17話 記憶の中の記憶
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あなたを想う気持ちは痛みに似ている
胸が軋む様に、刺されたかの様に
何か外れてしまった様に
ただずっと痛い
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“ルナ”と呼ばれる少女、音羽は屋上から眺めていたあのカフェに来ていた。
「こんにちは」
ちょうどテーブルを片付けていた男性が優しく微笑みながら音羽を迎え入れた。
音羽は奥のカウンターにちょこんと座ったが、誰も居ない3人掛けの長椅子に移動し、右端に座り直した。
あの日から何も変わっていない店内は音羽とダンの匂いだけが綺麗に消されていて懐かしいはずのカフェはどこか他所優しい雰囲気になっていた。
それでも音羽は自分の形跡を探すかのように、辺りを見渡していた。
「お待たせしました。
ご注文はお決まりでしょうか。」
片付けを終えた男性が、若干バタつきながら注文を取りに来た。
音羽は慌ててメニューに視線を移すと、お任せランチメニューの中からオススメのロコモコセットを注文した。
「えっと、ではオススメのロコモコセットください。
あ、ランチタイムってもう終わってますよね。
どうしよう。んーっと…。」
男性は申し訳なさそうに、キッチンの方を見ながらランチタイムとロコモコセットの終了を告げるが、その次にキラキラした瞳でこう切り返した。
「そうだ。ランチのメニューは終わってしまったのですが、試作中のカレーがあるので試食ついでに食べてもらえませんか?」
男性はその後、お腹は空いてるかなどといくつか質問をすると、自信作だからと言いキッチンへ戻っていった。
音羽は久しぶりにその男性と直接会話が出来た事に懐かしさと幸せを感じていた。
音羽は少しだけ昔の記憶に浸っていた。
そこでは奥からカレーの匂いがして、日向の小言が聞こえてきてダンがすぐ隣で気怠そうにその小言に相槌を打っている。
なんて事ない昔の記憶だが、音羽にとっては良い記憶だったのだろう。
なぜ、“ルナ”はこの記憶ごと消してくれなかったのか、せめてもの償いなのか、それともこれも自分への罰なのだろうか…。
そんな事を考えていると、このカフェに来たのは間違いだったのではないかと、答えの出ない問いに耐えきれず、音羽は席を立ちカフェを出ようとした。
その時、男性がカレーを持ってやってきた。
「待たせすぎちゃったかな。
…カレー。
お待たせしました。
…食べる?」
男性は困った様にキッチンと音羽と外を行ったり来たり瞳で追いながら、とりあえず座る様に促すジェスチャーを繰り返し、音羽は気まずさに耐えきれず、席に座り直した。
音羽の前にカレーが置かれる。
男性は優しい視線でスプーンを音羽に手渡すと、お水持ってくるね。と言い、キッチンへ戻って行ってしまった。
音羽は一口カレーを口に頬張ると無言で食べ続けた。
音羽は答えの無い問いに気付いた。
あぁ、これは罰なんだ。
きっとこれからずっと私は罰を受け続ける。
心がすり潰されて消えて無くなるまで
息が出来なくなるまで首を絞められても
自ら罰を受け続けるんだ。とこの瞬間確信した。
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