美しき調べから幕をあげる 懐かしくも新しき《異類婚姻譚》

なんて美しく、愛おしい御伽噺でしょうか。

トントンカラリ、トンカラリ……

そんな美しき調べに惹かれて機織小屋を訪れた龍神族の皇太子が出逢ったのは機織部の幼い娘。彼女は不思議な調子で歌いながら、一心に機を織り続けていた。その娘の純朴なすがたに胸をつかれた皇太子はみずからの素姓を隠して彼女との逢瀬を繰りかえすようになる。
機織小屋は男子禁制。戸を隔て穏やかに喋るだけ。
けれども彼のこころは満たされていった。
しかしながら次期龍王と機織部の娘。横たわるのは身分の差だけではない。それぞれの非業の宿命が絡まりあい、運命はさだめられた悲劇にむかって動きだす――

何処か懐かしい調べから幕をあげる清らかな恋の物語を読み終え、いまその麗しい余韻に耽溺致しております。
異類婚姻譚。といっても近頃流行のものとはひと味違い、もっともっと元祖の、日本神話に近いものを感じます。あるいは昔話。ふたりのあいだに越えてはならない境があるところは、どこか鶴の恩返しなどを彷彿とさせます。

神聖な恋物語を、是非ともトンカラリと紐解いてみてください。
きっと、素敵な読書時間となることでしょう。

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