3話 渋谷はこんなもん
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世界が止まってしまう程の悲しみに襲われたとして
何も変わらずに回り続ける地球を目の当たりにしたとして
僕は分かったんだ。
この世界が終わる日にやっとあなたを弔えるのだと。
*****
肩にかからないくらいの長さで透き通ったグレージュの髪の毛。
彼女の瞳は全てを見透かすようなマリンブルー。
白い肌は何にも染まらない気高さすら感じてしまう。
そして、今日、太陽の下でキラキラ輝く髪に負けないくらい彼女のスキップのようなものは目立っていた。
—!!!!!
「キャッ!!」
ヒールがタイルに食い込み転びそうなところで1人の男がバッグを奪って行った。
走るたびにシャカシャカ音のするジャケットを着た男は1度立ち止まり、転んでいる女の子に手を差し伸べようとしたが、直ぐに反対方向に走り去って行った。
「はぁっ、はっ、はぁー。ん〝ん〝ぐっ。
ねえちゃん。はぁ、はぁ、はぁー。
…ごめんな。」
息を切らしながら男はバッグの中にある当たり馬券を取り出し、辺りを見回す。
が、その
——0.1秒後
「んぐおっ!」
その3秒後、男は地面に倒れていた。
すれ違う人々はその光景を見て、すぐ目を逸らす。
—そして10秒後。
いつもの人通りに戻った。
直感で見てはいけない。関わりたくない。
人々はそう思ったのだろう。
写真を撮る者もいたが、立ち止まって警察を呼ぶ者は1人もいない。
強烈なオーラを放つ一人の男が服に付いた埃を払いながら気怠そうに立っていた。
「まぁ、渋谷は大体こんなもんだよな」
そう言いながら男は倒れている男の横に転がっているバッグを拾った。
「あれ。これ…どこかで見たな、
あぁ、そう言うことか。」
何かを悟った男は、倒れて立つことの出来ないおじさんの前に座り込み、腹に1発鈍い音を立てて
意識が遠のくおじさんの耳元で何かを呟いた。
おじさんは涙を流しながら、意識を無くしたようだ。
「あー!
私のバッグ!!!ってダン?!どうして??」
「やっぱり音羽。お前なー。ってどうした?膝から血が…
…こいつか?」
意識のないおじさんを慎重に道の隅に移動させながら、もう1発殴りそうな目で聞いてきた。
「違う!いや!違わないけど!
いいの。ここまでが私の予知夢なんだから」
口先を尖らせ、人差し指を唇につけながらそう言うと、彼女は座り込んで事前に用意していたであろう絆創膏を膝に貼る。
「こら。ちゃんとすすいで消毒してから絆創膏貼らないと治るもんも治らないし、傷パワーパッド買ってくるからその汚い絆創膏捨てろ。
あと…嘘つき。」
ダンは音羽の膝を隠すように着ていたDIORのカーディガンをそっとかけて、ゆっくり音羽を抱き上げた。
「音羽の予知夢に俺は干渉しない。だろ?
お前の予知夢に俺が出て来たことあるのかよ。
ていうか、こうなる事が分かっているならまず短いスカートを履くのを止めなさい。」
呆れたように音羽を見つめながら改めてバッグを拾い、カフェへと向かう。
「分かってないな〜ダン?
あのね、女の子は寒くてもお洒落のためなら短いスカートを履きます。
ほら。あの女子高生を見てみなさい。
そろそろパンツ見えます!私だって心配になるよ。
え?パンツ見えるよ?やだ!見える!いや、見えそうで見えない!くぅーっ。
ってね。
でも、履くのです。女の子とはそういう生き物なのでーぅ〝ぅ〝ーッ!!!」
音羽は話し切る事なくダンの胸に埋もれた。
「はぁっ。あっ。んんっ。
ぃ、い、息出来ないっ——。」
音羽の白い肌がピンク色になっている。
—ダンの胸から音羽の唇が離れる。
「ちょっと何するのよ!お姉ちゃんに向かって
ダン!
…ダン?なんか香水変えた?スパイス?
…カレー?」
「待て!いつからお前は俺の姉貴になったんだ?
親父も言ってたろ!俺が兄貴だ!順番間違えんなよ」
そういうとまた音羽を胸に沈めた。
「あa⭐︎dん〝ult いやw&e…」
「あと、兄貴がカレー作って待ってる。
ジタバタすんな。それだけで遅れるだろ。」
着いたぞ。
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