25話 閑話3 ささえてかかえて

 私達は幼馴染だ。

 幼稚園に行く前から一緒で、なんだかんだで19年ほど共にいる。


 この関係が嫌かどうかなんてもう分からない程そこにいるのが当たり前になっていた。ただ1つ、確かに言えるのは、私が好きだという事。

 進めることも、壊すこともしないで、ただ今を享受する。


「ねえねえ、これ可愛くない?」


 そして今も、当たり前のように佐々木ささえと一緒に居る。


「なるせちゃん?」

「あんまり好き勝手に動かないで」

「えへへ、ごめんね♪」


 憎めない笑顔に顔を緩めながら手を掴む。

 私、守那かみななるせの幼馴染は今日も忙しない。




 家が隣同士の私達は、姉妹同然に扱われるように育った。

 誕生日はささえの方が早いけど、直感と感情のままに動く彼女を窘めたりしているせいで、なるせちゃんはお姉さんみたいねって言われる。


 今日も今日とて、唐突に買い物へ誘われて服売り場まで来ていた。

 

「それで、なんで今日は買い物に来たの?新しいパジャマでも欲しいの?」

「んーーー、シロネちゃんに似合いそうなモノをあげたくて」

「コラボすらしたことないのに、どうしてそういう発想になるの……」


 ささえは所謂直観力が優れており、人の善悪だったり、最善の行動を何となくの行動で選べてしまう部類の人間だ。

 でも大半は、ただの突っ走りで終わることもあるけれど、私は彼女のそんな所に救われていたりする。

 今回もその類のモノらしい。


「ねえねえねえ、この猫の着ぐるみっぽいヤツ絶対に似合うと思わない?」

「確かにあのキャラ性なら似合いそうだけど、サイズ小さくない?私達と同じぐらいの年齢ならもっと大きいでしょ」

「そうかなー。私の直感ではこれぐらいだと思うんだよね」


 彼女が持っているのは中学生、下手したら小学生ぐらいが着る様なサイズ。

 流石に直観力オバケとはいえ、これは流石に……。


「なるせちゃんも可愛いって言ってくれたし買ってくるね!」

「あっ!ささえ、待ちなさい!」


 ほっっっんと、思い立ったが特急号なんだから!

 私はレジへ走っていく背中を追いかけてった。

 それから満足したささえを連れてショッピングモールを出る。


「んーーー良い物を買えた!」

「まったく……それにしても、ここまで突拍子もない事するのは3回目ね」

「あるぇ?そうだった?」


 帰宅の道すがら、本当に覚えてなさそうな声をあげるささえ。

 本当に覚えていなかったら頭を叩いて思い出させようかな。


「ハァ……1回目は小学校の時、2回目は高校3年生の時よ」

「すごい、なるせちゃん良く覚えているねぇ」

「あれだけ衝撃的な事されたら覚えているわよ……」

「あっ、思い出した!小学校の時は湍ちゃんの事だよね」


 どうやら思い出したようで、懐かしい思い出に頬を緩める。

 当時はなんでそんなことをするか疑問だったけれど、今ではあれが正解だったのかなと思う。


「あの時は、誰とでも仲良くなろうとしていたささえが、いつもの様に話しかけたと思ったら、私に引き剥がされた後は嘘の様に大人しくて驚いたわ」

「あんなに怖がられたの初めてだったからねぇ」


 湍ちゃんと言うのは、小学校中学校まで一緒だった女の子。

 同性でもあれほど可愛らしい子は、なかなか見かけられないだろうって思えるほど。


「それもつかの間、急に親衛隊を作ろう!なんていい始めるものだから、凄く驚いたわよ」

「だってさ、この子は守ってあげなきゃ!って思ったんだよね」


 初めてささえが声を掛けた日の事は、今でも覚えている。

 普段とは違い愛らしい彼女に似合うフリルが施された服を着ており、彼女の座るあの空間だけ別世界の様に思えた。


「確かに、ささえに対して子猫の様にビクビクしてたものね」

「ぶーーーっ、私だけじゃないもん!なるせちゃん言い方がイジワルだよぉ」

「ごめんごめん。でも本当の事じゃない」

「そうだけどさーーー」


 ささえも可愛く愛嬌のある方なので、怯えられるという事がなかったので衝撃的だった。

 そこからなぜ、自分に対して怯えている相手に対して保護欲が湧くのかは分からないけど。

 

