6話 武器・防具屋に入る
私にとって武器は知識だった。
防具は知恵だった。
虐められっ子だった私にとって、それはある種の賭けだった。
武器や防具は間違えると自分を傷つけるからだ。
その賭けは今のところ、間違えてはいなかった。
本は私にとって武器であり防具である。
それが集う書店や図書館は武器屋であり防具屋であった。
その武器防具屋が会社の近くにできた。
某レンタルDVD屋(今はもう、レンタルビデオ屋とは言わない)系列の書店で大手喫茶店も併設されている。
この武器防具屋を外から見たとき思った。
――ヤバい、これはお洒落系だ。
普段家では上下スエットという布の服を着ている私にとって、お洒落空間は何か結界のようなものを感じるのだ。
『この結界の中に入るには、せめて家でもひざ下まであるトータルネックセーターを着てお洒落マグカップにお洒落な紅茶でも飲みなさい』
などと言われている感じなのだ。
(なお、私は首が太いためトータルネック、通称とっくりは首への圧迫感などで遠慮している)
しかし、最近、マンネリ化しつつある書店開拓に風を吹かせるためにも行っては見たい。
そして、新年。
ある仕事帰りの日に私はわざと帰宅時間を他の職場仲間とはずらして(それでも十分程度)武器防具屋に入った。
「おや、いらっしゃい。冒険者かね?」
などと聞く武骨なおっちゃんはいない(武器屋のイメージってこれ)が若い店員と同じように知識の冒険者たちが店の中の
まずは、併設されている喫茶店に向かう。
仕事ですり減った魔力や体力(早い話が集中力など)を回復させる。
「いらっしゃいませ」
カウンターでアルバイトの店員がナイスな笑顔で迎えてくれた。
「えー、と。アイスコーヒーとクラムチャウダーを下さい」
「はい、○○円になります」
料金を支払い、私は出来上がるまで周囲を見た。
周りは可愛い女子高校生やリモートワークなのかパソコンとにらめっこしてキーを叩く人、上品な老婆などがいた。
みんな、お洒落。
オフィスカジュアル姿の私は浮いてはいないが某大型体形用服屋さんで買ったV型カーディガン、薄めのセーター、パンツ姿。
防御力は低い。
厚手のダウンジャケットにミニスカートの女子高校生たちがまぶしい。
店内を見回す。
店内もお洒落仕様だった。
英語で書かれた分厚い書籍などが中央に柱に立てかけられている。
少なくとも私の愛読漫画『北斗の拳』は入る余地はない。
「お待たせしました。アイスコーヒーとクラムチャウダーです」
「ありがとうございます」
店員は去り、私はまず、コーヒーを飲んだ。
特にマイナスの部分があるわけでもプラスの部分があるわけでもない。
――うん、普通のコーヒーだね
これが私の素直な感想。
それよりもクラムチャウダーに目が行く。
好物である。
ずっ、とスプーンで飲んでみる。
――?
何か、違和感がある。
その正体は三分の一ほど飲んだところで分かった。
中から、得体のしれない物体が出てきた。
『食べ物だよな、これ』
とちょっと勇気を出して口に入れた。
驚いた。
『これ、冷凍のシーフードミックスじゃん‼』
そう、このクラムチャウダーは冷凍を電子レンジで解凍しただけのもの。
私の違和感。
それは温かったこと。
(言い訳がましくなるけど、味自体は美味かったです)
体力を回復させたいはずなのに、削られた気分だ。
さて、本来の目的である武器選びだ。
結論から言えば、私とは少しピントが違った。
身軽な魔法剣士用のレイピアとか魔法の鎧(ライトノベルなど)は充実しているが私が求める重量級の剣(時代劇小説など)は、専門コーナーはあるが、他の書店と同じあまり変わり映えがしない。
他にも魔法使い用の杖(政権批判本など)などもあり装備できないか試してみた。(立ち読み)
同じような知の冒険者たちもドリンク片手に添えられたソファーでくつろぎながら選定をしている。
結局買ったのは僧侶のメンス(仏教に関するお経と仏像に関する入門書)と回復薬(『毎日が元気になれる』様なマインド系)。
約三時間後。
私は駅へと足を運んだ。
すでに頭の上では星が生まれて瞬いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます