第1話 夏休みの儀式!
☆☆☆その①☆☆☆
夏休みシーズンに突入をして、今日は七月の末日近く。
亜栖羽の学校が長期休暇へ突入すると、二十九歳の育郎と十五歳の亜栖羽は夏の解放感に任せるまま、育郎の部屋のリビングで、二人きりで過ごしていた。
「オジサン…私、もうダメですぅ…」
「大丈夫だよ亜栖羽ちゃん。誰だって、一度は乗り越えるべき壁なんだから」
へこたれそうな女子高生を元気づけながら、青年は全身の筋肉をこわばらせつつ、向かい合っている。
「このペースで頑張れば、明日には全部の宿題が終わるよ。さ、あと少しだから、頑張っちゃおうね」
「は~い…えっと…」
現在、亜栖羽は古文の宿題と、必死に戦っている。
事の発端は、一学期の終業式を終えた亜栖羽からの、一通のメールだった。
『オジサン! オジサンと一緒に、夏休みの解放感をガンバリたいですっ!』
「え…ぇええええっ!?」
一瞬意味不明だけど、よく考えると意味深なメールに驚かされた育郎が、少女にコールをして、文面の意味を考察してみる。
「…なるほど。亜栖羽ちゃんのお父さんが、最近の亜栖羽ちゃんの成績上昇をとても感心していて、七月中に夏休みの宿題を終えたら八月のお小遣いを特別増額してくれる。と」
『そうなんですよ~♪ だからオジサン、どうか宿題をみてください!』
というワケで、二人は夏休みの初日から連日会って、育郎の部屋や図書館、時にはファミレスなどで、宿題を片付けているのである。
「期末試験の結果も悪くなかったし、学年での順位も中の上に伸びたもんね。ご両親も 喜ぶよ」
青年の賞賛に、少女は恥ずかしそうに頬を染める。
「でもそれって、みんなオジサンのおかげですよ~? 私だけだと成績、赤点ラインギリギリですもん~☆」
ギリギリとは、ギリギリ下という意味だ。
育郎とのテスト対策では上の下くらいの感じだったけど、それでも中間テストでは下の中から、期末試験でいきなり中の上にまで伸びたのだから、亜栖羽のガンバリは立派だ。
☆☆☆その②☆☆☆
「亜栖羽ちゃんなら、頑張ればもっと上を狙えるよ」
「ですかね~、えへへ♪」
年上の恋人に褒められて、少女は嬉しそうに愛顔を輝かせる。
ちなみに、宿題は友達と進めていると、家族には話しているらしい。
流石に、十五歳の娘が二十九歳の男性とお付き合いしているなんて知ったら、どれほど健全なお付き合いだとしても、ご両親が心配をして当然だろう。
育郎だって、亜栖羽に嘘をつかせてしまう事に苦悩したし、まだしているけれど、それでも亜栖羽と一緒に時間を過ごしたいという本音がある。
真面目なぶんだけ悩みも尽きない青年であった。
ちなみに、アリバイ工作を助けてくれている友達には、宿題のノートを見せてあげる事で手を打っているとの事。
亜栖羽と育郎が予定している夏の日帰りキャンプも、お土産を条件に、アリバイ工作に手を貸してくれているとか。
(…い、今は…亜栖羽ちゃんの友達たちの力も 借りなければ…)
学生らしい、微笑ましいヤリトリだけど、どうしても育郎は責任を感じてしまっていたり。
心の融通が利かない真面目青年である。
午前中の戦いを終えて、お昼休み。
無理のないように、育郎が立てた計画で、宿題は順調に片付けられつつあった。
「そろそお昼だね。カモメ屋さん、食べに行こうか」
「わ、は~い♪ カモメ屋さんのご飯、美味しくて大好きです~♪」
こんな感じで、夏休みの宿題は七月末日に全解決をした。
そしていよいよ明日から、宿題という憂いのない、解放的な夏休みが始まる。
今日は宿題の総仕上げとして、図書館で最終チェックと、バカンスの相談をしている二人であった。
「それで あの…あ、亜栖羽ちゃんに、聞きたいんだけど…」
「何ですか~?」
「海…行かない?」
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