第4話 お供の仲間

「これからお供させていただきたく存じます。」


 経久の京都滞在2年目に仲間が加わった。

出雲にいる経久の父、清定の命で元服したばかりの佐世幸勝させゆきかつ宇山久秀うやまひさひで

清定の手紙を携えて遥々やってきたのだ。


 「父上はそなたらに何と申していた。」


 「はい。“経久様は行動力があるから将来ついていけるように

今から訓練しておけ”と申しておりました。」


 「別についていけないぐらい動いてはいないつもりだが・・・。」


 この経久の発言に首を振ったのはこれまでずっとお供をしてきた秀綱だった。


 「正直言って、ついていくのが大変です。」


 「それは本当か・・・。」


 これまで自覚がなかった経久はショックを受けた。

お供の家来に迷惑をかけていた、という罪悪感に見舞われたのである。


 だが、秀綱はにっこりと笑ってこう言った。


 「でも、若殿のお供も楽しいものです。」


 「何、楽しいのか・・・?」


 経久は思わず聞き返した。

てっきり不満を口にするのだと思っていたからだ。


 「はい、若殿は私の憧れでもあるので、その憧れの人と行動を共にできるのは

本当にうれしいことです。」


 「あ、憧れとはなんだ・・・。」


 こう言いながらも経久は内心、とても嬉しかった。

自分が憧れて会いに行った貞幸も同じ気分なのだろうとも思った。


 「経久様、私たちも楽しくついていきますのでよろしくお願いします。」


 「呼び名は若殿でいい。」


 「またまた、すでに当主のように家来を手に入れているくせに。」


 「えっ」


 動揺する経久をよそに秀綱が続ける。


 「東軍の陣中では尼子家の嫡男があの貞幸を家来にしたと

噂になっていますから。」


 「な、なぜバレたのだ・・・。」


 さらに動揺する経久に秀綱は衝撃的な発言をする。


 「なぜかというと。」


 「教えてくれ、秀綱。」


 「教えようかどうしようかな。」


 「頼むから教えてくれ。」


 秀綱に仕返しの焦らし攻撃を受けた経久だが、尼子家の嫡男である経久に

頭を下げてお願いされた秀綱に答える以外の選択肢はない。


 「実は、この私が漏らしたのです。」


 「な、なんだって!?」


 経久が驚きのあまり発した大声に周囲の鳥たちが飛び散る。


そう、経久はあの時、秀綱に少し離れたところにいるよう命じて

二人で会ったつもりだった。

 しかし、来るなというほど行きたくなるのが人間の心理であり、

秀綱は後方の草むらに隠れてひそかに聞いていたのだ。


 「な、なんてことを・・・。」


 「大丈夫です、貞幸様にも話を通していますから。」


 「しかし、なんでそこまでして漏らしたのだ・・・。」


 経久は秀綱の真意を測りかねていたが、これに秀綱は包み隠さず答えた。


 「若殿の名声を上げたかったのです。」


 「何・・・。」


 経久は言葉を失った。

秀綱の心遣いに感服するばかりだ。


 「確かに、あの猛将が若殿に仕えたとあらば、名声は上がりますし。」


 「秀綱殿も長く若殿に仕えてきて行動力が身についたようで。」


 こう言って幸勝と久秀の二人も秀綱に感心したようだった。


 「私も秀綱殿のように頑張れるでしょうか。」


 久秀が思わず不安を口にすると、経久は笑いながら秀綱をからかう。


 「こんな秀綱のような男になってはならぬぞ。」


 「それはどういう意味ですか。」


 秀綱がすかさず反応する。

もはや名コンビとしか言いようがなかった。


 これから佐世幸勝と宇山久秀はこの名コンビに加わるための

“訓練”を受けることになる。

 

 この会話は長く続き、父の清定からの手紙など

記憶のかなたに消えていたのである。

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