8話 私は呪われた

 私と両親は今、別々の場所で暮らしている。

 喧嘩別れとかでもないのであるが、引っ越す際の手続きに不備があったらしく親への重要な書類がなぜか私の家に送られてくることがある。

 仕事のイライラもあり、時々親の家に届けることをする。

 だいたい、車で一時間なので朝早い私には少し微妙な距離だ。


 さて、その日。

 夕方。

 仕事帰りのポストを見ると『重要』と書かれた分厚い封筒があった。

 あて名は父だ。

 最近、仕事で精神を使った。

『行ってやるか』

 私は仕事モードから私生活モードに切り替えて(ヘアピンを取る、化粧を落とす)をして免許証を持って車に乗り込んだ。


 車の中はほぼドラマやアニメのBGMである。

 あとは、マンウィズアミッションやピットブル(知っている人いるかなぁ?)なんかも聞く。


 しかし、腹が減った。

 仕事帰りの車で渋滞にハマるとなかなか抜け出せない。

 だいぶ、車の量が減ったあたりでコンビニに立ち寄る。

 アイスコーヒーと適当な食事を買うためだ。

 そこに、「肉巻きおにぎり」があった。


 九州などではメジャーな食べ物らしい肉巻きおにぎり。

 近年では居酒屋や通販でも買えるようになった。

 私も興味があった。


 肉巻きおにぎりとコーヒーを買ってレジに置く。

 アルバイトの店員が聞いてきた。

「温め、どうなさいますか?」

「おねがいします」

 私はこの時、舐めていた。

 コンビニの「温める」とはぬるいものだろうと。

 たこ焼きにしても温い。


 ところが、このアルバイトは真面目だった。

「はい、出来ました」

 出てきたおにぎりは湯気で出ていた。


 車に入って食べてみる。

――熱い!

 舌火傷を受けそうになった。

 私は猫舌である。

 少しづつ食べるがなかなか減らない。

 味なんてわからない。

『ええい、こうなったらコーヒー飲んで冷やして一気に食べちゃえ‼』

 コーヒーを飲んで喉奥へおにぎりを入れる。

――熱い!

――あつい‼

――アツい!!!

 その後、戻ることも一瞬頭をよぎったが、それも無理だと悟り無理やり飲み込む。

 喉の内部が痛い。


 私は、この世界に『呪い』というのはないと信じたいタイプの人間だが今回は「あー、呪いを受けるとこんな感じになるのか」と思った。

 まず、声を出すのさえ、痛いし違和感がある。

 飲み物も水でも痛い。

 ここ数日でだいぶ良くなったが、周囲からは、普段ただでさえ厳めしい顔なのにさらに険が入り私に安易に声を変えようとする人はなかった。

 声自体には変化はなかった、それでも必要最低限のことしか言わないので上司たちも「顔が厳しいよ、笑顔はどこに置いていた?」と言ってきた。

 この時の心の中の反論。

『私の呪いを受けてみる?』


 

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