第18話 育郎の親友たち


              ☆☆☆その①☆☆☆


 国道を走って、曲がって、また走ってを繰り返し、一般車道の狭い道を入ると、住宅街の中にポツンと小さな模型屋さんがあった。

「到着」

「わ~♪ ちょっとレトロな感じの お店屋さんですね~♪」

 二階建ての一軒家で、一階がプラモデルショップになっている。

 若い店長さんは三代目で、店構えも開店当時のまま。

 金属のフレームと赤いビニールの軒先には、黒文字で「山際模型店(やまぎわ もけいてん)」と描かれていた。

 ガラスのドアを手動で左へと開けると、雑誌を眺めていた男性の店長さんが、来客に気づく。

「ん? いらっしゃい。あ、福生さん 丁度良いトコロに。このまえ 話してた…ん?」

 大柄で強面な筋肉漢の背後に控えている、小柄で清楚な美少女に、男性店長さんの視線が向けられた。

「ん? 女の子のお客様とは、ウチの店には珍しい。プラモ工作の基礎からディオラマづくりまで、どんなご相談にも お答えしますよ♪」

 青年を押しのけて楽しそうにアピールトークを送る店長さんに、押しのけられた青年が、少し照れながら紹介をする。

「僕の、その…か、か、か、彼女…なんだけど…」

 その言葉に、山際氏は育郎と顔を見合わせて、少女を見て、また育郎の顔を見て、暫し思考が停止して、我に返る。

「……ん? 福生さんの彼女…?」

 と言いつつ、理解したけどなんだか理解不能という感じのオーバーな芝居っぽく、育郎と亜栖羽をキョロキョロと見比べて。

「…んん?」

 まだ理解できないっぽい小芝居の店長さんに、少女が自己紹介をした。

「えっと…ぃ育郎さんと、お付き合いをさせて貰ってます…。私–」

「あっ、葦田乃亜栖羽さんって、言って…」

 慌てて自己紹介を引き継いだ青年である。

 少女がペコりと頭を下げると、山際氏はようやく目の前の現実を理解したっぽい小芝居。

「……ぇええええええええっ!? ふっ、福生さんっ、彼女できたのっ!? 本当にっ!? こんな可愛い女の子っ!? 彼女さんっ!? えっ!? えええええっ!?」

「後半はオーバーだし わざとでしょ」

「福生さん ボクを捨てて女に走るんですかっ!?」

「いや僕の目当てはキミの身体とプラモデルだけだから」

「ひどいっ! エポパテも目当てのクセにぃっ!」

「バレていたのか」

「ぷふっ–あはははは、なんですかそれ~?」

 付き合いの長い育郎と山際氏のアホなヤリトリに、亜栖羽はつい笑ってしまった。

「「どうも~」」

 観客の笑いを貰って挨拶をくれるバカコンビ。

 こんな友達もいるのだと、育郎の知らない一面を知った亜栖羽は、なんだか嬉しかった。


              ☆☆☆その②☆☆☆


 バカなコントを終えて満足したらしい山際氏は、気持ちを切り替え、あらためて納得。

「いやあ、福生さんに彼女が出来るとはねぇ! 孤高の素組モデラーじゃなかったんですねぇ!」

「いや、そもそもそんなの目指してないし」

「そうでしたっけ? 福生さん、女の子よりもロボだと思ってたけど、マトモだったんですねぇ」

「どういう意味?」

 さっきのコントとは別に、山際氏はこういう会話がデフォである。

 男同士のバカな会話だけど、少女には新鮮で面白いらしい。

「えへへ~♡」

「あ、それで福生さん、このまえ言ってたタコの限定、ウチの店にも三つだけ入ってますけど–」

「え、ホント?」

「こんな可愛い彼女が出来てロボ卒業なら 取り置きしておいた福生さんの分は、店頭に並べちゃいますね」

「いや、亜栖羽ちゃんは僕のロボ 認めてくれてるし、買っていくし!」

「ほほぉ、名前+ちゃん付けデスカ」

 思わず出た呼び方を素早く拾われて、育郎は真っ赤になって抵抗。

「う…い、いいでしょ。許してくれてるんだから…!」

 ポンポンと弾むような、アホで親しいキャッチボールを、亜栖羽は笑いながらも黙って眺めていた。

「ハッハッハ。まあでも、葦田乃さん、福生さん いい人だから、よろしく付き合ってあげてね」

「はい!」

「福生さんに飽きたら、こっちのタコさんと付き合ってあげてね」

「やめてよ山際氏」

 そんな三人の会話があって、育郎が限定版のプラモを購入し、車に戻る。

「それじゃ、また」

「失礼します」

 丁寧にお辞儀をする少女と親友に、山際氏は車が見えなくなるまで、笑顔で手を振っていた。

 何かの思い出し笑いをする亜栖羽が可愛いと感じながら、育郎は話しかける。

「えへへ♡」

「どうしたの?」

「男の人って、仲良いと面白いなぁって♪」

「そ、そう? バカな会話だったでしょ? あの人と話すと、いつもあんな感じなんだよね」

「あはは♡ 私も楽しくなっちゃいました♪」

 男性同士の会話を初めて目の前にした少女は、なんだか微笑ましく羨ましく感じたりしていた。

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