「もうね、あの湍ちゃんを見た時にビビーンと来たんだよね。親衛隊作らなくちゃ駄目だって」

「そこからクラスメイトを巻き込んで、更には別のクラスまで親衛隊にしちゃったものね」

「湍ちゃんお守り騎士団長ですから!」


 確かにあの時、ささえが動いていなかったら危なかったかもしれない。

 今まで可愛い女の子としてある程度注目されていたのが、あの日の恰好で学校中がその認識を改めた様に思える。

 上級生ですら噂する程だったのだけれど、本人には届いていないようだった。

 その周囲と本人の意識の差は危ういもので、湍ちゃんに声を掛けようと何人もの先輩などが来たけれど、それをささえとクラスメイト達が押しとどめていたのは今となっては良い思い出だ。


 昔話に花を咲かせていたら、あっという間に家に到着。

 そのまま、自分の家へ入ろうとすれば、当然のようにささえも一緒についてくる。


「ふーーー、クーラー涼しいーーー」

「自然に人の部屋で寛いでるわね」

「だって、半分は私の部屋みたいなところあるし?」

「そんなわけ……」


 無いと言おうと思ったけど、確かに良く泊まりに来る彼女の衣服類がタンスの中に入っていたりするので否定できないことに気が付いた。

 逆に彼女の部屋にも私の下着から普段着まで置いてあるのだから、始末に負えない、とはこの事かもしれない。


「そういえば、いつ引っ越しするの?」

「んーーーそうねぇ……夏の間には引っ越ししちゃいたいわね」

「えへへへ、同棲だね♪」

「あんた、放送でそれを言うんじゃないわよ。何度も言っているけどルームシェアだからね」

「はーーーい♪」


 2回目の驚かされた行動、VTuberに一緒になろうと言われたこと。それも大学受験が控えているって言うのに。

 私達は推薦で確定しているとはいえ、何を考えているのだろうと思った。


「まったく……分かっているのかしら……キャッ、こらっ、急に抱き着かないで」

「やーーーだよ、えへへ、あきりん~~~♪」

「まったく……」


 どちらの両親も、2人でいるなら安心ね、みたいな感じで許可をくれた。

 私達の関係性に気が付いているかどうかは知らないけど。


「これで夜遅くに歌配信とかもできるね!」

「そうね、今までは家族に気を遣わないといけなかったから、色々とやりづらかったわね」

「こういう事とかね、チュッ」


 ささえは私に覆いかぶさるようにして、頬に口づけをした。


「こーーーら、今は汗をかいて汚いからやめなさい」

「えへへ、ちょっとしょっぱかった」

 

 そういって笑うと横へゴロンと寝転がった。

 ほんと、人の嫌がることはしない子なんだから。

 恋人のようでそうではない、友達や親友と言うには近すぎる関係。

 ささえにとっては、犬が顔を舐めるのと同じ行為なのかもしれないが、私の心臓は素早いビートを刻んでいる。


「あーーーきりん」

「なに、かかえ」

「呼んでみただけ、えへへへ」

「はいはい」


 配信当初では危うく私の本名を呼びそうになったりしたけど、今では使い分けが出来るようになって何よりだわ。


「そういえば、最近は新人のシロネちゃんにご執心だけど、何か理由でもあるの?」

「何となくほっとけないのもあるけど、こう……湍ちゃんの時みたくビビーンと来たんだよね」

「ビビーンとね……」


 最近出る話題と言えば、シロネちゃん、シロネちゃん、コラボの話、シロネちゃん、遊びに行く話、シロネちゃん。

 私としては、ちょっと面白くない。


「それなら、私とシロネちゃん。どっちが好きなの?」


 こんな事聞くなんて、めんどくさいヤツって自分の事ながら思う。

 でも言わずにはいられない。


「もちろん、あきりんだよ♪」

「……そう」


 さらにもう一歩。

 愛してるの?恋人になろう?と聞けない自分の臆病さが嫌になる。


「次のコラボ、なにしようかー」

「そうねぇ……」


 でも今は、この関係を壊したくない。

 私は物思いにふけりながら、かかえの言葉に相槌をうつ。

 引っ越したら、私達の関係性も変わるのだろうかと。

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