ただとはいうけど、贅沢な時間の使い方

 ただ将棋を指し、話をするだけとはいいますが、この時間の使い方が、実に豪華で贅沢なものである、と読者の心に残る物語です。

 深夜の研究棟で将棋を指し、取り留めのない、ともすればヤマもオチもない話と取られかねないですが、それを「日常」と解釈できる語り口を備えていると感じます。

 日常に多くのものを求めてはならない、という事ではなく、ただ二人だけで満たされた世界が描かれているからです。

 そして、それだけでなく物語が大きく動くであろう発展性も垣間見える数話に跨がるエピソードもあり、そのアクセントが面白いです。

 歩は一歩ずつしか進めませんが、敵陣に入ったら金になる…しかし金より貴重な二人の関係であると感じさせられる物語です。

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