第20話 誰のため
(考えが甘かったか・・・。)
大内政弘は畳の床を2,3回つつく。
「お呼びでしょうか、御屋形様。」
そこに現れたのは大内政豊の嫡男、大内弘豊である。
政弘の小姓として仕える弘豊は察する力に優れ、
ちょっとした合図で現れるのだ。
「京極政経殿に書状を書きたいから祐筆を呼んでくれ。」
「はは。」
政弘は祐筆を呼ぶと、政経宛てにこのような書状を書かせた。
“政経殿、少しお願いがあるのだがよろしいか。聞いたところによれば
尼子家の重臣たちが主家を離れて京極家に走ったという。
所領を守るためにやったことと思うが、あまりにも忠誠心がなさすぎる。
だから、政経殿にはその家臣たちを尼子家に連れ戻していただきたい。
よろしくお願い申し上げる”
これには政弘の尼子家家臣団を全て取り込みたいという意図が
はっきりと見て取れる。
政弘としては尼子家家臣団を全て取り込むのが目標であり、
多くの尼子家重臣が尼子家を離れたということは放っておけなかった。
当然、政経としては怒りが収まった矢先のことであり、
到底受け入れられない。
「大内政弘め!!さては尼子家を自らの家臣にしようという算段じゃな!」
政経は怒りの返書を認めて送りつけたが、
政弘から返ってきた返書には短くこう書かれていたのだ。
“そこまで怒るのなら、何かできるのだな?”
これに政経は絶句する。
怒りの返書をこういった形で返されてはどうしようもなかった。
京極家と大内家は幕府への影響力で歴然とした差があり、
京極家はこれ以上大内家に逆らえなかった。
こうして政弘に何度も煮え湯を飲まされた政経だが、
まさか自らの孫と大内家が結託することになるとは思いもしないのである。
(誰のために自分は生きるのか・・・。)
経久は考えさせられた。
守護代の職と領地の大半を失った経久は今、白鹿城下を散策している。
特に行く当てもなく歩いていると、ちらほら生活に困窮している人を見かけた。
(そうか、困窮する者を助けてやるのも領主の役目だな・・・。)
ふとこう思ってから、経久はあることに気が付いた。
(これまでは出雲を国として見てきたが、いざ一領主になってみるとわかる。
国とは様々な人の集まりなのか・・・。)
ここで経久は自分が誰のために生きるかの結論を見出した。
(私は領主である以上、領民を戦や飢えから守るために生きる・・・!!)
空を見上げた経久は新たな決意をもとに奮起を誓ったのだ。
もはや大大名になるという私欲はどうでもいい。
とにかく領民のために生きる、これだけだった。
白鹿城に戻った経久は尼子家の財政を傾かせるほどの減税を布告する。
当然、重臣の湯泰敏などの反対意見も出たが、身を削ってでも領民を守るという意思の表れであり、経久は減税を推し進めた。
そんな矢先。
京極政経から連絡があり、尼子家の旧臣を尼子家に返還するというのだ。
その顔触れは宇山久秀や佐世幸勝、朝山利綱などである。
経久はさぞかし驚くと思いきや、かなり冷静であった。
その理由は一つ、実はあの大内政弘の祐筆、大塚又左衛門は尼子家の間者なのだ。
だから、その祐筆から情報が届けられていた。
ただ、唯一予想外もあり、それは戻ってきた重臣たちが
嬉しそうにしていたことだ。
やはり経久と離れて寂しかったというのもあるようだが、
一番の理由は尼子領内の減税にあったようで、尼子家旧臣の領内では
また尼子領に戻りたいという家臣の声が多く聞かれたという。
尼子家の再興計画もまずは家臣からなのである。
戦国に挑んだ男 武田伸玄 @ntin
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