13話 動き出す未来
*****
私の罪はあの日、手放す事を拒んだ事で
私の罰は、これから来るあなたのいない未来に
怯えながら生きていく事。
*****
雨は止まる事なく降り続け、その雨音は2人の足音を消した。
それはまるで世界が2人の存在を隠すかのように、
まるで世界に2人しかいないと証明するかのように。
カフェに着いた日向は音羽を2階に運ぶと
湯船にお湯を溜め、入るように促した。
音羽は黙ってそれに従うと風呂場へ行ってしまった。
日向はバスタオルで濡れた髪を乾かすと肌に張り付いたシャツと、水を含んで重たくなったジーンズを脱ぎ捨てた。
甘い顔には似つかない鍛えられたしなやかな体が露わになる。
日向はきっと寒さで震えているのではない自分の体を抱き、バスタオルに包まって動かない。
先程の出来事を思い出していた。
音羽に傘を差し出した男—。
(ドンッ)
風呂場から何かが落ちた音が聞こえると日向はすぐに音の方へ向かった。
「音羽!」
風呂場の扉を開くとそこには服を着たまま床に倒れ込む音羽がいた。
日向はシャワーを止めると音羽の名前を呼んだ。
音羽は返事をしないまま、遠くを見つめ動かない。
「音羽!音羽!…」
日向は堪らず、心臓の音を確かめた。
心臓が動いているのを確認すると、音羽を抱き抱えお風呂場を出た。
ソファに座らせると、今更音羽がパジャマな事に気が付いた日向は自分がずっと気が動転していた事にハッとした。
彼女はいつから雨に打たれていたんだろうと思うと勝手に涙が溢れてきた。
「ごめんね。
寒いね。着替えよっか。」
日向はゆっくり音羽のパジャマのボタンに手をかける。
ひとつ、ひとつ丁寧に外していくとまた丁寧に脱がせて、次に音羽の体を拭いた。
日向がカフェに泊まるときにとってあるスエットを音羽にすっぽりと被せた。
「音ちゃんこんなにおっきくなって、
お兄ちゃん嬉しいな。
スエットは少し大きいけど、少しの間だけ
これ着てようね。」
日向は返事をしない音羽に話し続けようとしたが、溢れ出る涙が止まらず、音羽の膝に泣き崩れた。
「音ちゃん…返事してくれなきゃ髪の毛乾かしてあげないよ?
せっかく晩ご飯の準備してたのに、みんなびっくりしちゃうからそろそろ返事してよ…。」
音羽の返事はない。
日向は涙が止まらず顔を上げることが出来ない。
ずっと音羽の膝に顔を埋めたまま音羽の名前を呼び続ける。
「…—どうしたの?」
顔を上げると音羽が不思議そうな顔をして日向を見下ろしていた。
音羽は冷たい手で日向の顎に優しく触れると自分の方に向かせる。
「あなた…泣いてるの?」
日向は音羽の言葉に困惑し、動くことも出来ず瞳を震わせ、か細い声で妹の名前を呼ぶ。
「音ちゃん…?」
音羽は表情を変えずに、日向の頬を伝う涙を拭う。
日向の頬に濡れた音羽の髪の毛から水滴が落ち、それは涙と混じり合って唇を伝い口の中に流れ込んだ。
もう一度名前を呼ぼうとした瞬間に違和感に気付いた日向の顔は、妹を見る兄の顔ではなくなっていた。
「君は誰…——」
日向は立ち上がる事も出来ず、触れる事も出来ないまま音羽を見上げている。
「あなたはずっと夢を見ているのよ。」
音羽は冷たく微笑むと、そのまま完全に意識を失ってしまった。
*****
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます