第6話 思い出と俺

 今俺は、行きと同じ、飛行機というものに搭乗している。

 これから2時間のフライトだ。



 一週間の東京滞在で、今まで知らなかった事や物。今まで出会ったことのない個性豊かな隣人を知ることができた。

 ゲームだけでなく、生活の仕様から何から何まで、俺の知る世界とは違っていて。外を知るってこういうことなんだなあと、不思議な感じがした。


 この飛行機も、俺にとっていい経験となるだろう。


 さて、これから熊本の家まで帰るわけだけど、2時間くらい暇な時間ができちゃったから、この初めてだらけの1週間を軽く話そうかなあなんて思ってる。

 もちろん、全部話せるわけじゃないぜ?


 俺から見た世界がどんな風に見えていたのか。少しでも知ってほしいと思うんだ。



 ******



「はい!!ここが、原宿通りよ!!若者のファッションの最先端が揃っているわ!!」


 鼻血を出した後、本性の露出が激しくなっていた編集長は、とうとう、敬語を使うのをやめた。



「す、すごいのお。なんと表現して良いのかわからんが、すごいのお。」

「だ、だな。じっちゃん。これまた違う雰囲気に飲み込まれそうだぜ・・・。」


 道の両側にそびえたつビル。だが、ホテルの近くにあるものとは少し違っている。ピンクとか水色とか。目に優しいような優しくないような。そんな色をしていた。


 歩いている人の服装もこれまた違って、足を出している女性やいかついアクセサリーをしている人。そこにも穴が開いているのか!?!?と、思わず叫びたくなるような人もいた。


「ここでとりあえず、今どんなものが最先端なのかを学んで、似合う服があれば買ってくって感じにしましょう。服は他の場所にも行くからここで買わなくても大丈夫よ!!」


 編集長は意気揚々と不思議な道に歩みを進める。

 俺とじっちゃんだけだったら絶対に足を踏み入れようとは思わなかっただろう。

 少しワクワクしながら、彼女の後を追いかけた。




「ほら、あれとか見たことある??」

「すげええ!?!?初めて見た!!」

「なんじゃ!?フルーツが乗ってるようじゃが・・・??」


 とてもいい香りのする、カラフルなお店だった。バナナとか、イチゴとか。クリームも乗っけてあって、こんな食べ方あるんだあ~って感心しちゃったね。

 薄い生地を木の棒で伸ばすのは、家の畑でやったことあるから、俺もできそうな気がした。


 **


「ここは、古着屋さんね。」

「え、古着とか買うの!?!?」


 古着と言ったら、もうぼろぼろのでろんでろんだろ??わざわざ買う人なんかいんのか!?!?


「服は高いからね。結構着てる人は多いわよ??」


 そうだったのかあ・・・。皆意外と貧乏なんだなあ・・・。

 俺は血の付いたシャツを眺めながら、これ欲しがるのかあ。と少し東京の人が心配になった。


「わしたちは、古着は掃除道具にしてるのお。それを売ってるのかのお??」


 じっちゃんもあんまりピンと来ていない様子。

 掃除道具は掃除道具屋さんがあるだろ。流石にそれはねえよってじっちゃんに突っ込んどいた。


「あの・・・言っとくけど、仁君の今着てるやつとかは、もはや商品にならないからね?もっと高い服で、数回しか着てないものとかを安く売っているのよ??」


 俺の顔はおしゃべりだ。表情から察した編集長が、俺の心の中にまで解説を入れてくれた。


 でもよ・・・


 まだ着れんのに売りに出すのか!?!?え??着れるんだろ??

 東京の人が考えつくことは難しくてよくわかんねーわ。



 ***



「この服は変じゃねえ??なんかすげえ、いろいろついてて邪魔だけど??」

「そんなことは無いわ!!とても仁君のいいところが出てるわよ!!しかも今は春だけど、ちょっと寒いし、これくらいが丁度いいんじゃない!?!?」


 白の裏起毛タートルネックTシャツの上に、薄手の黒のカーディガン。

 スキニーで足の長さを活かした、きれい目のコーディネート。

 最後にベージュのマウンテンパーカーを羽織ることで大人っぽいけど、親しみやすい、そんな雰囲気を醸し出せるようにしている。


「おお!!いいんじゃないかのお??お金のことは気にするな。早くそれ買うんじゃ。血の付いたTシャツは捨ててもらえ。」


 若干、俺に危害を加えた証拠を消そうとしているように聞こえなくもないじっちゃんの言葉に、編集長もウンウンと大きくうなずいている。


 マウンテンパーカーってのに、紐がついてんの気に食わねえけど、結構あったけえなこれ。


 服のデザインはともかく、服の性能の良さは気に入った仁は、この服一式を購入した。


 購入したお店から出た仁に集まる視線は、入店する前と後でだいぶ増えたのだが、彼が気づくことは無い。


 隣で編集長がどや顔をしていたのは、「どうよ?このカッコよさ?新しく入る(予定の)+プラスの専属モデルよ??」とほくそ笑んでいたかららしい。


 モデルなんてやんないよ?



 ****



 6日目は、東京の象徴、東京スカイツリーの観光に行った。


 不思議な人形がお迎えしてくれたんだが、あれなんて言うのかな。聞いたはずなんだけど、忘れちまったぜ。


 最上階の展望台からは、なんと、かの有名な富士山を見ることができた。めったに見ることができないって聞いてたから、見れたときはテンション上がったなあ。

 熊本にある阿蘇山とは全然違った。

 どっちも違ってどっちもいい・・・。


「ちょっとこっち来てみて!!ほら!!」


 編集長さんが、富士山を見つめていた俺たちを手招きして呼ぶ。

 そこには透明なガラスの床。


「うわあ。趣味わりい~。これ作った奴絶対にやにやしながら作ったぜ?これ。」

「仁や。お前さん乗ってみろ。」

「え??なんで俺?じっちゃんが乗ればいいだろ??」

「嫌じゃ。わしはまだ死にとおない。」


 こんな会話を床の前でしていたら、小さな5歳くらいの女の子がやってきて、スッと床の上に立ってこっちを見るもんだから思わず笑ってしまった。


 ぷく―とほっぺを膨らませてしまった女の子。


 笑いが収まった後、「ごめん。ごめん。」と言いながら、じっちゃんといい子いい子したのはいい思い出だ。

 流れで、最後に女の子と一緒に写真撮った笑


 あと面白かったのは、なんだかんだ編集長さんが一番写真撮ってーーー・・・???


 ・・・・じ・・!!・・・きろ!!


 ・・・じん!!


 お・・・じん!!


「起きるんじゃ!」


「仁!!」


「はあ!?!?!」


 どうやら俺は飛行機の中で眠っていたらしい。隣に座っていたじっちゃんが俺を起こしてくれた。


「もう着いたぞい。はよ、出る準備をするんじゃ。」


 他の人はもう飛行機から降りてしまったようで、前後左右に座っている人はいなかった。

 俺はじっちゃんに言われるがままに頭の上にある棚からカバンを取り出し、脱いでいた靴を履いた。


 回るベルトコンベアから、荷物を取って出口に向かう。


 あらかじめ飛行機の時間を伝えていたばっちゃんが迎えに来てくれるため、空港から家までは、軽トラで帰るらしい。


 運転席からこちらに手を振るばっちゃん。


 ・・・俺は荷台に乗車か・・・。まあいいけど。


 荷物を荷台に乗せ、しっかり固定する。

 じっちゃんは助手席に乗り、俺は荷台へ。


 荷台に座るとき、ポケットに入れていた携帯電話、jphonがこつんと音を立てた。このままでは傷つけてしまうと、俺はjphonを手に取る。

 手に取ったときに、振動か、手が触れたからか、ツルツルの画面が俺の顔を照らした。


 そこに映るのは、東京スカイツリーで撮った、俺と、じっちゃんと、幼女と、編集長の楽しそうにピースをする様子。


 ばっちゃんの「出発するよ。」の声掛けで、軽トラのエンジンがかかる。


 俺は、車が走り出した後も、しばらく画面をつけたままにしていた。


 西日が映し出した仁の顔には、笑顔が浮かんでいる。


 ・・・東京も悪いもんじゃねえな。




 ***

 親はたしなめていましたが、スカイツリーで出会った幼女にせがまれ、仁は親と連絡先を交換しています。写真も送ってもらいました。幼女はすごく仁になついています。別れる時はギャン泣きしてました。











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