第7話 海へGO!
☆☆☆その①☆☆☆
最寄りのレンタカーのお店に、一車種とはいえワゴンタイプがあったのは、育郎にとってもラッキーだった。
都内で一般ユーザー向けにワゴンを扱っている店舗は珍しいけど、それがいつものお店だったので、レンタル予約をして、当日の朝に歩いて受け取りに行けた。
「あ、えっと…オプションで、車内取り付け型の大きなカーテンとか ありますか?」
流石に何年も付き合いのある店員さんだから、強面青年のやや緊張しているフェイスにも怯える事などなく、サクサクと対応してくれる。
「はい、前後みんなカバーできるサイズがありますね」
「よかった。じゃあ、それを付けてください」
何と言っても、女子三人を乗せて海に行くのである。
一応とはいえ、車内で三人が着替えられるように、準備は怠らない。
ちなみに、身体の大きな育郎が普段レンタルするのは、大型SUV車種である。
小型車や、車内空間が広いとはいえ一般的な自動車では、狭くて運転し辛くて、逆に危ないからだ。
「準備OK! 忘れ物なし!」
亜栖羽たちは、先日の繁華街とは別の駅で待ち合わせをしていて、育郎が車で合流する約束になっている。
車を走らせて十分ほどで、待ち合わせの駅に、九時の少し前に到着。
住宅街っぽい駅前は、夏休みの為か人も少なく、亜栖羽たちの姿はすぐに確認できた。
「あれ、僕の方が遅くなっちゃった…っ!」
女の子を待たせてしまったと、自省する青年。
少女たちは何やらオシャベリを楽しんでいて、クラクションで知らせようかと想い、フと考える。
「待てよ…。クラクションで挨拶とか、ビックリさせちゃうかな…」
と想い直し、近くに車を停めて挨拶しようと歩道に寄せつつ徐行運転を始めたら、亜栖羽が気づいた。
「あ、オジサ~ン♪」
亜栖羽は肩出しジャケットにショートパンツなパンクスタイルで、ミッキー嬢は柄物のパーカーにミニスカート姿で、桃嬢は薄い桃色のワンピース姿だ。
停車させると、後部ドアを自動でスライドオープンさせながら、挨拶。
「あ、うん、お待たせ。遅くなってゴメンね。さ、みんな乗って」
三人が座れる後部座席の扉を開けたら、亜栖羽が助手席のガラスを軽くノックしてくる。
「私、こっちに座りたいです♪」
友達同士でオシャベリしたいだろうと思ったけど、少女は青年の隣で良いらしい。
「それじゃ、みんなシートベルト 締めたね。出発します!」
「「「は~い♪」」」
三人が乗って、車は海へ向かって発車をした。
☆☆☆その②☆☆☆
住宅街から一般車道を通って、海沿いの道を目指して、南へ進む。
やはり夏休みだからか、車道の空いてて車は順調だ。
「この調子なら、三十分くらいで着くかな」
「楽しみ~♪」
「いっぱい泳ぐっスよ!」
「あまり焼けないといいなぁ♪」
天気も晴天で、夏の暑い日差しが、午前中からギラギラと照りつけていた。
車内のクーラーよりも、窓を開けて風を感じているほうが、気持ち良い。
「風が涼しいね」
とか、大人の余裕で言いながら、内心では感動でドキドキしている青年だったり。
(あ、亜栖羽ちゃんが、僕の運転する車の、助手席に…っ!)
それだけで、感動して心の底から震えてしまう。
助手席に乗るという事は、それだけこちらを信じてくれている、という事だ。
と、ネットの恋愛相談サイトで読んだ。
しかも、亜栖羽の友達が一緒。
(僕は今日…亜栖羽ちゃんと、その友達を護る、ナイトなんだっ!)
恋人だけでなく、その友達を含めた三人もの女の子が、車に同乗している。
大学時代に男同士で海に行った事はあるけれど、今日のこの状況は、生まれて初めてである。
(恋人を隣に乗せるだけじゃなく、その友達までて…あぁ、僕の人生に、こんな日がくねるなんて…っ!)
思わず涙腺が緩みそうになる。
「はい オジサン、あ~ん♪」
信号待ちで停まったら、隣から亜栖羽の白い指で、甘いスナック菓子が差し出される。
後ろの席で、ミッキー嬢がお菓子を開封したようで、お裾分けだ。
(あ、亜栖羽ちゃんがっ…あ~んって…っ!)
なんという神々しい施し。
青年は、飼い主からおやつを貰える犬も見習う程に、超素直な喜びで大きな口を開けた。
「あ、あ~ん…んむふふ~」
一口戴くと、口の中で甘いサクサク菓子が、蕩けて消える。
心の底から美味しいと感じて、強面フェイスが溶岩のように蕩けて崩壊。
「うわGOさん、ニヤけるとだらしないっスね~」
「亜栖羽さんを支配したフェイス…ごちそうさまです…はふぅ…」
「ハっ–ゴホン…」
十五歳の女子高生たちにデレデレ顔を見られて、恥ずかしい二十九歳であった。
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