7話 いらない世界
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「君を悲しませる全てのものを焼き払う」
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—30分前。
「行かないで。なんで、
ねぇ…声が出な…待って。—」
『カチャ…。…パタン—』
その足は音羽を起こさないようにそっとベッドに近寄る。
音羽の手は何かを探すように空を舞っている。
行き先のないその手をそっと包み込む暖かい手。
その手の甲に唇が触れる。
もう片方の手は心臓と同じリズムで音羽の髪に優しく触れた。
「またあの夢を見ているのか?
なぁ、泣くなよ…。なんで1人で抱え込むんだよ」
声にならない声でそう呟く。
夜明け前の薄暗い部屋に静かさだけが残った。
「ダン、起きたのかい?
音羽は?また
「あぁ。声が聞こえたんだ。音羽が泣いてる声が。」
そう言うと、ダンはそっと音羽の手を離し布団へ戻す。
「双子の以心伝心ってやつかな?
きっとダンがお兄ちゃんなんだね。」
愛おしそうに意地悪そうにそう言うと、日向はダンの頭にポンポンと2回触れた。
「おい、やめろよ。いつまでもガキじゃねーんだから、身長だってもう少しで並ぶぞ。」
日向の手を払いのけると、ダンは照れ臭そうに笑った。
「音羽は気付き始めてる。
あの日、僕達が音羽を守るって決めたんだ。
ダン。覚えてるかい?」
日向はカーテンを少しだけ開けると、レース越しに外を見ながらダンにいつもより少し低い声で話しかけた。
ダンは近くのソファに腰掛けると、日向とは逆に軽やかにこう言った。
「あぁ。音羽は知る必要ねぇよ、
もし知る事になっても今じゃない。だろ?
それに、まだ俺達自身もはっきりと分かってないんだし、急がなくても…
音羽は俺たちが守る。ずっとだ。」
そう言って立ち上がるとダンは部屋の外へ向かった。
「ダン!音羽の側にいてあげないの?」
困った顔でダンを引き留める日向。
「そう言うのは
俺じゃねーよ。」
バツの悪そうな表情を見せ、静かに部屋を出た。
「はは。
全く、手のかかる双子ちゃん達ですね」
日向はそう言ってクスクスと笑うとベッドの淵に顔を乗せ、左手で自分の顎を支えながら右手で音羽の肩を『トン。トン。トン。』とゆっくり触れながらいつの間にか眠りに落ちた。
その頃ダンは自分の部屋で誰かとコンタクトを取っていた。
ダンの左耳のピアスが朝日に照らされ光った。
MacBookから目を離すと椅子にもたれ掛かり、カーテンの無い一面ガラス張りの外を見つめる。
ダンには朝日が自分の嘘を見透かしているように感じ、乾いたように笑った。
「
ダンは目頭を押さえて、朝日を遮った。
「こんな世界なら要らねえよ。
なぁ、違うか?
…日向。」
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