24話 閑話2 仁義なきみゃあみゃあ戦争
僕は最近、とあることに熱中していた。
それは負けることが出来ない戦い。
僕はいつか、あの
湿気が多くなり、長い髪が鬱陶しく思う今日この頃。本当は切りたいけど、ママがダメって言うから伸ばしている。
今年から通い始めた小学校では当然のごとく友達が出来ず、休日を1人で暇を持て余していたので、なんとなく外へ出たところ玄関先に綺麗な金色の毛並みを携えた猫が居た。
日陰になりヒンヤリとした地ベタが気持ち良いのか、寝転がり涼んでいる。
金色に輝く毛並みが気持ち良さそう。僕は是非ともモフモフと触らせてほしい。
猫との距離をジリジリと詰めていく。
逃げるなよー、逃げるなよー、そーーーと、そーーーと。
息を殺して近づく。
しかし、猫は気が付いた。
小さい足音に目を覚まし、こちらを見つめて一鳴き。
「ニャー」
「ひぃ……」
驚いて悲鳴があがる。
警戒されてるのかな?そうだよね、急に触ろうとしたらダメだよね。
ここはちゃんとお願いしないと。
「さっ触らせてもらえないかな?」
「…………」
「ちょっと、先っちょだけでいいから……ね?」
「…………」
話し掛けても無反応、と言うか猫だもんね。
普通に話しかけても分からないか。
「みっみゃーーーー」
それなら猫の鳴きマネ。
人語がダメなら猫の言葉を使えばいいんだ!
しかし、猫は無反応にこちらを見つめ返してくるだけ。
細められた眼はまるで、なんだ……その程度か?と言われている気がする。
なるほど、この程度の鳴きマネなんて通じないぞと……そういう事だね。
よろしい、ならば
「みゃあーーー!」
こうして、僕と野良猫の戦いは始まった。
それから、一方的に僕が鳴きマネをして、猫はブスッとこちらを睨め付けているだけの時間が続いた。
中々手ごわくて、ちょっと近づこうとすれば立ち上がる気配を見せるから、未だにあのモフモフな毛並みを触ることが出来ない。
ぐぬぬぬぬ、あの只者ではない
僕と猫の戦いはまだまだ始まったばか―――――
ガチャッ
突然玄関の扉が開き、猫はビックリして逃げ出した。
「あっ……逃げちゃった」
「落ち込んだ顔してどうしたの、湍ちゃん?」
お母さんが玄関先でしゃがみ込んでいる僕を見つけて、不思議そうに首を傾げる。
「ママ……猫にげちゃった」
「ねこ?玄関先で遊んでると思ったら、3時間も猫ちゃんと遊んでたのね。ほら、もうお昼だから手を洗ってご飯にしましょう」
猫と向かい合っていたら意外と時間が経っていたみたい。
ママに手を引かれて、僕は猫が寝転がっていた場所を見詰めながら後にした。
次会ったら、絶対にあのモフモフを撫でてみせる!
そして次の日、用事を済ませてたらお昼になってしまい先に昼食を食べることになった。
昨日よりも遅くなったので、あの猫がまた居るか不安になりながら向かうと、昨日の猫が同じように寝転がっている。
たぶん僕を待っていたわけではないけど、少し嬉しくなった。
出て来た僕をチラッと見ては、興味なさそうに欠伸をする。
ふっふっふぅ、そうやって居られるのも今のうち。今日の僕は昨日の僕とは一味違う!
「みゃあ!」
昨日は初めての鳴きマネで下手だったけど、今日は上手く出来たはず!
「…………ヘプシ」
鳴きマネに反応したと思ったらクシャミ……えっ、それだけ?
ママに聞かれながらも頑張って練習したのに、ぐぬぬぬぬ!
鳴きマネが下手だったから反応されなかったと考えて、夕飯前に練習してたら聞かれちゃって抱きしめられたよ。
もうすっぽりと腕の中に納まって、胸に顔を押し付けられて……柔らかくて息が出来なかった。
それほどの犠牲を払ってまで練習したのだから、成果がない訳がない!
「みゃあみゃあみゃあーーーー」
「…………」
「みゃああああああ」
しかし不動の猫。
僕も昨日と同じ位置から動けない……動けないよ。
目の前にモフモフの毛並みがあるのに!……相手も動かないし、ちょっとぐらい近づいても大丈夫だよね?
クイッ
「……」
ピクッ
クイッ
「……」
ピクッ
僕が動こうとすると、身を持ち上げようとする。
「なんでぇ……!何でダメなの……モフモフぐらいさせてよ……」
愚痴を零しても許してくれる気配はない。
「ファァァァァ……」
さらには欠伸まで!!!
もっ、もしかして、弄ばれてる……?
「ジィーーーー」
「………………」
そっそんなことないよね?
でも、この
もう猫と言うよりも、猫様と呼んだ方が良いのかもしれない。
「みゃあーみゃあー」
これはきっと根競べ勝負。
僕が諦めるか、猫様が許してくれるか。
「みゃあ!」
僕は猫様に絶対に勝つ!
そして、夕飯時。
「それで仲良くなれなかったのね」
「…………うん……ちょっと喉いたい」
はい、勝てませんでした。
最終的に夕飯のために僕を呼びにママが来るまで
ずっと鳴きマネをしていた所為で喉が痛い……。
「それじゃあ、今日は久しぶりに一緒にお風呂に入りましょうか♪疲れた湍たんをママが洗ってあげるわ」
「大丈夫だから!それじゃあお風呂入って来るね、ごちそうさまでした!」
「あらら、ざんねん」
既に1人でお風呂に入るようになった僕は椅子から飛び降りて、そそくさと逃げ出した。
だって自分のお母さんでも、あんなに綺麗な人に裸で洗ってもらうなんて耐えられないよ!
