帯もゲーム機も買ってくれる!?!?そのために工事もしたって??え、じゃあ何?もともとこれ買うために来たの?東京??
それもある??・・・はめやがったな。ばっちゃんが涙ながらってのは嘘かよ・・・。
それは本当??どこまで本当??
まあいい。・・・とりあえずゲームはできるんだな??そうなんだな??
金は出世払いで返せ?がめつすぎだろう・・・。20歳祝いとか言えねえのかよ・・・。
******
さまざまな機器の説明を右から左に聞き流して、ゲーム実況なるものができる一式のものを店員さんに選んでもらった。
女性の店員さんだったんだが、じろじろ見られたのがすごく嫌だった。
「何て名前でやるんですか?」
って聞かれて、
「俺の名前は 軽米 仁 ですけど。」
って答えたらすごく笑われて。「チャンネル名ですよ~笑」って笑いながら言うもんで、ちょっとムスッとして、なんですかそれって返事をした。
店員は「ええ!?!?」と驚きつつ「お客さん面白いですねえ」と、しなだれかかるように俺の腕に触れる。そして、そのままの状態で、彼女は説明を始めた。
YouTuberになるにはどうやらチャンネル名なるものが必要らしい。また一つ、考えないといけないことが増えてしまったな・・・。
その後、1言2言会話をして、俺はその場を去った。
親切な店員だったんだけど、あんまり長居したくなくて、ちょっと強引に話をぶった切ってしまった。
機材一式を購入し終えたときには、このビルに入ってから2時間も経過していた。機材などは、後日届けてくれることになったため、身軽に観光できる。
ビルを背にして立つ俺とじっちゃん。
「仁。次はどうするかね??どっか行きたいところはあるか?」
財布をカバンにしまいながら聞くじっちゃん。
といっても俺東京の事よく知らねえし、どこ行こうにも迷子になる気しかしねえし。ていうか東京に来た目標今日一日で達成してるんじゃね?って思わなくもない。
「俺全然ここら辺のこと知らねえから、じっちゃんのおすすめでいいよ。」
「そうかの?じゃあ、ばあさんに頼まれてたのをやっていくかあ。」
ばあさんからの頼まれごと?
「行ってらっしゃ~い」と快く俺たちを送り出したばっちゃんに頼まれたことなんてあったっけか?記憶がない。
首をかしげる。
「何頼まれたんだ??」
「おめえの服。」
ああ。そーいうね。
ばっちゃんはよく俺に街に行きなさいと言っていた。
その服は何なの!?とかも結構言われてた記憶がある・・・。いつも「はいはい~。」って言って流してたけど。とうとう我慢の限界が来たか。
ま、俺も穴の開いた服を着続けるのもどうなんだ?って思ってたからちょうどいい機会か。
じっちゃんと俺がどこの服屋に行こうかって相談していると・・・。
「すみませーん。」
髪型がボブ、頭の頂点が金で、襟首がピンク色の女性?が近づいてきた。服は女性もののスーツといった感じだが、どうもその声は低く感じる。
「なんすか??」「どうしたんじゃ?」
「突然すみません。私こう言うものなんですけど・・・」
走って近づいてきた彼女は、膝に手をついて軽く深呼吸をすると、カバンから名刺を取り出して自己紹介を始めた。
その名刺は俺に向けて差し出されている。
「「+プラス???」」
名刺にはドでかく”+プラス”と書かれていた。”たすぷらす”と読むらしい。もちろん聞いたことがない。
「はい!お2人は+プラスという雑誌をご存じでしょうか??私、そこの編集長をやらせてもらっている、
性別はどちらで対応したらいいんだろう・・・。
俺たち2人が呆然としているうちにすいすい話は進んでいく。
目で早く名刺受け取れよって言われた気がしたので、俺は慌てて名刺を受け取った。
彼女の笑みは深みを増す。
「ありがとうございます。それでですね。お爺様。お孫様が大変麗しいなと先ほど目を奪われてしまいました。そこで、弊社のモデルを是非やって欲しい、と、お願いの打診に来た次第でございます。」
ニコニコ顔で話しかけるもんだから、いろいろ聞きたいことはあったんだけど聞けなかった。話の腰を折っちゃいけないと思わせる何かを彼女?は持っている。
彼女は俺が名刺を受け取るやいなや、今度はじっちゃんに目を向けた。
「当然、突然の事ですから、戸惑いはあるかと思います。ですが、その美しいルックス、それとは対照的な逞しい体格。顔の小ささや、180はあるであろう背丈、スラっと長い手足。その要素全てが私の目を引いてしまうのです。」
「是非!!是非!!検討してはいただけませんか!?!?」
彼女の言葉はどんどん熱が帯び始め、最後の方に至っては、ずいずい顔を近づけ始める始末だ。
俺とじっちゃんはその熱意に少しのけぞる。
「お爺様!!お孫様!!いかがでしょうか!?!?」
こういう人にどう対応してよいのか分からず、顔を見合わせる俺たち。
ただ、1週間もすれば熊本に帰ってしまうため、検討も何もない。NOの返事を彼女にしようとしたその時。
パタパタ・・・
俺の鼻から赤いものが垂れ始めた。
ぎょっとする、+プラスの編集長とは対照的に、”あちゃあ~”という顔をするじっちゃん。
あ、やべえ。
昨日の顔面スライディングと環境のストレスが一気に来たらしい・・・・・鼻に。
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