第11話 少女たち


              ☆☆☆その①☆☆☆


「折角だし、海の家で 何か買ってくるよ」

 育郎が軽食を提案すると、女子たちも賛成。

「オジサン、私も行きま~す♪」

 ミッキー嬢と桃嬢に留守番を任せて、亜栖羽と二人で買いだしへ。

 海の家に向かう途中、少女は黙ったままで、 何だか気になる事がある様子だ。

「…? どうかしたの?」

 問う青年に、少女はしばらく言葉を選んで、思い切って告げた。

「ふの…オジサン。今日はその…折角、海のデートを考えてくれたのに、私が友達と遊びたがっちゃって…ごめんなさい」

 言いながら、頭を下げてきた。

 今日のデートが友達との海水浴になった事を、申し訳なくも感じている様子の亜栖羽。

 育郎は、本心で応えた。

「あはは、謝る事なんて 全然ないよ。むしろ僕は、その…」

 見上げる小柄な少女に、モジモジと恥ずかしそうな筋肉の大男。

「あ、亜栖羽ちゃんが友達に、僕の事を紹介してくれた事が、すっごく嬉しいんだ。なんて言うか、僕自身の励みになったっていうのかな…。ほら、僕 こういう顔だしさ」

 顔のジョークは滑った感じだけど、育郎は言葉を続ける。

 亜栖羽には、いつも笑顔でいて欲しい。

「亜栖羽ちゃんの友達、みんな良い子だし。今だって、僕と亜栖羽ちゃん二人のタイミングを作ってくれたりして。僕は今日、すごく楽しいよ」

「オジサン…」

 ホっとした少女の美顔に、育郎の心が安心で満たされてゆく。

 同時に、ハっと思う。

(待て! 今の言い方だと、亜栖羽ちゃんの友達を気に入った。みたいに 勘違いをさせてしまうのではっ!?)

 なので慌てて、真っ赤になりつつ言葉を足す。

「もっ、もちろんっ、亜栖羽ちゃんがいるからこそさっ、楽しいんだよっ! 僕は–」

 誰よりも亜栖羽ちゃんの事が。

 と言いかけて、腕に寄り添った少女に驚かされて、言葉が詰まった。

「えへへ オジサ~ン♪」

 嬉しそうに上腕へと抱き付く少女のバストが、ぷにゆり、と柔らかい。

 水の中での抱き付きよりも、リアルに体温だと感じた。

「あ、あの…と、友達からも、見えてると…」

「いーですよ~♪ 二人とも私たちの事、知ってますし~♪」

「あ、うん…」

 大柄な強面男の腕に笑顔で縋り付く、小柄な美少女。

 気づいた周囲の独り身な男性たちは「羨ましい」や「誘拐じゃないんだな」との想いが、顔に表れていた。


              ☆☆☆その②☆☆☆


 冷たい缶のドリンクと、焼きそばなどの軽食を買ってきて、四人で戴く。

「うわ~、GOさん ごちそうさまっス!」

 海の家の焼きそばは、良い意味で独特なチープ感があって、ミッキー嬢の好物だと、メニューを迷う青年に亜栖羽が教えてくれた。

「ごちそうになります」

「戴きま~す♪」

 育郎としては大人の男性らしく、女子たちに奢れるのは嬉しい。

 桃嬢が、何かモジモジと告げてくる。

「あの…ぉかしなお願いだと 思われるかもしれませんが…」

「うん?」

「飲み終わったらで かまいませんですが…缶のプルタブを戴いても、宜しいでしょうか?」

「プルタブ…? 良いけど…」

 プルタブをコレクションしているのだろうか。

 青年の疑問に、買い出しで缶ジュースを買おうと提案した亜栖羽が、答えてくれた。

「桃ちゃんのお母さん、町内会の役員さんなんですよ~。それで、モモちゃんたちの町内会では、ペットボトルのキャップとか缶のプルタブとか、集めててですね~」

 亜栖羽の言葉を、ミッキー嬢が続ける。

「なんか、そういうのって 資源だか何だかの関係で、僅かだけど町内会の活動資金になるらしいっス」

「へぇ…ああ、そういえばそんな話…カモメ屋さんでも 訊いた事があった気がするよ」

 お隣の町会長さんとオバちゃんが、随分と前にだけどそんな話をしていたのを思い出した。

「うん、わかったよ。はい」

 言いながら、プルタブを外して手渡す。

「ありがとうございます♪」

 恥ずかしそうに、でも嬉しそうに受け取った桃嬢である。

(だから亜栖羽ちゃん、カップのドリンクじゃなくて缶ジュースにしたのか)

 さっきの競争の時の桃嬢といい、いま説明をくれた亜栖羽とミッキー嬢といい、みんな友達想いなんだなと、あらためて少女たちへの理解が深まって行く青年だった。


 軽くお腹を満たすと、ミッキー嬢たちが荷物番をすると言い出した。

「全力で泳いだんで、身体を休ませたいっス」

「私も、少しお昼寝したいです」

 亜栖羽と海を楽しむ時間を作ってくれているのだろう。

「それじゃあ、少しの間、お願いするね」

「行きましょ、オジサン♪」

 亜栖羽と二人で、海に繰り出す育郎だった。

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