第11話 段銭拒否のつけ
段銭納税拒否のつけが回ってきた。
それは出雲国内の三沢為忠を従わせた矢先のこと。
経久と結婚するはずの吉川経基の娘、千代についてだが、
経基が結婚をさせることは難しいと言ってきたのだ。
「な、なぜだ!?」
報告を聞いて驚く経久はまだ気づいていなかったが、重臣の湯泰重らは
渋い顔をしている。
「吉川殿は出雲ではなく安芸国の国衆。なれば最近の殿の言動を
嫌っているのでしょう。」
「そ、それはどういうことだ・・・。」
泰重はこれでもわからないか、という顔をしてため息をついた。
「ま、まさか・・・、美保関の段銭のことか・・・。」
「やっとお気づきになられましたか。」
「少しやりすぎてしまったな・・・。」
そう言って後悔する経久。
そして気づきの遅さに呆れる泰重。
二人の関係にはいつしか亀裂が生じていた。
「久秀、吉川殿の千代は大変素晴らしい娘だと聞いている。
だから、ぜひ会ってみたいのだが何かいい方法は思いつかぬか。」
急に話を振られて戸惑いを見せる宇山久秀だが、
少し沈黙した後にこう進言した。
「あくまで推測ですが吉川殿は尼子家との関係が生まれることで
周辺の大名から敵視されることを恐れているのでしょう。」
「確かに私もそう思う。」
「でしたら結婚された上で関係が破綻したように見せかけるための
演技の戦をしてはいかがでしょう。」
「演技の戦・・・。」
経久は素晴らしい作戦だと思ったが、同時にこうも思った。
(しかし、理由付けが難しい。どうやって関係が破綻したのか
偽の情報を撒かなければ情報の確度を疑われる。)
経久が黙ったまま考え込んでいると、横にいる秀綱が
何か閃いたような顔をする。
「どうした秀綱。何かいい作戦でも思いついたか。」
これに秀綱は大きく頷くと、
自信満々に話し出す。
「久秀殿の作戦には必ずそうなった嘘の経緯がなくてはなりません。
その経緯でちょうどいいものを思いつきました。」
「おお、それはいい。早く聞かせてくれ。」
経久は秀綱が初めて考え出す作戦が楽しみで仕方ない。
「吉川殿の千代様に嫁いできてもらった上で、その千代様が吉川家に
密書を書いて送っていたので、吉川家とは手切れにして
家臣が千代様も処罰しようとしたが経久が気に入っていたので止めに入った、
これでどうでしょうか。」
「なるほど。後は処罰しようとした家臣の名前を入れれば完璧だが・・・。」
経久は周りを見渡した。
この嘘の情報に名前を入れたがる家臣はいない。
なぜならこの役目はあまりいい印象ではないからだ。
(この私のわがままについてきてくれる者がいないのは当たり前だな・・・。)
諦めかけた経久だが、ここで一人の重臣が声を上げる。
「この湯泰重で良ければ引き受けましょう。」
泰重が仲の悪い経久を助けようとしたのに他の家臣たちは驚いたが、
実は泰重はこれが最後の仕事であると決心しての行動だった。
「泰重、すまないがよろしく頼む。」
「お任せくだされ。」
その後、吉川家から千代が嫁ぎ、吉川家とも話し合ったその計画を実行する。
「これっ、この書物はなんじゃ!?」
泰重が周りに聞こえるような声で千代に怒る演技をして、
経久に報告を済ませて処罰しようとした泰重を経久が止めに入るという
一連の計画を全て演技で行った。
当然、実際に見た者がいれば噂として各国に広まっていく。
「幸勝、利綱!」
「はは!」
経久は重臣の佐世幸勝と朝山利綱を呼び、最近従ってきた三沢為忠、
三刀屋頼扶、赤穴幸清の軍勢を加えて吉川家の領地に攻め込むよう命じた。
だが、攻め込むとはいっても戦はしない。
戦場でにらみ合った上で両家が計画した通り引き上げるだけなのだ。
幸勝を総大将、利綱を副将とした尼子軍は吉川勢と睨み合った上で
役目をはたして引き上げてきた。
「この私のわがままに付き合ってもらって申し訳ない。」
経久は幸勝らに頭を下げた。
「あ、頭を上げてください。殿の命令通りに動くのが我ら家臣ですから。」
「幸勝は本当にいい奴だな・・・。」
経久は本当に頭が上がらない思いだったが、
幸勝はにっこりと笑ってこう言った。
「当然、恩賞はもらいたく存じます。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます