第19話 ヲタクな約束


              ☆☆☆その①☆☆☆


「さっきのタコさんって、オジサンのお部屋に飾ってあるタコさんと 同じタコさんですよね?」

「まあね。厳密にいえば、OVA版でも何種類か違いがあって、さっき買ったのはコックピットまで再現された限定版なんだ。ロボとしては武装の違いもあって、僕は全装備させるのが好きだから–ああ、ゴメンね…五月蠅いよね」

 ファンを超えてヲタクを超えてマニアになると、つい嬉しくて語り出ししまう。

 ヲタク同士なら盛り上がるけど、さして興味のない常識人たちには鬱陶しい話であり、これがマニアの褒められないところだ。

 育郎も、ロボ趣味ではない亜栖羽についロボ語りをしてしまって、退屈させてしまったと反省をする。

「えへへ、大丈夫ですよ~♪ だってオジサンって、えっと…そうそう『サイテーのヤロー』ですもんね~♡」

「ええっ–そ、そんなに…ハっ!」

 最低の野郎と罵られてショックで泣きそうになったけれど、得意そうな愛顔でキラキラしている亜栖羽の瞳を見て、解った。

(亜栖羽ちゃんは…このロボに関する情報を、知っている…っ!)

 話題にしているロボのファンやマニアは、番組のタイトルから取って、仲間同士を「最低の野郎」と呼び合って、ニヤニヤしている。

(あ、亜栖羽ちゃんは確か…女子プラの友達がいるって言ってた…!)

 育郎のロボ趣味を認めてくれたり、自分専用機を作ったりした育郎のロボを理解しているのも、友達関係のおかげだ。

「そ、そのフレーズ…知ってたの?」

「はい♪ オジサンのお部屋でタコさん見て、可愛いなぁって思ってたんで~、友達に訊きました~♪ あ、私が言ったら失礼ですか?」

 マニア同士の呼び合いだから、失礼と感じたのかもしれない。

「いやいやいや、むしろ嬉しい感じだよ。あ、本編は見たの?」

「いえ~、そっちまでは まだです。友達も見ろ見ろって、勧めてくれてますけど」

「まあ、本編はテレビシリーズで五十二話あるし、OVAも沢山あるからね。無理に見なくてもタコが可愛いなら、それでも楽しいと思うよ」

「えへへ♪」


              ☆☆☆その②☆☆☆


 そこで、フて思いついて、思い切って誘ってみる。

「ぼっ、ぼっ、ぼっ、ぼっ」

「はい?」

「ぼっ、僕はそのアニメっ、全部BDで持ってるからっ–そのっ、ここっ、今度っ、僕の部屋でっ、少しずつでも一緒にっ、みっ観よう か…っ!」

(ず、図々しいかな…! ハっ–そもそも亜栖羽ちゃんが観ないのって、単にそこまで興味がないからかもしれないのにっ!)

 そもそもロボアニメが好きな女子だって、まだ珍しいと言えなくもない。

 それに、一番大切な事を、考えに入れ忘れていた。

(こんな、東京から離れた車の中で誘ったりしたら、亜栖羽ちゃんだって断りづらいんじゃ…っ!?)

 もしそうだったら、亜栖羽も返答に困ってしまうのでは。

 など、青年が色々な悩乱をしていると、少女はすぐに明るく返事をくれた。

「はい♪ 夏休みの間に、オジサンの部屋で全話、観れちゃいますか~?」

 そう答えた亜栖羽は、頬を上気させて、嬉しそうだ。

 地の底で悩んでいた青年は、一瞬で天国へと救われた気分である。

「う、うんっ! 亜栖羽ちゃんが里帰りから戻ってきたらっ、観ようねっ!」

「は~い♪」

 迷惑じゃなくてホっとした青年だけでなく、新たにデートの約束が出来て嬉しい二人だった。

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