4話 閑話

世闇イズモside


「ふぅ~~~~」


 濃い面子に囲まれた初打ち合わせが終了した。


「ふふっ楽しかったなぁ~~~~んんん~~~~~!」


 椅子の上で伸びをして同じ体勢で凝り固まった身体を解し、心地よい疲れと共に背もたれに背中を預ける。


「アリアちゃん、メメちゃん、それにシロネちゃん」


 先ほどまで喋っていた同期達。

 みんな個性が強かったけど、ブッチギリはシロネちゃんだね。

 ただオドオドしているだけかと思ったら、泣き出したり、ツッコミを入れたり、驚いたりと感情のジェットコースターで飽きが来ない


 マネ子さんから事前に聞いていたけど、あれほどとは思わなかった。

 でも、それが嫌ではなく、むしろ構いたくなる。嗜虐心が擽られて、お節介を焼きたくなってしまう。


「周りから散々お節介焼きって言われてたけど、それ以上になりそう」


 シロネちゃん。キャラデザの様に猫のように警戒心が強そうで、慣れたらすり寄ってくる。


「もっと仲良くなって一杯コラボに誘っちゃうぞ!めざせイズシロ!」


 この界隈では、仲の良い同士を頭文字2つずつつなげて言うのが主流。

 だからリスナーからそう呼ばれるようにがんばろうと小さい目標を掲げて、私は次の準備に取り掛かった。

 私がVtuberになった最大の理由、コラボ配信の為に。



 

 準備やら打ち合わせやら、色々やっていたらもう初回配信。

 私はトップバッターと重要な役目を担う事になった。

 次に重要なトリになったのはシロネちゃんで、本人は案の定驚いて震えていた。

 テンパって何かやらかしそうなので、フォローが効きやすい所にして貰った。何もなくても全員の初配信が終わったらゲリラ的に反省会コラボをやるつもりでいる。

 でも、先にシロネちゃんに伝えておくと動揺しそうだから、私は他同期2人だけに教えて本人には伝えてない。


 開始時間まであと1分。

 すでに登録者数は1万を超えており、同期達も同じぐらいになっており、さらに待機所では沢山のコメントで溢れ返っている。


コメント:待機

コメント:待機

コメント:どんな娘かwktk

コメント:あともう少し

コメント:ワクワク


 待機人数5000人弱。この数字は先輩方が築き上げて来た信頼と実績の数字。

 そのことを踏まえて、私は今からこの人数を相手に喋ることになるんだ……。

 ちょっと緊張してきたかも、いや、ちょっとじゃないか。普通に緊張してきた。


ピョコン!


 通知音を切り忘れたディスコードから唐突のチャット着信音。

 画面の右下に出て来た通知欄には、シロネからのチャットが来ていた。


シロネ:が


「が?……どうしたんだろう」


 頭を捻っていると更にチャットが飛んできた。


シロネ:がんばって


「がんばって……ふふっ」


 普段自分からチャットをしないクセに、こういう時にしてくるなんてズルい。

 あのシロネに応援されたら頑張らざるをえないよね。


「よーーーし!5000人がなんだ!わたしゃ~がんばるぞぉ!」


 時刻は20時。

 程よい緊張を胸に、私は配信を開始した。


「皆さん初めまして!私はVワールド3期生の悪魔っの世闇イズモって言います。イズモって呼んでね!」


コメント:こんばんわ

コメント:こん

コメント:声かわいい

コメント:ファンになりました


「あわわ、みんなのコメントがすごいね!あっ、ファンになってくれてありがとー!」


 私の言葉に反応してくれるコメントを見ていると、配信前の緊張が嘘のように楽しくなる。

 さーーーて、みんなにバトン渡すために頑張りますか!


「ドドンッ!まずはプロフィールと目標」


 画面に映し出されるのは世闇イズモわたしの細かいプロフィールと目標が履歴書の様に書かれた物。


コメント:履歴書みたい

コメント:むしろ履歴書では

コメント:履歴書やんけ!


