第15話 交易の力

 「別にそんな大金を払ってもらわなくてもいい。」


 年が明けて文明14年(1482年)正月。

これまで尼子家の足元を見て好き放題にやってきた

中井家清の態度が変わり始める。


 あの時に悪人さが目立ってしまったせいで反省し始めた家清はある日、

経久宛に書状を送り、それは必要最低限の銭だけくれれば交易をする、

という内容である。


 (よし、作戦通りだ・・・!)


 経久は飛び跳ねたいほど嬉しかった。

これまでやることやることが裏目に出ていただけに

今回の成功はとても嬉しかった。


 「殿、それはあくまでも殿自身の失敗を補っただけですよ。」


 秀綱がこう言ってくぎを刺したが、


 「まぁ、そんな固いことを言うな。」


 と返すところ、相当機嫌がいいのであろう。


 (そんなこと、どうでもいいか。)


 ついつい秀綱もつられてこう思ってしまう。

だが、事実はプラマイゼロの状態だ。


 とはいえ、これで経済面では大きなプラスとなるのは間違いなかった。

それほど交易とは大きいのである。


 4月、寒さも和らいだころに経久は美保関を訪れた。

港は鉄の交易再開もあってかとても賑わっている。


 海賊衆の中井家清も賑わう港を見て自らの行いを恥じ、

最近では経久に従うようになってきているほどだ。


 (港が栄えているようで良かった。)


 こう思う経久のもとに家清が姿を現す。


 「経久殿。」


 「おお、家清。」


 「港の視察もようございますが、たたら製鉄の方も

ご覧になってはどうでしょうか。」


 「確かにそうだな。」


 経久にこう進言する家清の表情は穏やかであり、

同じ家清とは思えないほどだ。



 桜の花が咲き誇る中、経久一行は内陸部にあるたたら場を訪れた。

なお、今回は出雲での生活に慣れてきた黒田貞幸も加わっている。


 「殿。」


 「どうした、貞幸。」


 「私は戦以外、全く無知なもので武具にも使われる鉄が

このように作られているとは知りませんでした。」


 「実は出雲に長くいるこの私も初めて知った。」


 「あ、そうでしたか。」


 「人間とは知らないことの方が多いのだな。」


 こう述べる経久だが、一つ気になることがあった。


 「おぬし、確か猿吉といったな。」


 「そうです、私が変な猿吉です。」


 この男、猿吉はこのたたら場の管理人だ。

なぜか非常に変な服装だが、経久が聞きたいのはそこではない。


 「ここには多くの者が働いているが、しっかりと報酬を出しているのか。」


 十分な報酬を出すことが作業の効率化に繋がると考えた経久は

猿吉に現状を確認する。


 「へへ、ご安心を。私は多くの民衆を笑わせることで

鉄以外でも利益を得ております。なので報酬は十二分に支払えております。」


 「ど、どうやって笑わせるのだ。」


 「劇とでも言えばいいのでしょうか、とにかく他のたたら場でも様々なことをして報酬を賄っておりますが、交易が再開されたので

これからは十分に利益が上がるでしょう。」


 「そうか、それは良かった。」


 「では、これにて。」


 作業に戻ろうとした猿吉だが、


 「ま、待て、猿吉。」


 経久にはどうしても気になるものがあるようで

猿吉を呼び戻す。


 「へへ、どうしました?」



 「その体から飛び出している白鳥はなんなのだ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る