第5話 恋人たちとのショッピング


              ☆☆☆その①☆☆☆


 キャっキャとにぎやかな少女たちのお供をするように、青年はファッションビルへと連れられる。

 八月も始まったばかりの繁華街は、学業から解放された日常の自由時間を楽しむ学生たちで、ビルの中まで混雑していた。

「ここのお店で水着、買いま~す♪」

「いぇ~い♪」

「ひ、紐のようなビキニとか…はわわっ!」

 三者三様でワクワクしながら、エスカレーターで高層階の水着ショップへ。

「ここか…」

 開放的なお店は夏の彩が華やかで、店先にはバルーンの大きなヤシの木なども飾られている。

 内装も、南の島を連想させる鮮やかな青色で、浮き輪やビーチボール、イルカのバルーンボートなども天井付近へデコレートされていたりと、常夏気分だ。

 壁やハンガーにビッシリと並べられている水着も色とりどりで、デザインも種類も様々に飾られていて、若い女性たちやカップルで賑わいを見せていた。

「ねーこれどう?」

「うーん…似合うけど、俺はさっきの方が好きかな」

 男性の声に視線を向けると、試着室のカーテンを僅かに開けて、彼女の水着を一緒に選んでいる。

(す、すごいっ…堂々と見てる…っ!)

 あれが、彼氏のあるべき姿なのだろう。

(ぼ、僕も、亜栖羽ちゃんに訊かれたら…)

 と想像をして、カーテンを開けて伺う自分が思い浮かぶ。

 その姿は、ガードマンに背中を叩かれるであろう不審者そのものだと、自分で気づいた。

「ハっ–いやいやっ、僕たちはっ、付き合っているわけでして…っ!」

「オジサン、どーしたんですか~?」

「ハっ!」

 お店の前で、自分の想像に慌てふためいていた育郎だった。


              ☆☆☆その②☆☆☆


「と、とりあえず、僕はここで座ってるから。あ、時間とか気にしないで、好きなだけ 選んできていいよ」

 お店の前のベンチに腰かけて、少女たちの邪魔をしない気遣い。

(うん。大人の余裕だ)

 こういう自分でいられれば、亜栖羽に恥ずかしい想いをさせずに済むだろう。

 と浸っていたら、ミッキー嬢からダメ出しを貰った。

「だめっスよ~。付き合ってるなら、彼女の水着も選んであげなきゃっスよ」

「え…ぇえっ!?」

 つまり、彼氏の見本のようなさっきの彼氏のような行動をせよ。

 と仰っている。

 不審な覗き青年 逮捕。

 白昼堂々の卑劣漢。

 明日のトップニュースが頭を過る、想像し過ぎな青年。

「私も、オジサンに選んで欲しいです~♪」

「そ、そう…?」

 恋人たってのお願いなら、もはや躊躇いも怯えも捨てて上等。

「はい…わ、解りました…っ!」

 もう、店員さんにどれほど誤解されても、自分は亜栖羽の希望を叶えるのだ。

 育郎が戦いの決意を固めて立ち上がると、緊張と意志の強さで、全身の筋肉が膨張をする。

 水色のシャツがピッタピタに張りつめて、今にも中から張り裂けて弾けそうな感じ。

 世紀末の悪党どもがいたら、武器を捨てて我先にと逃げ出すレベルだ。

「うわ~、トモちゃん本当に、この人とお付き合いしてるんだねぇ」

 今更ながら、あの夜に出会った強面青年と友達が付き合っていると、現実認識をしたミッキー嬢。

「まぁ…この猛々しい筋肉で、か弱い亜栖羽さんを…はふぅ…!」

 更に妄想が捗ったらしい桃嬢だった。

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