「いやーーー伝えやすい物って考えて作ったらこうなっちゃいました、てへぺろ」


コメント:てへぺろって

コメント:今どき使うやつおるぅ?

コメント:ふっる


「古くないやい、ナウでヤングじゃい!」


コメント:言葉のチョイスがw

コメント:やはり古い

コメント:イズモおばあちゃん・・・


「ほらぁ~私、悪魔っ娘ですし?とりあえずそれは置いといて、それよりも!自己紹介をします」


 私は確かな手ごたえを感じながら、初回配信を進めていった。




花咲メメside


「さすがイズモ、安心の出来る配信でしたねぇ。私も頑張らないとぉ」


 なんて言ってますがぁ、初配信は緊張しますね。

 少し早めに終わったイズモの初配信。あと3分で自分の枠。


 落ち着くために、目の前に用意した紅茶のペットボトルを飲んで落ち着きましょうか。

 

「ゴクッゴクッゴクッ、ふぅ~~~。……飲んでも全然緊張が取れないですね」


 いつも通りの自分をって思う程、ドツボにハマる感じがします。

 イズモはどうやってこの緊張を乗り越えたのやら。


ピョコン!


シロネ:がんあ


「がんあ?タイプミス、ですかねぇ」


 突如飛んできたシロネからのチャット。きっとがんばと打ちたかったのですかね。緊張してタイプミスしたまま送信してしまったシロネが思い浮かびます。

 私よりも、同期の中で一番緊張しているであろうシロネ。


「猫さんの為にもがんばりましょうかぁ」


 もしかしたらぁ、イズモにも同じようにチャットを送ったかもしれませんね。

 そしてついに、放送時間になった。


「皆さぁ~~~ん、初めましてぇ。私はVワールド所属3期生の花咲メメといいます。ゲーム大好きっです」


コメント:始まった!

コメント:きちゃー!

コメント:かわいい

コメント:声ドストライク

コメント:ゲーマーきたー!


「お~~~すごいすごい。沢山コメントしてもらえてぇ、嬉しいです」


 この調子なら、無事に初配信を終えることができそう。

 

「それではぁ、自己紹介からいきますね」


コメント:待ってました!

コメント:わくわく

コメント:オラわくわくすっぞ!


「なんか一部戦闘民族さんが居ますね。私もぉ、強い人と戦いたいです」


コメント:まさかの戦闘民族枠

コメント:まさかやべーやつ?

コメント:ゲーム配信楽しみ


「ゲーム大好きなんでぇ、ゲーム配信は沢山したいですね。視聴者参加型とか」


 コメントを弄りながらも順調に進めて行けば、あっという間に配信終了の時間に。

 長いようで短い25分間だった。


「それでは私の枠はぁ、この辺で終わりにして。次のアリアに皆さん移動してあげてください。URLは概要欄にあるのでぇ、そちらからー」


コメント:おつ

コメント:了解

コメント:あいあいさ

コメント:おつおつ

コメント:わかりました!


「それではまたねぇ~」


 そう言って私は配信終了ボタンを押して、枠を閉じた。

 やっぱり緊張していたみたいで、少し疲れましたね。


「ふぅ~~~~~~」


 一息ついた瞬間、すぐにディスコードから着信。

 もちろん相手はイズモ。


イズモ『もしもし~』


「もし~おつかれ」


イズモ『メメちゃんもおつかれさまー。配信とっても良かったよ!』


「イズモもぉ、よかったですよー」


 お互いの健闘を称え合いながらアリアの放送枠を開く。

 少しの待ち時間がある中で、ふと疑問に思ったことを口にする。


「ねえ、イズモぉ」


イズモ『なになに?』


「もしかしてぇ、配信前にシロネからチャットきませんでした?」


イズモ『きたきた!どうして分かったの?もしかしてメメちゃんも?』

 

「タイプミスしてぇ、がんあってきたよ」


イズモ『あっはっはっはっは!私の所も最初、が、だけが送られてきたよ」


 突如始まったシロネトーク。

 アリアの配信が始まるまで盛り上がりながら、彼女の待機画面を見つめた。




音町アリアside


「あーーー緊張する、あーーー緊張する、あぁーーーーー緊張するぅ!」


 イズモ、メメと続くごとに視聴者数は伸びていき、待機画面を見れば既に待機人数8000人越え。

 カラオケとかで、人前で歌うのは慣れていたけどここまで大人数相手だと思うとプレッシャーを感じちゃう。むしろ緊張しない人なんていないでしょ!?