でもまあ、逃げても最終的にはお風呂上りに捕まって、抱きしめられたまま一緒にベッドの中なんだけどね……。
「フフフ、お風呂は逃げられちゃったけど、こっちは一緒だからねぇ♪」
やけにアッサリ引き下がったと思ったらそういう事だったんだね……。
抱きしめられていると、熱さと胸の膨らみが気になって仕方がない。
「ママ、季節的に暑いんだけど……」
「もう少し良いじゃない♪ほら、頭なでなでしてあげるから」
「はわぁ……」
特別好きという訳ではなかったのに、この体になってママに頭を撫でられると気持ち良くて安らいでしまう。
でも負けない!そんな簡単に―――――
「スゥ……スゥ……」
「フフッ、簡単に寝ちゃうんだから。チョロすぎて心配になっちゃうわね。でも、そんなところも湍たんの可愛らしい所よね♪」
ママは撫でられて直ぐに寝息を立てる僕をだらしない顔で眺めていた。
休日が終わり、退屈な学校生活がやって来る。
でも僕は気合を入れるべく、可愛い恰好をしている。
ママに似た僕は自分で見ても美少女だと思う。だから可愛い子にそれらしい恰好をさせるのは良いよね。それにあの猫様と対峙するなら、これぐらい気合を入れておかないと!
今日は猫様は居るかなと思い、玄関を出た時にいつも寝転んでいる場所を見たけれど見当たらなかった。
どうやら朝は居ないみたいだね。
もしかしたら、帰ってきたら居るかな?そう思い、僕ははやる気持ちを抑えながら通学班の集まる場所へ向かった。
「ヒソヒソヒソ……」
「ヒソヒソヒソ……」
何やら今日は良く目線を集めるなぁ……。それに何やら噂されている感じがする。
なんか、チクチク刺されているようで気が休まらない。
そういえば、小学校に上がってからこんな風な格好をしたのは初めてだった。その所為かな?
「ねえねえ、はやせちゃん!」
席について大人しくしていたら、クラスメイトの女の子が話しかけて来た。
「ミっ……どっどどどうしたの……ええっと……」
連日に渡る猫の鳴きマネの所為で、猫のような悲鳴が上がりかけた。
あぶないあぶない……。
「ひどーい!クラスメイトの名前もおぼえてないの?私は佐々木ささえっていうの。おぼえてよね」
「うっうん……」
この子は良く笑い良く騒ぐ女の子で、クラスの中でも中心の様な人物だ。
なんでそのような子が、僕に話しかけて来たのかな……陽キャオーラが眩しい……。
「今日はすごく可愛い恰好してるね!クラス中が気になっているのだけど、どうしたの?」
「えぇ!?……とっ特に何もないけど……」
嘘だけど、猫様との勝負に気合を入れる為にしているなんて言えないよ!
「そうなんだ?はやせちゃん、すっごいかわいいから、とても似合ってるよ!」
「ミッ……えっと、ええっと……あの……」
そんなに仲が良い訳でもないのに、なんでこんなにグイグイ来れるの!?
陽キャの圧が半端ないんだけど……!
「こーーーら、ささえ。あんまりグイグイいくとはやせちゃんが怖がっちゃうでしょ。ささえって名前なのにわたしがあんたを
「えーーー、だってなるせちゃん。はやせちゃんすっごい可愛いじゃん!」
「だから、あんたは急すぎるのよ」
「ブーブー」
「はいはい、ブタさんはこっちに来てね。はやせちゃんウチのささえがごめんね」
「うっううん……」
なるせちゃんはささえちゃんを引きずって元の席に戻っていった。
ささえちゃん、嵐の様な子だったな……また絡まれなければいいけど……。
そして帰ってきたら、予想通り猫様が玄関先の日陰で寝ていた。
僕はゆっくりといつもの場所に着き、背負っていたランドセルを下に下ろす。
「ミャア」
僕が一鳴きすると、チラッとこちらを見た。
ついに猫様が反応してくれた!
「ミャアーミャアー」
嬉しくて何度も鳴き声を上げてみる。
「ミャアーーー」
「…………ニャー」
「!?」
さらに返事を返してくれた!!!
やったーーー!
「ミャアミャアミャア♪」
「ニャーーー」
反応してくれてとっても嬉しい。
この瞬間、僕と猫様は心が通じ合った気がした。
しかし、そんな幸福な時間は長くは続かなかった。
ガチャ
「あっ…………」
そして、いつもの様に玄関のドアが開いて逃げ出す猫様。
「あら、玄関で可愛らしい泣き声が聞こえてくると思ったら、帰ってきてたのね。また猫ちゃんかしら?」
「猫様……」
「ねこさま……?」
「……せっかく言葉通じたのに……猫様逃げちゃった」
「猫ちゃんとお話出来たんだね」
「……うん」
「もう可愛すぎ、ギューーーー」
「ミャアアアアアアアアアアアア!?」
不意打ち気味に抱きしめて来たママ。
そして僕は大きな声で叫び声をあげる。
「なにその鳴き声、猫ちゃんみたいでかわいいわ♪ほっぺにチューーー」
「ミ゛ャ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!?」
その日、ご近所に僕の猫の悲鳴が響き渡り、さらに、この悲鳴はついにクセになって取れることが無かった……。
「ミャア……」
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