41話 突破!
緊張とてぇてぇのコラボ配信が終わり、一息ついた僕を待っていたのはかかえ先輩―――ささえちゃんからの質問攻めだった。
高校は何処へ行ったのか、大学は何処なのか、中学卒業からなにをしていたのか、なんでVTuberになったのか、3期生の中だと誰が一番好きか、2期生だと誰が、等々。
一生分の質問をされた気がする。
そして気が付けば夕方になっており、僕のお腹の虫が時間を知らせてくれた。
「あぅ……」
お腹の音を聞かれて恥ずかしさに耳が熱くなる。
生理現象とはいえ聞かれたくない物を聞かれちゃった……。
「もう6時なんだ! 湍ちゃんと楽しくお話していたから、あっという間だったよ」
「ふふふ、そうね。可愛いお腹の虫さんも鳴いている様だし、夕飯もそろそろ届くだろうから食べる準備しましょうか」
「そっそういえば、ささえちゃんのご両親はまだ帰ってこないの?」
お昼過ぎからお邪魔しているけど、未だに帰ってきた様子がない。こんな大きな家に1人暮らしという線もあるけれど、可能性としては低い。
「あぁね。今日はお父さんもお母さんもお泊りで今日は帰ってこないから、のんびりと過ごせるんだよね」
「私が居るから安心ねって言ってたものね」
「なんで娘の私よりも信頼されてるの!?」
「日頃のおこないよ」
「異議あり!!!」
「今日の晩御飯を頼んでおいたのは私よ」
「はいありがとうございますなるせ様ぁぁぁあああ!」
「ささえのお世話係なのは今に始まったことじゃないし、今更よね」
「あははっ」
昔から変わらない流れる様な2人のやり取りに笑みがこれる。懐かしさに小中学校の時を思い出す。
年数が経てば変わるものもあれば、変わらないものもある。
つまり何が言いたいかと言うと、かかあきならぬ、ささなるてぇてぇ。
「ご飯頼んでいたんだ」
流石親公認のささえちゃんのお世話係は段取りが良い。
「何頼んだの!」
「ピザよ」
「やったーーー! 湍ちゃんはピザ大丈夫?」
「うん、僕も大好き。チーズが美味しくてたまに食べるよ。焦げてると尚いいんだけどね」
「おぉぉ同志よ!」
ささえちゃんは手を握り目を輝かせた。
「一緒にVワールドで『焦げチーズ愛好会』を立ち上げよう!」
「ひゃい!?」
「やったーーー!」
突然手を握られて驚きの声が出ちゃった。
あっあれ、これってオーケーをしたってことになるのかな?
「熱く語れる子が居て嬉しいよ、焦げチーズなだけに」
「アッハイ」
「湍ちゃんがツレナイ!」
ささえちゃんの気軽いノリにいつの間にか緊張も解されて、ふざけ合いながら一晩を過ごした。
そして気が付けば翌朝。
いつの間にか寝落ちしていたみたい。
起き上がって自分を見下ろせば寝間着替わりのパジャマ。頭部には猫耳パーカーの感触があり、昨日の撮影会が脳裏に蘇る。
最初は恥ずかしがっていたけれど、2人のヨイショでノリノリにポーズをとってしまった。穴があったら入りたい。だから手近にあった毛布を被った。
「ふぁああああああああ、ん~~~おはよう。って大きな毛玉がある!」
「ンー……どうしたのって、猫みたいに丸まってるわね」
丁度起きたささえちゃんとなるせちゃんが言いたい放題。
「猫じゃないよ」
毛布から顔を出して反論する。確かに猫耳VTuberだけどさ、僕自身は猫属性じゃないと思うんだ。
「まんま猫ね」
「猫だね」
「にゃんだってぇえええ!」
「「「……プッあははははは」」」
気兼ねない時間を過ごしたせいか、気軽いやり取りが行えるまでになっていた。嫌な感じは無く、安心感すらある。
「あーーー笑った。まさかこんなに早く湍ちゃんとの仲が深まるなんて思いもしなかったよ」
「僕も……やっぱりささえちゃんは凄いね」
「そうね、ささえは凄いのよ」
「なんでなるせちゃんがドヤッてるの? いや別にいいんだけどさ」
今も昔も変わらない2人。そして変わらず僕に声を掛けて関わろうとしてくれる事が嬉しいのかもしれない。
「そういえば湍ちゃん。シロネちゃんのチャンネル登録者数を見た? 10万人行ってたよ」
「ミャ!?」
僕はスマホから慌てて自分のチャンネルを確認すると、チャンネル登録者数が2桁になっていた。もちろん1万で1桁。
「たろう先輩とのコラボでようやく9万を突破したのに……はやい……」
ここ1カ月程で一気に数字が伸びて行き、その度に驚いていたけれど、1つの節目である10万人を突破したなんて。それも特に何かをしたわけではない。かかえ先輩とあきり先輩の3人でコラボ配信しただけなのに。
改めて見ると、10万人という数字が重くのしかかってくる。
1カ月の間、息もつかぬ間に登録者数が伸びて行き、少し実感が薄かった。何せ初配信前から1万を超える人がチャンネル登録していたのだから、数字の変化に実感が伴っていなかった。
しかし桁が変わった今、全員ではないにしても、約10万の人がVTuber振上シロネに、面白さ、楽しさ、愉快さなどを期待しているという現れ。
‟本当にこれだけの人の期待に応えられるの?”
