第17話 月山の夜討ち

 「義尚様、打倒尼子家への機運が高まってきております。

故に経久を懲らしめるなら今しかありません!」


 京極政経が強い口調で同意を求めるのは室町幕府の将軍、足利義尚である。


 かねてから打倒尼子家に向けて好機を探っていた政経は、

大内政弘直筆の通告を経久が無視したことを受けて

経久に対する恨みが高まっているとし、

義尚に尼子追討令を出すようお願いした。


 これに義尚は迷うことなくこう述べる。


 「あいわかった、追討令を出す。尼子を倒す時がきたようだな。」


 「ははー!!」


 こうして尼子家追討に向けた動きが本格化する。

大内家を中心とし、東山陰(伯耆、因幡、但馬)の守護大名である山名政豊、

さらに安芸国、備後国、備中国などの国衆らが

尼子家の出雲国を全方位から攻め立てる。


 経久は西の大内側からの攻撃は想定していたものの、

東の伯耆国や南の備後国からの攻撃は想定外であった。

 特に居城である月山富田城は伯耆国に極めて近く、

居城から軍勢を動かせない羽目になってしまうのだ。


 (思ったよりもまずいぞ・・・。)


 経久もこれには頭を抱える。

全方位からの同時攻撃とあってそれぞれの城で防いでもらうしか道はない。


 だが、経久は居城に籠っているなどできなかった。

高瀬山城が敵の大軍に囲まれているとの一報を受けると、

月山富田城を留守居の尼子家家臣、米原綱広ら1千に任せて出撃した。


 (大内め、一泡吹かせてやる・・・。)


 高瀬山城を取り囲む大内勢3万に経久は1万の手勢で突入する。


 「それー!!尼子軍の力を見せつけるのだー!!」


 尼子家重臣の宇山久秀が味方を鼓舞すれば、


 「敵は小勢ぞー!!取り囲んで血祭りにあげようぞ!」


 と大内軍侍大将の陶興房も味方を鼓舞する。


 この戦闘は夕刻まで続いたが、ある事態で一気に決着を迎えた。


 「殿!!」


 「つ、綱広!!どうしてここに・・・。」


 こう言いかけた経久だが、留守居の米原綱広がここにいるということは、

これしか考えられない。


 「まさか、月山富田城が落ちたのか・・・。」


 これにボロボロの甲冑を着た綱広は首を垂れて黙り込む。


 (落ちてしまったのだな・・・。)


 落ち込みそうになる経久だが、そんなことをしている暇はない。

拠点である月山富田城が落ちたとの噂は瞬く間に全軍へと広がり、

逃亡兵が相次いでいるのだ。


 (このままでは前方の大内勢に我ら者ども討ち取られて滅亡する。

活路を開かねば・・・。!)


 しばらく考えた経久は大きな決断を下す。

重臣たちを集めると、その前でこう下知を飛ばした。


 「月山富田城を占拠している山名勢は戦勝に浸っているであろう。

その祝い酒で酔った隙に攻め入って居城を奪い返す!!」


 「は、ははー!!」


 重臣の中には大内側への投降を考える者もいたが、

経久の強い意志に押されて断念するほど決意に燃える下知であった。


 尼子勢は足軽がほぼ逃げ散ったため、足軽大将より上の百名ほどで

月山富田城を目指し、暗闇の中行軍する。


 (この作戦が成功しても、結果は変わらないであろう。

でも、あそこで死ぬよりは敵に一泡吹かせてから死にたい・・・!)


 こう思いながら、経久は一歩ずつ歩んだ。

そして、月山富田城に近づいた辺りからは足音をひそめて進軍し、

計画していた通り搦手の前の森林に到着する。


 「全員集まったな。」


 「はい。」


 こう言って佐世幸勝が頷くと、経久は大きく息を吸ってから

こう叫ぶ。


 「いけー!!城に突入せよ!!鬨の声張り上げるのだー!!」


 「おーーー!!!」


 百名の武士が守りの弱い搦手より侵入した。

山名方の武士はまだこの城になれていない上、本丸で酒宴を行っているようで

そのほかの曲輪はがら空き状態である。


 「な、なんじゃ、この喊声は・・・。」


 本丸にいる山名政豊が気づいたころには既に時遅し。

尼子の武士が三の丸を制圧し、二の丸も陥落寸前に追い込んでいた。


 「ご、ご注進!尼子勢が攻めてきております!!」


 「か、数はいくつじゃっ!?」


 「およそ、5千!!」


 山名家の家臣が人数を多く把握してしまうほど尼子軍の攻撃は凄まじく、

耐え切れないと判断した政豊は月山富田城を捨てて本領に逃げ帰り、

経久は居城の奪還に成功したのである。


 しかし、喜んでいる場合ではない。

先ほどまで激闘を繰り広げていた大内軍が

すぐそこに迫っているのであった・・・。

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