7話-2 塔に上る その二 ワタシハワルイコ
最近、週末にスポーツジムへ足を運ぶことが多くなった。
元からジムのスタッフさんとも仲がいい。
ただ、仕事や通院などで疲れて(歳を取るって嫌ですね)近年ジムへの足は遠のいていたのは事実だ。
では、なぜ、ジムへ通うようになったか。
まず、メディア疲弊というのがある。
もちろん、インターネットやテレビの情報にはコロナ関連のニュースもあるが怒りや不安をあおる報道に嫌になった。
あとは『コロナになったら運動できない』という変な危機感がある。
時々、『ご自宅でできる運動・器具』とかたまに目にするがそれをちゃんとするには、よほど運動や体の構造に対して知識や経験がないと難しい。
ジムには、ちゃんとした指導員がいるので安心できる。
さて、本編である。
ジムで汗を流し荒い息のまま着替えを済ませてカードキーと、代わりに渡した会員所を受け付けのトレーナーから渡してもらう。
「お疲れさまでした」
「まさか、インターバルで一段重いダンベルを持たされるとは思いませんでしたよ」
「……ああ、ベンチプレスですね。ちょっとした、復帰の歓迎ですよ」
「そんなよりヴァームウォーターを無料で欲しいです」
「それでしたら来週からヴァームが半額になりますから、来てくださいよ」
「もちろん」
「隅田さん、何度も言っていますが減量には三つの要素があります」
「運動と休息と食事でしたね」
「そうです。運動も休息も大切ですが食事にも気を付けてくださいね」
「はい」
そんな話をして私は建物を出た。
トレーナーは知るまい。
マスクの下で私が邪悪に笑っていたことを。
――ワタシハワルイコ
駐車場に止めた愛車に乗り、私はジムを出た。
普通なら家に戻るが、私は反対方向にハンドルを切る。
やがて、煌々と光るラーメン屋についた。
今回はちょっと趣向を変えて店の実名を出そう。
『一風堂』というラーメン屋だ。
全国展開をしているので知っている人も多いだろう。
特徴としては(個人的意見です)「おしゃれ」であることだろう。
前回の武骨なラーメン屋とは違う。
店内に流れる音楽がジャズで、木目調の品のいいテーブル……
休日の昼間や仕事帰りの夕方には月一でちょいちょい食べるのだが夜に行くのは初めてだ。
夜。
いや、深夜といっていいだろう。
時計は既に夜十時半を回っている。
――夜にラーメンなんて、ジムのトレーナーが聞いたらどんな表情をするだろう?
そんなことを考えながら店の引き戸を開けた。
「いらっしゃいませー」
店員も前回とは違う。
おばあさんではなく若い男性店員だ。
手を店先のアルコール除菌で消毒する。
「いつもありがとうございまーす」
うん、完璧に顔を認知されている。
店員の案内でカウンターに座る。
相変わらずおしゃれである。
クリアガード越しに見るオジサンもおしゃれに見える。
というか、閉店間際だというのに、結構人がいる。
中にはラブラブなカップルがテーブル席で話している。
そのうち、注文の品が来る。
「おまちどうさまでした。かさね味の煮卵トッピングです!」
まず、レンゲでスープを啜る。
あっさりしているが、味がないわけではなく、むしろとんこつの味が濃厚。
細めん(私は硬さを普通にしています)を啜る。
噛み応えのある、ほんの少し芯を感じる固さだ。
チャーシューは沈める。
煮卵はすぐ食べる。
この後は例のごとく吹っ飛ぶ。
今回はスープも平らげてた。
――うん、確実にジムでの消費カロリーより食べたな
お金を払い、外に出て再び愛車に乗り込み、今度こそ家に向かった。
普段は混んでいる道が夜十一時を回るとほとんどの店は明かりを消して閉店している。
やっているのはコンビニとか二十四時間営業のスーパーぐらいである。
車を家の駐車場に止めて外に出る。
ひんやりとした空気に私は空を見上げた。
余計な光がない、今日と明日の境目の時間。
そこには満天の夜空があった。
だが、オリオン座以外分からない。
昼間なら見えないものだ。
――夜の匂い
それを感じながら私は家に入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます