第4話 目の前で女子トーク


              ☆☆☆その①☆☆☆


「それにしても…本当に、あの時の人だったんだねぇ」

「エッヘン!」

 ショートカットの少女と亜栖羽が、何やら納得している様子。

 特に、スポーツ少女は育郎の事を知っているようにも、聞き取れた。

(どこかで 会ったっけ…?)

 青年の視線に気づいた少女が、明るく白い歯を見せながら、ニコっと笑う。

「あぁ、アタシの事、忘れてるっスよね。アタシ、印象薄いっスから、あはは」

 と言われて、思い出した。

「えっと、亜栖羽ちゃんと出会った時に、一緒にいた…」

「あれっ、アタシのこと 覚えててくれたんスか? うわ~、光栄っス~!」

「い、いやぁ…」

 顔というより「~っス」の言葉尻と声で、思い出したのである。

「わ~。オジサン、ミッキーのこと 覚えてたんですね~♪」

 ミッキーと呼ばれているらしい。

「あ、自己紹介がまだっスよね。アタシ、三輝美樹(みっき みき)っていいまス。いつもトモちゃんが お世話になってまっス!」

(トモちゃん?)

 という青年の疑問を置いてけぼりにして、もう一人の黒髪少女が、自己紹介をする。

「あの…私はその…柿栗桃(かきくり もも)といいます…。ほ、本日は、よろしくお願い いたします…っ!」

 オドオドしながらも丁寧に、ペコりとお辞儀をくれる、柿栗嬢。

「こ、こちらこそっ、よろしくお願いいたしますっ!」

 つい緊張して丁寧に返すと、ミッキーが笑った。

「アハハ、なんかお見合いみたいっスね~」

 言われた育郎よりも、柿栗嬢のほうが頬を赤らめている。

「こほん…それで–」

 どこのお店に行くの?

 と尋ねようとしたら、パンク少女がそれぞれのあだ名に関する説明をくれた。

「あ、私 トモちゃんって呼ばれてるんですよ~。ミッキーが付けたんですけどね~♪」

 それは気になっていたので、乗ってみた。

「どうして トモちゃんなの?」

 葦田乃亜栖羽という名前の、一文字も入っていないナゾのあだ名を、ミッキー嬢が解説。

「いや葦田乃とか亜栖羽とか、あだ名つけにくいじゃないっスか。だから葦田乃のアシタ(明日)と亜栖羽のアス(明日)で、トゥモローで、でもトモ郎だと男子みたいだから、トモ子って事でトモちゃんっス」

「…なるほど」

 わかったようなわからないような、不思議なセンスのミッキー嬢。

「という事は…柿栗さんは、果物系のあだ名とか?」

「いえ、桃ちゃんっス」

 そこは普通なんだ。と、思わず突っ込みたくなる青年だ。

 そして桃嬢は、育郎を、何だか熱い視線で見つめていた。


              ☆☆☆その②☆☆☆


「えっと…」

 僕の顔に何か付いてるでしょうか?

 とか聞こうとしたけど「僕の顔」の部分で余計な引っかかりを覚えてしまい言葉が詰まる、強面の巨漢青年だ。

 育郎の問いかけに、黒髪少女はナゾの解答をくれる。

「亜栖羽さん…なんと完成度の高いお相手を…ふふふふふ…」

 暗く笑っている感じは、何だかマニアックな空気を滲ませていた。

「あ、桃ちゃん 妄想癖があるんですよ~♪」

「妄想癖…?」

 桃嬢は、亜栖羽と育郎を美味しそうな眼差しで見つめながら、更に頬が赤らむ。

「あぁ…美少女の亜栖羽さんが、これ程までに逞しく荒々しい筋肉な殿方に、毎晩…はふぅ…っ!」

 何やら妖しい妄想に、倒れそうな程の興奮を感じている様子だ。

「ま、毎晩ってっ…!?」

 女子高生のあぶない発言に、二十九歳の青年の方が慌ててしまう。

「さすがに毎晩はないっスよね~。週六くらいっスか?」

「えぇっ!?」

 なんと大胆な発言か。

 最近の女子高生は、育郎の青春時代よりも数段と進んでいるのだろうか。

 軽くパニックする育郎を、更に亜栖羽が追い打ちしてきた。

「毎晩だよ~。昨日だって、夜 したし♪」

「えええっ!?」

 昨夜どころか、亜栖羽ともまだ清い関係なのに。

 まさか自分は、恋人との初体験をしながら忘れてしまっているのか?

 いやいや、そんな事は絶対にない。

 では一体?

「あ、あ、あのっ、亜栖羽ちゃん…っ!」

 真っ赤になって慌てふためく青年に、パンク少女がナチュラルに笑顔で応える。

「昨日もしましたもんね、メール♪」

「えっ–あ、うん…した、ね…」

 真実がわかって、ホっとした育郎。

 そして女子たちの会話は、青年をからかったイタズラではなく、普通の会話だったらしい。

「うわ~、トモちゃんたちラブラブだね~」

「そして裏では…はふぅ…」

 色々とかみ合ってはいない感じだけど、かみ合っている少女たちだった。

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