第8話 YouTubeと俺

「ごめんなさいね。私もこれからどうしても抜け出せない会議があるのよお~。」


 YouTubeを使うためには何をしたらいいのか。Qooqleでアカウントを作って、メールアドレスなるものを作成して、uwatwitterを・・・という説明をしたところで編集長の時間がとうとう来てしまった。

 大体1時間くらい、仕事を中断してくれていたらしい。

 向こうの端末から、「編集長~??」という声が結構聞こえていた。

 まあ、その度に「仕事大丈夫っすか??」と聞いていたのだが。


「すんません。時間取って貰っちゃって。やっと出発地点に到着したって感じっすね。」

「いいのよお~。先行投資ってやつ♡でも、まだuwatwitterの説明を・・・・「編集長~???」・・はーい!!!」


 名残惜しそうに編集長はカメラを見つめる。


「そろそろ行かなくちゃ。困ったことがあったらすぐに連絡してね。」

「あざっす。」


 編集長は画面の俺にウインクをして、端末に手をかける。

 俺はそのまま電話が終了するのを待つ。

 そして、向こうの画面が何も映さなくなった時。俺はようやく解放された。


 パソコンの接続に、様々な説明。


 長い間付き合ってくれたのに、最後らへんとか集中力が切れちゃって、大分適当な返事しかしていなかった気がする。

 申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


「でも、これでやっとできるようになるのかあ~。」


 俺専用のパソコンに、携帯電話。これがあるだけで、今までの何倍も情報が入ってくる。正直俺には過ぎたものだと思う。


 でも、知らない世界に飛び込むってすげえわくわくするなあ。まだゲームやってねえのに、パソコンとかスマホとか。見るだけで心が震えるっていうか。

 感慨深いものがある。


「あ、そういえば、スマホでカメラできるんだったな。せっかくだし色々撮ってみよ~っと。」


 それからは写真大会だ。パソコンの写真も撮ったし、テレビの写真も撮った。もう一度、部屋全体の写真も撮ったし、シュヴァルツとクレイと虎徹の写真も撮った。

 色々画面に出ている四角いのを押すと、許可しますかって出てくるから、とりあえず怖くなって全部閉じたりもして・・・。


「今日は4時間くらい頑張ったしなあ。もういいよね??」


 ひとしきりスマホをいじって、満足した頃に時計を確認すると、もうおやつの時間になっていた。今からさらに、ゲームをするとなると体を動かさな過ぎて爆発してしまいそうになる。


「うん。俺は今日はしっかり働いたな!!」


 いっぱい考えたし、いっぱい悩んだし、いっぱい組み立てたし。

 なかなかの進捗ではなかろうか。

 顔を上下に動かしながら、自分に言い聞かせるようにして、俺は俺専用のパソコン部屋の扉を閉めたのだった。



 ******



「ふははははは!!久しぶりの森は最高だぜええええ!!!!」

「ヴォフ!ガウ!!」

「ウォン!」

「ヘッヘッヘ!!」




 at 畑

「おや。仁は森にいるのかい?」

「動かなすぎてムズムズしたんじゃろなあ。」

「すごい大きな声だねえ。またお隣さんから文句言われちまうよ。」

「ばあさんや。・・・気にしたことないじゃろ?」

「ないねえ。」




「ひゃっほおおおおおおお!!!!」



 ******



 翌日。

 再び俺はパソコンに向かい合っていた。

 パソコンのキーボードで、画面に文字を打つのはまだ慣れなくて、隣に文字の一覧表を置いている。

 一応な。


 何をしているのか。それはどうやって動画を撮ればいいのかの研究だ。

 生配信、予約投稿、編集、効果音・・・。調べれば調べるほど出てくる。YouTubeをやってる人全員これをやっているのかと思うと、本当に尊敬だ。

 色んな工程がある中で、トップオブ初心者の俺がまず何をすればいいのか。


 鉛筆を鼻と口の間に挟んで、椅子にもたれかかり、頭の後ろで手を組みながら考える。

 さらに、椅子の回転をプラスして、より洗練された境地に立ってみるも、いい案は一向に浮かばなかった。



「しょうがない。よくわからんことだらけだからこそ、実践あるのみ!わからないことはわかるまでやり続ける!!だな!!!」


 今俺が手に入れた情報は、動画の録画・編集という作業はパソコンのソフトウェアというものをダウンロードして行わなければならないこと。

 実写?なんて言うのかな、自分を写すときはパソコンに内蔵されているものでは無くて、別のカメラで撮ったほうがいいこと。

 スマートフォンからでも動画投稿することはできるということだ。


 他の人に比べて、パソコン、スマートフォン、つまり現代に遅れているというディスアドバンテージを持つ俺には、まず編集をするということはできるはずがない。


 カメラはあるが、それを使いこなせる気がしない。別のカメラを使う方法は取るべきじゃない。


 残った選択肢は今目の前の机に置かれている、スマートフォンで動画を投稿するということだ。


「こんな小さいので動画投稿できるのか・・・すごいな・・・。」


 早速、動画を録画するために、スマホのYouTubeのアプリを開いた。ただ、ここで問題が1つ。


「俺、チャンネルの名前決めてねえなあ。」


 そう。チャンネルの開設にあたり、Qooqleでアカウントとメアドの作成を行わなくてはいけないという問題だ。


 編集長に言われたのは、Qooqleの名前がそのままチャンネルの名前になるから気をつけろということ。メアドは必ず作る工程があるから、誕生日とか個人情報を使わないで欲しいと言うこと。

 あと、作ったらMineで必ず送ってほしいと言うことだ。


 チャンネルの名前かあ~と、再び鼻と口の間に鉛筆を装着する。


 他のチャンネルを見てみるが、明らかに本名ではない。〇〇物語とか、〇〇の〇〇とか。本人の名前からもじったのか、好きなものからとったのか。


「うん。めんどくせえから”秘境に住むカルマ”で良っか。小林でもいいけど、さすがに隣の人の名字を勝手に使うのもあれだしな。」


 アカウントの作り方を説明しているサイトを開きながら、秘境に住むカルマ、という名前でアカウントを作る。

 メアドもそのまま、hikyounisumukaruma@qmail.comにした。

 年齢は秘境ということもあるので、89歳。熟練感を出してみた。

 スイスイ進むYouTubeへの道のりだが、とうとうここらへんに来て、


「ふう・・・・。持病の飽き性が出てきてしまったか・・・。」


 じっと座っていることが苦手すぎて足がむずむずしてきた。

 これは一回山に行くか・・・??いやしかし、昨日山に行ったら2時間くらい遊んじゃったからなあ。

 今日は多分もっと遊んじゃうだろうなあ。

 しょうがない。クレイかシュヴァルツを呼ぼう。虎徹は確か今日、猟をじっちゃんとしに出掛けてるからいない。


「シュヴァルツ~??クレイ~???」


 二人とも来てくれた。



 ******



「あ~やっとできたあ~。」


 シュヴァルツとクレイをお供に、俺はようやく動画の録画一歩手前までたどり着くことができた。

 長い長い道のり。彼らは俺のイライラが分かっているからか、好きなようにわしゃわしゃさせてくれた。


 聞いてくれよ・・・俺の軌跡を・・・。苦労の証を・・・。


 チャンネルを開設して、よし、動画の録画だ!!と<動画のアップロード>のボタンを押したんだが、何もなかった。

 だから、<ライブ配信を開始>の方も押してみたんだけど、登録者が1000人いないとダメって言われた。


 イラっとした。


 調べてみたら、パソコンだったらできるって書いてあったので、サイトの通りに作業を進めてみた。その作業ってのが、


 ①パソコンのWebカメラっての??のアクセスの許可。

 ②スマホでやった時と同じ<ライブ配信>を押して、<ウェブカメラ>ってのも押す。

 ③タイトルと説明を書いて、プライバシー設定を選択、保存。


 以上。


 それだけしかしてないの?と思っているあなた!

 あなたにはこの苦労が分からないでしょうねえ!?


 なんてったって俺は調べてここに来るまで30分かかった。サイトには5分で終わるって書いてあったのに。


「最初」「初めての録画」


 これを書くだけでも2分。サイトによれば、およそ半分の時間がかかっていることになる。すごくわかりやすかったけど、残念ながら時間の部分だけはガセだな。


 ・・・・・これからもお世話になります!おなしゃーす!



「後は、ライブ配信ってとこを押したら、動画録画が始まるんだってさ。シュヴァルツ~♪」


 よくわからんが、動画の録画一歩手前まで来れた俺は、機械に強いのかもしれない。(サムネイル撮影はボタンポチポチやって、知らぬ間にキャプチャされてます。)

 気分は鰻登り。鼻歌はサビに突入した。


 シュヴァルツとクレイを手で両隣に引き寄せ、


 タンッ 


 仁は動画を録画する最後の工程をリズミカルにこなした。




 ******



「俺、お前が何言ってんのか分かんねーわ。」

 <俺はお前が何したいのか分かんねーよ!?!?>


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