第23話 ドライブの終わりに


              ☆☆☆その①☆☆☆


「そういえば、オジサンの翻訳した本って、もう本屋さんに並んでるんですか~?」

「うん。原稿料は、本が発売されてから二ヶ月くらいして、入ってくるからね」

「なんていうタイトルなんですか? 私、買って読みたいです~♪」

「あ、だったら一冊、今度会ったときにプレゼントするよ」

 と、大人の余裕を見せたら、少女からの答えは、青年の予想とは違っていた。

「いえ~、買いますよ~♪ その方が売り上げになって、出版社さんにも嬉しいと思いますし、オジサンの評価だってウナギのぼりじゃないですか~♪」

 鰻上りかはともかく、育郎の事を応援してくれている事は、シッカリとわかる。

「そ、それじゃあ、お言葉に甘えて…」

 本のタイトルを教えると、亜栖羽は手帳にメモをする。

「難しそうなタイトルですね~。私に理解できるかな?」

「まぁ…海外のSFって、アメコミヒーローよりもニッチだからね…。特に女性には理解し辛くても、普通だと思うよ」

 育郎自身の、悲しいけれど間違いではない認識である。

「とにかく、買って読んでみます!」

 やる気満々な鼻息の亜栖羽だった。


 帰り道は一般道を走って、途中で、亜栖羽が行ったことのないという、道の駅に寄る。

「ここが、道の駅ですか~♪」

「インターチェンジよりは小規模だけど、地元の野菜とかお土産とかも充実してるし、こっちだけで売ってる限定のお菓子とかもあるよ」

 二人でブルーベリーアイスを食べたりして、少女は友達へのお土産に、名産品のお菓子を購入した。

 東京に入ると、空気感が慣れた感じに変わってくるのが解る。

 夕刻に近づいた街には、家々の明かりも点灯し始めていた。

「駅から 少し離れた場所だよね?」

「はい♪」

 亜栖羽の住むマンションが見えてくると、楽しかったドライブデートも、終わりが近づく。

 最寄り駅のはずれに車を停めて、少女が下車。

「忘れ物は無い?」

「はい。オジサン、今日はありがとうございました♪」

 沈みゆく夕日に照らされた恋人の笑顔は、明るくて眩しい。

 今日のドライブデートは、成功だっただろう。

 退屈させなかったようでホっとして、育郎は決心。

「あ、あの…亜栖羽ちゃん…っ!」

「はい?」

 ドキドキしながら、赤鬼のように顔を赤らめて、告げる。

「ま、また、誘っていい…? ドライブデートだけじゃなくて、その…ぷプールとか、いろいろと…っ!」

「はい♪ 楽しみにしてます~♡」

 そう返事をくれた少女も、頬がリンゴのように赤く染まっていた。


              ☆☆☆その②☆☆☆


 その夜、亜栖羽からメールが来て、明日にも友達と会って、お土産を渡すとの事。

 そしてなんと。

『プラネタリウム、行きませんか?』

「あ、亜栖羽ちゃんからのっ–デデデデートのっ、お誘いいっ!」

 短文を何度も何度も見返し、我が目を疑い、しかしメールに間違いは無し。

 それも、以前に育郎が計画をしていたデパートの屋上デートの時とは違い、完全に亜栖羽からのお誘いだ。

「こっこっこっ–こんなっ、幸せがっ!」

 まるで天国へと急上昇してゆくような気分で、育郎は急いで了解の返事をメール。

「えっとえっとっ–どど、どうか宜しくお願いいたしますっ!」

 そんなヤリトリを終えると、青年は保存したメールの文面を、いつまでもいつまでも眺めて、ニヤニヤしてしまう。

「亜栖羽ちゃんとプラネタリウム…でへへへへ…」

 とにかく育郎も、人が込んでいないプラネタリウムを探そうと決意。

 もしかしたら、車で遠出してのデートになるかもしれない。

「それにしても…」

 今年の夏は、色々な事を経験している。

 恋人の夏休みの宿題を手伝ったり、恋人と友達の女の子三人と海に行ったり、恋人と二人でドライブデートをしたり、女の子たちにそれぞれ違うあだ名をつけられたり。

 人生が、それまでとは比べ物にならないくらい、輝きに満ちている。

「みんな、亜栖羽ちゃんと出会ってからなんだ…♪」

 まだまだ夏休みは前半。

 プールや遊園地やお化け屋敷や花火大会、また海やドライブに行けるかもしれないし、縁日や夏祭りもあるし、部屋でのアニメ鑑賞や、山での一日キャンプも約束している。

「夏休みに、楽しい想いでをいっぱい 作りたいな…♡」

 窓から星空を見上げると、雲一つない夜空には、無数の星が煌めいている。

 なんとなくだけど、今、亜栖羽も同じ空を見ていると感じる。

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