戦国に挑んだ男

武田伸玄

序章 山中鹿介

 「我に七難八苦与え給え。」


 これは誰の言葉であろうか。

こうこうと輝く月を見上げながらこう願う武者・・・


 ズバリ、山中鹿介やまなかしかのすけである。


 鹿介が主君であり滅亡した尼子家あまごけを再興すべく、

中国地方の覇者、毛利元就もうりもとなりに戦いを挑んだことを知っている人は多いと思う。


 しかし、出てくるのは織田信長に救援を頼んでからが多く、

大抵の場合は登場して間もなく戦死してしまうのだ。


 だが、これは鹿介の努力の一端に過ぎない。

実のところ、鹿介はこれ以前から毛利氏と戦を繰り広げており、

追い詰められても生き延びてまた軍勢を起こす、これを繰り返していたのだ。

 ちなみにだが、大体の登場シーンは3回目の決起にあたる。


 結局、鹿介は尼子家再興の夢を果たせないまま

亡くなってしまうのだが、何はともあれその勇姿は

今にまで語り継がれるほどだ。


 余談だが、鹿介の子孫は鴻池と名を改めて大阪で両替商を営むようになり、

後に鴻池財閥や現在の三菱UFJ銀行にも繋がっている。


 さて、鹿介の話に戻るが、なぜ鹿介はそこまでして

尼子家を再興しようと思ったのか。


 この話の主人公であり尼子家を大大名にのし上げた尼子経久あまごつねひさもこの世におらず、

跡を継いだ晴久はるひさや最後の当主の義久よしひさなどは正直言って

この人のために尽くそうと思えるような器量がない。


 となれば理由は一つ。

亡き経久に大きな恩があったのだ。

だから鹿介は経久が遺した尼子家を再興すべく戦ったのである。


 「我に七難八苦与え給え。」


 こう願いながら見上げる鹿介の目の先には経久がいたのかもしれない。

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