クソ雑魚メンタルなTS娘はマッマの所為でVTuberデビュー

totto

プロローグ

桜が蕾を見せ始めた今日この頃。


九津々海『それじゃあ皆の衆またね~』


「今日も九津々くつつ かいちゃんの配信よかったぁぁぁぁぁ」


 推し 《自分がファン》の1人であるVTuberの生放送配信が終わり、一息つく。精一杯コメント書き込んだ手を解して椅子に寄りかかり身体を伸ばす。

 VTuberとはVirtualヴァーチャルな2次元キャラクターの皮を被りYouTuberとして活動する人達のことだ。

 彼女は個人勢VTuber《どこの企業にも属さない個人配信者》として活動しており初期の頃から追っている最推しであり、この間の記念枠で初めてのスパチャ《スーパーチャットと呼ばれる配信でお金を送り付けて活動支援できるシステム》でスパチャ童貞を捧げた相手であり、ママになって欲しいと常々思っているVTuber。


 個人配信1人で配信することもいいが軽率にコラボ《他のVTuberと一緒に配信すること》をしててぇてぇ 《尊すぎて脳死により語彙力が溶けて尊いが変化した物》配信もして欲しい。

 むしろ積極的にてぇてぇをして悶えさせてほしい。


 僕は一度男として死んで、女として生まれ変わった稀有な体験を持っている。

 前世ではコミュ障でまともに友達が出来ずに過ごしていたから、今世では友達を!

女友達を!と意気込んだけれど変わらず。

 今世も友達0人……いったい何が悪かったのでしょうかねぇ。やましい気持ちは……これポッチしかないけど。


 小中高とボッチで卒業、無難に実家から近い大学を受験して無事に合格。大学生になれば同じ趣味の娘と仲良くなれるのでは(下心あり)と思っていたけど、悲しきかな選択教科。高校までと違い同じ空間に居るのは1限だけ、どうやって仲良くなるの?


 サークルに参加なんて出来るわけもなく1年が過ぎ、春休みの有り余る時間はこうして推しを追っかけていられるので万々歳。きっと暇な陽キャ達は友達と遊びに行っているんだろうね。僕はもっと有意義に使っているけれど!


 人と話すのが怖いから友達が居なくても、推しと推し仲間ファン仲間が居るからボッチじゃないし、寂しくなんかないからね!(仲間意識)


「…………友達欲しい……」


 などと強がってみても、やっぱり友達は欲しい。

 確かにVTuberの配信は楽しい。自分のコメントに反応してくれた時は自分という存在が認知されて認められたようで嬉しい。

 推しがコラボで他の推しVTuberとの配信も楽しい。尊いを通り越して頭を溶けててぇてぇとしているのも至福の時だ。


 でも本当は、VTuberの様に色んな人と…………百合百合しゲフンゲフン。


「はぁ~~~~~~。Twitterでも見るか」


 虚しくなった気持ちを上げるために、新しい情報はないかとSNSのチェックする。

 神イラストにいいねをしながら眺めていると、何かに惹かれる様にとあるツイートを見かけた。


『Vワールド 3期生募集!』


 それは、今勢いに乗っているVTuber企業のツイートだった。

 最近、ようやくファンが増えてきてVTuber企業として認知度が高くなってきたところでこの募集。

 

「へぇ~。ようやく3期生募集するんだ。そっか……」


 いつもなら軽く流していたし、コミュ障なボクが応募なんて絶対に考えられない。

 しかし、この時は導かれるように募集要項を確認し、応募用の動画を撮っていた。


「よし、良いのが出来た!イラストが描けて、動画編集も出来る様になっていて良かった」


 我ながら良い仕上がりだ。無駄に1人の時間をスキルアップに費やしていたわけではない。

 しかし、ボッチコミュ障の僕が応募に投げられる訳もなく、パソコンのデスクトップに鎮座させているのみ。


「ハァ……寝よ」


 眠りについた僕は、その後コッソリと部屋に侵入する不届き者に気が付かなかった。



 そして数日後、


「1次審査合格!?どどどどどどっどういうことおおおおおお!」

「あら、どうしたのそんなに騒いで」


 お昼の為にリビングで待ちながら、暇つぶしにメールチェックをしていたら、謎の合格通知。

 悪戯メールかと思い開いてみればVワールドからの合格通知、ならびに2次面接の案内文。


「あら、代わりに投稿しておいたのが受かったのね。流石私の娘ね♡」

「なっなにが私の娘ね♡だよ!なにしてんのお母さん!?」


 やめてよ、勝手に部屋に入らないでよエッチ!

 なんて言えるわけもなく、こんなコミュ障ボッチな僕を温かく見守り育ててくれたお母さんに逆らえるわけが無かった。


「だって、折角良い動画があるのに投稿しないなんて、勿体無いじゃない」

「だっても、勿体無いじゃないもないよ……」

「友達が欲しいと嘆く娘であり、初めての収入で赤スパ投げてまでママになってと送ってくれた子だもの、ひと肌脱ぎたいと思うじゃない」

「確かに嘆いてたけ……なんでお母さんが赤スパチャの件それ知ってるの……?」


 ちなみに赤スパチャとは、スーパーチャットで送る金額によりチャットの色が変化し、1万以上の金銭を送ると赤くなるので赤スパチャと呼ばれる。

 お母さんもアニメやゲームが好きで、一緒に盛り上がったりするけどもしかしてVTubeも視ていたり―――――


「何を隠そう、私が個人勢VTuberの九津々海ですもの。ありがとうね、クラハセちゃん(配信声」

「ミ゛ャ゛ああああああああああ!?うそだああああああああああああああああ」


 嘘だと思いきや、お母さんの口から聞きなれた声が生音声で出て来た!?