「そういえばイズモもメメも、あんまり緊張してない雰囲気だった……やっぱり慣れとかかな?」


 もうあと2分。

 何かをするとしても時間がないし、どうしよう。

 悩んでいるとピョコン!とチャットの着信音。


シロネ:『が』


「がぁ?」


 唐突なシロネからのチャット。それも意味不明。


シロネ:『ん』

シロネ:『ば』

シロネ:『れ』


 不審に思っていたら、さらに連投される1文字。


「が ん ば れ ?なんで1文字ずつ???」


 シロネの不思議なチャットに頭を捻っていたら、時間があと1分を切りそうだった。


「やばいやばい、スタンバイしなきゃ」


 配信開始ボタンを押せるように慌てて準備。

 もう、急に変なチャット送ってくるから気が逸れちゃった。


 そしてついに時間になり、開始ボタンをポチ!


「みんなーーーこんばんわーーーーー!」


コメント:こんばんわー!

コメント:きたー!

コメント:きたきた

コメント:こんばんわ!


「みんなコメントありがとうッ! 私の枠に来てくれて感謝!楽しい配信にしていきたいと思うから、みんなも協力してね」


コメント:まかせろ!

コメント:がんばって!

コメント:腕がなるぜ

コメント:バリバリ


 あれ、何だかさっきまでの緊張が嘘のように、普通にお話出来てる。

 もしかして、シロネの不思議なチャットのおかげ……だよね。


「私はVワールド所属3期生の音町アリアって言います。名前の通り歌うのが大好きなのでいーーーぱい歌いたいと思います!」


コメント:おっ!

コメント:みんな違うんだね

コメント:歌楽しみ

コメント:歌枠はよ

コメント:正座待機


「あはは、みんな気が早すぎ!あとで歌枠とったりするのでその時は絶対に聞きに来てね!」


 シロネからのサプライズな励ましに感謝をしながら、私は精一杯明るく楽しく喋り通した。彼女の応援がしっかりと伝わったことが少しでも届く様に。


 そして気が付けば配信終了。なんだか、あっという間だった。

 やり遂げた充実感に包まれるけど、まだ終わりじゃない。


 私は既に同期2人が集まっているディスコードの通話に混ざりに行く。


「おつかれー!」

イズモ:『おつおつ』

メメ:『おつかれさまですぅ』

イズモ:『ねえねえ、アリアの所にもチャットが来た?』


 どうやら私の考えは当たっていたみたいだ。


「きたきた。まさかシロネから応援メッセージが来るなんてね」

メメ:『ですねぇ。でも、そのおかげでぇ、緊張が解けました』

イズモ:『持つべきものは同期だねッ!』

「あれれ~?シロネ以外からは来なかったぞぉ~?」

メメ:『それを言うならぁ、アリアだって送ってないですよね』

イズモ:『みんな自分の事で精一杯だったからね。むしろシロネちゃんから来たことに驚きだよ』

「自分の方が一番震え上がっているだろうに、名前のごとく」


 怖がりで、臆病で、すぐ不安になるくせに、相手の事も思い遣れる。

 でもその所為で余計に不安になってしまう。

 そんな不器用な娘だからこそ、私達は今ここに集まっている。


イズモ:『まぁまぁ、そう言わないで。ほら、シロネちゃんの配信が開始するよ』


 私達3期生の最後の初配信。

 きっと彼女は何かしらやらかすだろうけど大丈夫。

 なんてったって――――


「私達はVワールド3期生だからね。しっかりと応援しちゃいますか!」

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