第20話 回転する初体験!


              ☆☆☆その①☆☆☆


 それからしばらくは、一般車道を東に向かって車を走らせながら、育郎の知っているホビーショップに立ち寄ったり。

「えっ、育郎さんの彼女っ!?」

 みなに等しく驚かれて、それでも自慢の彼女なので紹介する青年も、嬉しくてモジモジしてしまう。

 そして亜栖羽がみんなに言われた事は、育郎はいいヤツだからよろしく。という、友達からの挨拶だった。

「えへへ♪」

 彼女として紹介して貰って、みんなに認めて貰えた嬉しさで、亜栖羽の笑顔も幸せそうである。

「どうしたの?」

「いえいえ~♪ オジサンのお友達、みなさん優しそうな方たちですね~♪ それにみなさん、オジサンの事、好きみたいですし♪」

「まあ、良くて月一とかでしか会えないけど、それでも付き合い 長いからね」


 そんな感じでお昼になって、二人は回転寿司屋さんの駐車場に駐めた車から、お店の前に立っていた。

「あ、亜栖羽ちゃん…実は僕…初めてなんだ…! だからその…うまく出来なかったら、ゴメンね…っ!」

「私の初めてです~♪」

 知らない人が聞いたら何の会話だと勘違いをされそうな、巨漢と美少女。

 育郎は、一度は回転寿司屋さんに来てみたいと思っていて、亜栖羽は、お寿司といえば父の知り合いな老舗のお寿司屋さんに食べに行く事が、殆どなのだ。

 入店すると、いくつかの席が空いていて、二人は六番と記された席に通される。

「えっと…このパッドかな…?」

「あれ~? ここの蛇口、水じゃなくてお茶が出るんですね~。便利~♪」

 亜栖羽が、備え付けの湯飲み二人分にお茶を淹れてくれている間に、育郎はパッドやその説明を熟読して、操作方法を理解した。

「…なるほど。目の前のレーンを流れてくるお寿司よりも、パッドで注文したお寿司を食べる。っていう感じなんだね」

「そうなんですか~。私、次々と流れてくるお寿司を取って食べる~、みたいな感じなのかと 思ってました~♪」

「実は僕も そんなふうに想像してたんだけど、普通に注文して食べるみたいだね」

 二人でメニューを見ながら、好きなお寿司を注文する。

「僕は…まずはマグロとイカを頼んでみるけど、亜栖羽ちゃんは? なんでも好きなメニュー、注文していいよ」

 翻訳の原稿料が入って懐が温かいので、思っていたよりも安い回転寿司での大盤振る舞いも、全く平気だ。

「わ~い♪ それじゃあまずは、タマゴと海老で~♡」

「OK、こうだな…」

 タッチパネルで注文するとすぐに、クリアなカバーに「六」と描かれた旗が立てられたお皿が、レーンを流れてくる。

「これか。はい、亜栖羽ちゃん」

「わ、ありがとうございます~♪」

 体の大きな育郎だから、席を立たずにお皿を取れた。


              ☆☆☆その②☆☆☆


 一つのお皿に二貫乗せられていて、さすがはお寿司だ。

 それぞれのお寿司を目の前に、小皿へ醤油を垂らし、昼食。

「「戴きま~す」♪」

「ぱく…ん、美味しいな…」

 育郎が食べてから、少女もお寿司を戴く。

「ぱく…んん、はい。タマゴも甘くて、美味ひいれふ~♪」

 続いて亜栖羽が食べた海老には、ワサビが入っていて、実はワサビは苦手らしい。

「んんっ–ワサビれした~☆」

 お茶でワサビの辛味を流す少女に、青年が問う。

「亜栖羽ちゃん、ワサビは苦手?」

「んくん…はぁ、そうですね~。普通のお寿司には、入ってますよね~」

 それでも我慢してもう一貫を食べようとして、それは育郎が受け付ける。

「ワサビ抜きも注文できるみたいだから、注文しよっか」

「はい♪」

 ワサビ入りを育郎が貰って、新しく到着したワサビ抜きの海老のお皿を亜栖羽に渡してから、それぞれを二人で食べる。

「んむ…美味しいね、海老」

「はい~。でもワサビ苦手ですし、ちょっと味覚が子供っぽいんですかね、私」

 恥ずかしそうに微笑む少女は、庇護欲を強く刺激される程に可愛い。

「僕も、お菓子の激辛とか苦手だし、味の好みが似てるのかな」

「え、えへへ~♪」

 それから、育郎はトロやタマゴやサーモンを、亜栖羽は穴子や軍艦巻きやウニなど、それぞれが好きなメニューを注文する。

「あ、いちご大福とかもあるんですね~♪」

「ほかにも、ケーキとかプリンとかの洋菓子だけじゃなくて、たこ焼きとか栗羊羹もあるんだって。なんでもある感じだよね。このあたりも、デザートとして注文しよっか」

 二人でお腹いっぱいに食べて、会計は育郎が済ませる。

「私もいっぱい食べちゃいましたけど、いいんですか~?」

「うん。任せてよ」

「えへへ~♪ ごちそうさまでした~♡」

 二人で車に乗ると、再び車を、東の方向へと走らせる。

「亜栖羽ちゃんは、何か寄りたいお店とかある? 走りながら探すけど」

「う~ん…今日は特には。おじさんやがいつも走ってる感じで、私も楽しいので」

「そ、そう…?」

 自分の趣味のお店ばかりに寄っているので、退屈ではないかと気になっていたけれど、楽しんでくれているようだ。

「それじゃ、ちょっと東京にはない感じのお店に、寄ってみようか」

「わ~♪ 楽しみです~♪」

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