16話 変わらない世界で変わったもの
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この世界に偶然なんて無いとするのならば
そんな言葉初めからいらなかったんじゃないかな。
無いものに名前を付けるなんて傲慢以外の何者でも無いのだから。
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晴れ渡る快晴。
真っ白な雲が風に乗って形を変えながら空を自由に動き回っている。
東京の街並みを一望できる場所からある一点の場所を見つめる少女。
少女の見つめる先にはカフェで接客をする男の姿があった。
少女は左手を遠くにいる男にそっと重ねると、愛おしそうに
「ルナ様。…ルナ様。」
真っ直ぐなストレートの長い黒髪を高い位置から結び、その美しい髪を
ルナと呼ばれる少女よりも少しだけ年上に見えるその女もまだあどけなさが残る少女であった。
少女は黒髪の少女の方を振り返りニッコリと微笑むと大きく蹴伸びをしながら空に浮かんだ。
「ここにいる間は“音羽”って呼んで。
私この名前とっても気に入ってるんだ。
だって音の鳴る羽だよ?私にぴったりの名前だと思わない?」
少女はケタケタと笑いながら黒髪の少女の周りをふわふわと回っている。
黒髪の少女は眉毛を下げながら、困った顔でこう答える。
「ルナ様、ですが、人間が付けた名前などで貴方様をお呼びするなど、わ、私には出来かねます…。ルナ様は神より遣わされた最上位の、」
ここまで話すと黒髪の少女は声を出す事が出来なくなった。
「あ、あ、…う、はっ…」
ルナの瞳が青色から赤黒いおどろおどろしい色に変わって、黒髪の少女の首を捕らえていた。
ルナの背中には銀色に光る大きな翼が太陽を隠すほど広がり、瞳の色からは想像出来ないほどの美しさで空に君臨する。
まさに地上に現れた神の如く神々しく、太陽の光でさえ足りないほど眩い光が辺り一面に広がった。
「私がいつお前にお願いしたというの?
私の言葉はお前にとって絶対のはずだ。
違うか?
お前は一体誰と話しているんだ。
そうだ。お前からその声を取ってしまえば
私を不快にさせる事もないのか。」
そう言うとルナは黒髪の少女の喉に手をかざした。
少女の喉が黄金に光り、そこから光る石が出てきた。
黒髪の少女は声を出す事も出来ずに口をパクパク動かしながら涙を流している。
涙を流す少女の瞳は、銀色の翼が一瞬だけ漆黒に染まったのを見逃さなかった。
「音羽様!
エル様がお探しです。もうすぐ地上へ帰ってこられます。如何致しますか。」
ルナの事を音羽と呼ぶ新たな男。
その男も翼を持ち、天空からルナが発した光を見つけやってきたのだった。
「ダン?」
ルナは光の石を黒髪の少女の喉に戻すと、何処かへ消えてしまった。
黒髪の少女は震えが止まらず、その場に倒れ込む。
だが、その瞳からは恐れよりも神の怒りに触れた事への愚かさを感じているようだった。。
さっきまで自分の喉に触れていたルナの手の感触を確かめるかのように再び喉に触れた。
少女は高揚しているようだった。
「ルナ様を不快にさせる声など…」
少女は自分の翼の羽を強化させ、喉に突き刺そうとした。
その瞬間…。
ルナと同じ銀色の翼を持つ男が天空から現れた。
その男は何も寄せつけない気高く眩い光を放つルナとは違い、全てを包み込むような淡い優しい光を放っていた。
「おい、声はとっておきな。
自らを奪うのは神の意志に反する。
まあ、俺はお前の美しい声が好きだし、神もお前の歌声を天界で聴けないとなったら悲しむんじゃないか?」
黒髪の少女は涙を流しながら自分の羽を握りしめて離さない。
エルと呼ばれる男は、その事に気付くと指をパチンと鳴らした。
「悪い。こっちが先だったな。
お前たちはルナ
言葉を解くのを忘れていた。」
少女は我にかえるとルナを探した。
そんな少女を抱えるもう一人の男はエルに片足で跪くと次の瞬間二人共消えてしまった。
「はぁ、
うちの妹にはまた逃げられたか…」
エルはこの建物の場所に気付くと懐かしそうにルナと呼ばれる少女と同じく、あのカフェを眺めていた。
カフェにはルナも見つめていた一人の男がいた。
エルは目を見開くと、慌ててカフェから一瞬目を離し、直ぐにもう一度カフェの男に目をやった。
エルはカフェの男と目が合ったように感じたのだった。
エルのいる建物からカフェは8キロ以上離れており、人間が目視するには到底出来ない距離だったのにも関わらずカフェの男がこちらに気付いたように感じたのだった。
「日向…?
今…、いや、気のせいだよな。
あの日あんたは夢から覚めて今は
はは。どれだけ未練がましいんだ俺は…
だから嫌なんだよ。この世界には幸せな思い出が多過ぎる…。」
そう言うとエルは翼を仕舞い、ゆっくりと建物の階段を降りて行った。
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