7話 いらない世界


*****


「君を悲しませる全てのものを焼き払う」


*****




—30分前。




「行かないで。なんで、

ねぇ…声が出な…待って。—」





『カチャ…。…パタン—』



うなされる音羽の眠る部屋に入る。


その足は音羽を起こさないようにそっとベッドに近寄る。


音羽の手は何かを探すように空を舞っている。

行き先のないその手をそっと包み込む暖かい手。



その手の甲に唇が触れる。

もう片方の手は心臓と同じリズムで音羽の髪に優しく触れた。


「またあの夢を見ているのか?

なぁ、泣くなよ…。なんで1人で抱え込むんだよ」


声にならない声でそう呟く。




夜明け前の薄暗い部屋に静かさだけが残った。



「ダン、起きたのかい?

音羽は?またうなされてたみたいだね。」



「あぁ。声が聞こえたんだ。音羽が泣いてる声が。」


そう言うと、ダンはそっと音羽の手を離し布団へ戻す。


「双子の以心伝心ってやつかな?

きっとダンがお兄ちゃんなんだね。」


愛おしそうに意地悪そうにそう言うと、日向はダンの頭にポンポンと2回触れた。


「おい、やめろよ。いつまでもガキじゃねーんだから、身長だってもう少しで並ぶぞ。」


日向の手を払いのけると、ダンは照れ臭そうに笑った。



「音羽は気付き始めてる。

あの日、僕達が音羽を守るって決めたんだ。

ダン。覚えてるかい?」


日向はカーテンを少しだけ開けると、レース越しに外を見ながらダンにいつもより少し低い声で話しかけた。


ダンは近くのソファに腰掛けると、日向とは逆に軽やかにこう言った。


「あぁ。音羽は知る必要ねぇよ、

もし知る事になっても今じゃない。だろ?


それに、まだ俺達自身もはっきりと分かってないんだし、急がなくても…


音羽は俺たちが守る。ずっとだ。」


そう言って立ち上がるとダンは部屋の外へ向かった。


「ダン!音羽の側にいてあげないの?」


困った顔でダンを引き留める日向。




「そう言うのは長男・・の役目だろ?

俺じゃねーよ。」


バツの悪そうな表情を見せ、静かに部屋を出た。




「はは。長男・・か…。

全く、手のかかる双子ちゃん達ですね」


日向はそう言ってクスクスと笑うとベッドの淵に顔を乗せ、左手で自分の顎を支えながら右手で音羽の肩を『トン。トン。トン。』とゆっくり触れながらいつの間にか眠りに落ちた。



その頃ダンは自分の部屋で誰かとコンタクトを取っていた。


ダンの左耳のピアスが朝日に照らされ光った。



MacBookから目を離すと椅子にもたれ掛かり、カーテンの無い一面ガラス張りの外を見つめる。


ダンには朝日が自分の嘘を見透かしているように感じ、乾いたように笑った。






双子・・ね…」



ダンは目頭を押さえて、朝日を遮った。


「こんな世界なら要らねえよ。

なぁ、違うか?



…日向。」


*****

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る