第6話 故郷へ

年月が経つのは早い。


 経久も二十歳になり、都に来てから丸4年が経っている。

このころの経久はというと、都での生活に飽きていた。


 (今年中には出雲に帰れる。それまでの辛抱だ・・・。)


 こう思い聞かせて過ごしていたが、その姿はどこか元気がない。


 「若殿。」


 「どうしたのだ・・・。」


 「殿から手紙が届きました。」


 「おお、そうか!」


 秀綱の報告で元気を取り戻した経久は早速手紙を開く。


 ”経久よ、元気でいるか。そろそろ都の生活も飽きてきたのではないか。

わしも一時は丸5年というのを考えたが、経久が帰りたいと思っているのなら

今すぐにでも帰国の手配をしようと思うがいかがか。清定“


 「さすがは父上。この私の心境を見抜いている。」


 「では故郷に帰られるので。」


 秀綱の質問に経久は質問で返した。


 「秀綱はどうだ。都には飽きたか。」


 まさかの質問返しに困惑する秀綱であったが、

少し考えた上でこう述べる。


 「私は若殿に従うだけですが、飽きすぎて元気のない若殿を見るのは嫌です。」


 「よくぞ言ってくれた。」


 「ま、まさか私がこう言うのを狙っていたのですか!?」


 目を見開いて驚く秀綱の質問に経久は微笑しながら答える。


 「まぁ、そういうことがないでもない。」


 「だったら正直に言えばいいのに。」


 怒り気味の秀綱に経久は少し間をおいてからこう言った。


 「いや、秀綱がまだいたい、と言ったら留まろうと思っていたのだ。」


 「わ、若殿・・・。」


 秀綱はなんて家臣思いの若殿なんだと思い目に涙を浮かべる。


 「確かに都にいる時間は貴重な経験ですからね。」


 泣きそうな秀綱を見た経久もまた、秀綱に教えられた。


 (そうだな。確かに都にいる時間はかけがえのない経験なのだな・・・。)


 父の清定に帰国したいとの返書を書きながら、経久は思う。


 (せめて残りの滞在時間を大切に過ごさなければ。)


 これ以降、経久はこれまで興味がなくて訪れていなかったところを巡り、

それぞれの場所の歴史に学ぶなど、知識をできるだけ脳に詰め込んだ。


 そして時は文明10年(1578年)正月。

都の京極屋敷で出雲から代わりの人質として来る弟の久幸の到着を待って

出雲に帰ることになった。


 「おお、久幸!」


 「あ、兄上!?」


 「久しぶりだな!」


 「兄上!!」


 久幸が経久に抱き着いてきた。

再会することができてとても嬉しい時間だが、

それは同時に再びの別れの始まりでもある。


 「父上!!」


 「おお、経久!随分と立派になったな!」


 久幸を連れてやってきた父の清定に経久は無理と分かって聞いてみた。


 「久幸はどうしても人質にならなければいけないのでしょうか。」


 これには清定の表情も曇る。


 「ああ。また別れてしまうのは残念だが仕方ないことだ。」


 こう言って清定は経久の肩を叩く。


 「父上、兄上。私も立派になれるよう頑張ります!」


 「久幸、安心せい、5年以内には帰国させてやるからな!」


 「私にも手紙を送ってきてくださいね!」


 「もちろんだ!」


 久幸の声が次第に遠くなっていく。

これは果たして仕方ないことなのであろうか。

 

 そんなことを考えているうちに京都の盆地を見下ろすところまでやってきた。


 (正直、戦乱で荒れ果てた都を見るのは悲しかった。

だから、この私が尼子家の当主になったら都に上って復興させて見せる!)


 こう決意をする経久だが、自分が尼子家の当主になるのが来月のことだとは

思いもしないのである。

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