本来の臆病な心が、そう問いかけてきて、僕は自分の体を抱きしめた。
「湍ちゃん、どうしたの?」
急に自身の体を抱きしめだした僕に問いかけるささえちゃん。
とりあえず何か返事をしなきゃ。
「なっなんでもないよ……へっへへ」
笑って安心させようと思ったけど、頬が引きつっている感覚がする。
折角仲良くなれたのに、こんな情けない姿見せたら嫌われないかな。
そんな一抹の不安がよぎるが―――
「よーしよし、大丈夫、大丈夫」
予想とは裏腹に、ささえちゃんは僕を抱きしめて頭を撫でた。
「だいじょーーーぶ。シロネちゃんは頑張ってきた。だからみんなシロネちゃんが良いと思ってチャンネル登録してくれたんだよ。配信しているだけでもすごいんだよ? 喋って、歌って、色んな人とコラボして、同期の切抜き動画を上げてみたり、そのちょっとずつの頑張りが認められたんだよ」
あやす様に語り掛けられる言葉が、心に染みわたっていく。
「だから、おめでとう振上シロネちゃん。あなたは立派なVワールドのVTuberだよ」
九坂かかえVTuberの先輩からの言葉に―――
「う゛ん゛っ!」
僕はようやく、VワールドのVTuberに成れた気がした。
九阪かかえ佐々木ささえside
振上シロネちゃんこと乙倉湍ちゃんが帰って行き、私はブーッと膨れる幼馴染と一緒に居る。
「ねえねえ、フグせちゃん」
「フグせじゃないわ。なるせよ」
「だってフグみたいに膨らんでるし……えいっ」
「プフーーー……」
あっ、なんだかちょっと面白いかも。もう1回膨らまないかな。
今のなるせちゃんの状態は偶に起きる。
特に私が他の女の子と、一定以上に親しい時になる。愛情故の行動なので、ちょっと嬉しいと思っちゃう私は悪い子なのかもしれない。
「……なんだか、少ない時間の中で湍と仲良くなったみたいじゃない。急に怯えだした理由も分かってたみたいだし」
「あ~~~あれねぇ……。あれは私も経験したから分かるんだよね」
「えっ…………ささえが?」
「モォーーー! 私を何だと思ってるの」
「だって……ねぇ」
なるせちゃんが言わんとしていることは何となく分かるけどさ、分かるけどさ!
私がまだ登録者数が数万人で頑張っていた時、ようやく10万人突破した瞬間の嬉しさの後に来たプレッシャー。
お祝いと称して事務所に呼ばれてマネージャーさんや社員さんから口々にお祝いの言葉を貰い、家に帰ってきてから部屋で1人になった瞬間ソレはやって来た。
‟多くの人に期待されている”
その期待は私の想像以上に大きかった。だって周りのメンバーはまだ10万人を超えておらず、Vワールド初の快挙だったのだから。
「という風に感じてたんだよね」
「そうなの……知らなかったわ」
「でも、寝たらスッキリ無くなっちゃったけどね!」
「ハイハイ、そうだろうと思ってたわよ」
「返事が雑過ぎない?」
呆れたようにジト目でこちらを見てくる幼馴染。
「でも……」
なるせちゃんは、先ほどの表情とは打って変わり、優しさが溢れる表情で私を抱きしめた。
「辛い時は私に言いなさい。私が一緒に居る限り、1人で寂しい思いも、辛い思いも、苦しい思いもさせないから」
「……そうだね。かかえは、あきりあ・り・き・だもんね」
「そうよ」
私たちはお互いに顔を見合わせると、どちらともなく目を瞑った。
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