 えっなにこれ、どういうこと。

 まさかの推しと同居していた……?

 それもむしろ推しから生まれていた……?

 いや、確かに……バブみを感じ過ぎて生んで欲しいとコメントしたことあった……あれ、夢が叶ってる……?

 むしろ、本当に九津々ママって呼んだ方が良いのでは?やったぁ!(錯乱)


「って違うぅぅぅぅううう!そうじゃないだろ!!!」

「あらやだ、この子ったら壊れたのかしら?」


 多くの企業がVTuberを輩出するなか、九津々海ちゃんは個人でVTuberとしてデビューしたロリ系の女の子。

 容姿からは考えられない程の包容力に溢れており、ストレス社会に癒しを与えてくれるバブみ系ロリVTuberとして爆発的な人気が出てきて、活動開始から1年目にしてチャンネル登録者数30万人をこの間突破。

 30万人記念枠の時にイラストで稼いだお金で赤スパチャを投げたのだ。


「とりあえず、クラハセちゃん(ハンドルネーム)頑張ってね♡(九津々海声」

「ああぁぁぁぁ……」

「さあ、コミュ障クソザコメンタルを武器に立ち上がるのよ!きっとあなたなら良いVTuberになるわ。それにお母さん親子でVTuberとか憧れてたのよねぇ」


 慈悲もない応援?に僕は絶望と共に膝を付いた。

 そして早くも数日が過ぎ、心の準備も出来ないまま面接の日が遂にやって来た。


「お母さん、どっどうしたらいいの?」


 知らない人に囲まれるという余りの怖さに、お母さんに面接会場前まで一緒に来てもらった。


「大丈夫よ、百合好きで女の子好き、ボッチでコミュ障クソザコメンタルで、合法ロリ。もう個性の役満。そんなあなたならイケるわ!」

「うぐっ……」


 なんで百合好きで女の子好きだって知ってるのだろう。誰にも言ったことないのに……。


「なんでって顔してるわね。そんなの貴女のお母さんだからに決まってるじゃない」

「アッハイ」

「という事で、逝ってきなさい!」

「なんか発音違う!?」


 僕はお母さんに見送られて、エントランスへ足を踏み入れた。

 受付の人に会社見学と間違えられながら、どうにかVTuberの2次面接に来たことを説明しても理解されず、通知書を見せる事でようやく案内してもらえた。


「ヒッ……人がたくさん……」


 出来るだけ人が少ない所を探して椅子に座る。

 膝の上で配られた番号札を握りしめ、そこに目線を合わせて誰とも視線が合わないようにする。そうしないと話しかけヤられてしまう。

 何度も番号が呼ばれて行き、その都度ビクビクしながら番号を確認する。何度も見返しているけど緊張のし過ぎで自分の番号を覚えられない。


「5番の方ーーー、面接室へお入りください」


 係員の呼ぶ声。再び手元の番号札を見る。そこには5番、遂に僕の番。

 僕はスネーク《某スニーキングゲームの主人公》、僕はスネーク。段ボールが無くてもスニーキングできるはず。

 暗示をかけて出来るだけ人目に付かないように、そそくさと呼ばれた方角へ向かう。


「しっ失礼します……」

「どうぞ、そちらへお掛けください」

「はっはい……」


 僕は指示された通りに中央に設置された椅子に座る。

 そこでようやく、下げていた視線を上げた。


「ミャッ!」


 自分に突き刺さる男女の目線に驚いていつもの悲鳴が出てしまった。


「ハハッとても可愛らしい悲鳴ですね。書類にも書いてありますが、ご年齢は19歳でお間違いないですか?」

「はっハヒ……」


 ちなみに提出書類も自分では書いていない。提出動画それ提出書類これも母親が勝手に送ったものだ。


「応募動機はコミュ障クソザコメンタルを克服したいのと、ボッチ卒業。VTuber同士の百合百合したてぇてぇが大好きなので、自分も是非ともしたいと」

「ミ゛ッ゛!?」


 確かに呟いたことはあるけど、なんでお母さん知ってるの!?

 もうだめだ、お終いだ。


「ええええ、えっと、その、嘘ではないんですけど、その、あの、ええっと」


 ナニコレ、何の公開処刑?

 なんで母親に趣味がバレて、それをこんな人前で暴露されてるの?

 もうそこから訳が分からなくなって、自分でも何を喋っているのかあやふやになりながら面接を終えた。


 どうやって帰って来たかも怪しい程だったのに、後日送られて来たのは合格通知。


「ミ゛ャ゛!?う……うか、受かってるぅぅぅぅぅぅ!?」


 もう逃げられない!

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