13話-2 沼を進む それは幻の花

『カレー沼』という新たなダンジョンに入り、困った。

 モンスター多すぎ。

 通路の分岐も多い。

 探索しながら私は、この抜けられない迷路を彷徨っていた。

――おい、今なら珍しい花が咲いている場所があるからそこに行く?

 前回召喚した、やかまし男がささやいてきた。


 現実世界では、私は私用を終えて家に帰る途中、こんな文字を見つけた。

【ごろごろチキンのバターチキンカレー】

 店は牛丼チェーン御三家の一つ、松屋。

 実は私はあまり牛丼そのものを食べることがない。

 ライバル店、吉野家に数か月に一度立ち寄るぐらいだ。

――バターチキンは基礎中の基礎だから食べることをお薦めする

 やかまし男が脳内で言った。


 気が付いたら松屋の駐車場に車を止めていた。

 車から出て二畳半ほどのエントランス(?)に入ると先に屈強な男性が券売機で四苦八苦していた。

 慣れてないらしい。

「あ、すいません。先にどうぞ」

 男性が横に退いた。

「大丈夫です」

「でも、俺、時間かかりますから……」

「では、お言葉に甘えて」

 私は目的の食券を大急ぎで買い店内に入った。

 食券を出し出された水を飲む。

 すぐに、四苦八苦していた男性も入ってきた。

 お互い目礼。

 ドライブスルーも併設しているので店員さんは忙しそうだ。

 先に出てきたのは男性の牛めしだった。

 私はさらに数分待ってようやく、カレーが出てきた。


 正直、この手の店の「ごろごろ」に私は期待なんてしてなかった。

『どうせ、小さい肉が数かけあるだけだろうよ』

 ところが出てきたのは大きめの食べ応えのある肉が文字通りごろごろしているカレーだった。

 ルーと御飯が分かれている。

 スプーンでルーをすくってご飯にかけて混ぜて食べる。

――どうだい?

『美味しい。でも、私は普段作ったり食べたりしているカレーとも違う……なんだろうなぁ? トマトの味が強いかな?』

 私はトマトは食べられないわけではないがどちらかというと苦手意識が強い。

 だが、このトマト味なら大丈夫。

『……なんか、ハッシュドビーフみたいだな』

 が、このモンスターの恐ろしさはここからだった。

 その時、私は白地の上着を着ていたがルーがはねて跡になる。

『きゃあああああああ!』

――この沼の洗礼

 まだ、ご飯とルーは残っている。

 このままいけば大惨事だ。(衣類的に)

 そこでオプションの味噌汁を啜りながら編み出した策。

 ルーではなくご飯をルーの容器に移し混ぜて食べる。

 これが大成功。

――変なところで知恵が働くな

 これなら洋服は汚れない。

 食べ終わると急いで帰宅して衣類を全部洗濯機に入れて洗浄した。


追伸・松屋の『ごろごろチキンのバターチキンカレー』は期間限定のメニューです。

もしも、売り切れだったらごめんなさい。

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