好きじゃなくって愛してる! ~夏休み前半編!~

八乃前 陣

プロローグ 夏休み前の三日間


「………よし、バグは無し…っ!」

 受けていた仕事を、青年は急ピッチで仕上げていた。

 データを送って、あとは先方のチェック待ちだけど、バグもないし完璧だ。

「っぃよおおおおおおおおおおしっ! これで少なくとも七月はっ、自由だああああああああっ!」

 学生である亜栖羽は、たしか明後日が一学期の終業日だと聞いている。

 在宅プログラマーの育郎は、日常的に時間の融通はきくけれど、世間一般のような夏休みという括りもない。

 なので、とにかく現在請け負っている仕事を全て終わらせて、せめて七月いっぱいくらいは、亜栖羽となるべく沢山過ごしたいと思っていた。

 解放感で叫んで、全身を力ませて脱力をしたら、この二日間の徹夜の疲れが一気に出てきた。

「と、とにかく…少し寝て…」

 ベッドに潜り込んだ青年は、一息二息ほどすると、まるで桃太郎に退治された鬼みたいに、眠りへと落ちてゆく。

 夕方になって目が覚めると、亜栖羽からメールが届いていた。

『お休みですか~? お仕事 ご苦労様です~♡』 

 笑顔でピースをくれる写真は、学校近くの川沿いらしい。

 少女の制服写真も少し前から半袖になっていて、出会った春よりも、眩しく輝いている気がした。

「亜栖羽ちゃん、可愛いなぁ…♡」

 だらしない笑顔で見惚れながら、メールの返事を送る。

「えっと…『七月分の仕事は完全に終わりましたので、いっぱい遊びましょう』…と」

 メールを送って、夏の空を見上げると、夕方の赤さが命の躍動を感じさせた。

 いよいよ夏休みだ。

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