第17話 鬼プリ!


              ☆☆☆その①☆☆☆


 下りの高速は意外と空いていて、窓からの風も涼しくて冷房いらずだし、流れる景色も楽しい。

「向こうの山も、綺麗ですね~♪」

「あの山は、秋になると紅葉が鮮やかでね。車窓から見ても、良い眺めだよ」

「なるほどです~。オジサンはドライブしながら、そういう景色を楽しんでるんですね~♪」

 ドライブ自体がほぼ初めてな少女は、自然の景色だでなく、頭上を通り過ぎるドライバー用の表示も楽しんでいた。

「左に進むと群馬県で、真っ直ぐ進むと茨城県…本当に、東京から離れた~って 感じですね~♪」

「この辺りで、一般道に下りるよ」

 左車線の坂道を下ると、交差点の一般車道へ。

 途端に景色も、山並みよりも街並みがメインとなる。

 国道沿いでも高い建物が少なくて、何やら商店や会社が並ぶ通りが続いた。

「東京とは全然、建物とか違いますね~」

「そうだね。逆に、東京ではあまり見なくなった施設とかもあるよ。ほら、そっち側」

 言われた少女が、助手席側の窓を見ると、二階建ての大きなアミューズメントが。

「すごい、おっきなアミューズメントですね~」

「ちょっと寄ってみようか」

 広い駐車場に車を停めて、二人でガラスの自動ドアを潜る。

 施設のフロアは広くて明るくて、ゲームの効果音が大きく、楽し気な気分を高めてくれていた。

「少し昔のゲーセン、って雰囲気だね」

 中央の左側は、ゲームの筐体が沢山並べられていて、対戦できるゲームも台も豊富。

 右側にはキャッチャーが設置されていて、メジャーなキャラ物からマイナーなぬいぐるみや小物まで、種類も豊富だ。

「わ~、いわゆるゲーセン? みたいな感じかと思ってましたけど、キャッチャーとか多いんですね~♪ あ、プリントフォト~、最新のもあります~♪」

 ボックスの中で写真を撮って、シールになって出てくる。息の長いジャンルである。

「へぇ…」

 育郎にはよく分からない、最新機種があるらしい。

「オジサン、プリフォト 撮りましょ~♡」

「え…えっ?」

 プリフォトなんて初体験な、年齢=彼女無しな青年である。

「こっちです~♪」

 小走りな亜栖羽の後について、青年はプリフォトボックスの前へ。

「ぼ…僕が、女の子と、プリントフォト…!」

 ボックスのオシャレな外装が、青年にとっては、何だか気恥ずかしい。

 自分のような者がこの中に入って、大丈夫なのだろうか。

 このマシーンは女性限定です。警察に通報します。

(とか言われたり…しないだろうか…)

 そんな被害妄想的な想像が、頭を過る。

「オジサン、早く早く~♪」

 カーテンの中から、臼はが呼ぶ。

(あ、亜栖羽ちゃんが呼んでいるんだし、大丈夫だよね…)

 あなたは写真に写りません。

 とか警告文が出たらどうしよう。

 心が震えながら、育郎はドキドキしつつボックスへ。

 外見通りに中は狭く、しかし四~五人で写真を撮るには十分と言った造り。

 入り口から見て右側が正面らしく、鏡のようなモニターと、たくさんの照明でお客さんを照らすようだ。

「オジサンは大っきいから、椅子に座って下さい♪」

「は、はいっ!」

 とにかく、亜栖羽の言う通りにしていれば大丈夫だろう。


              ☆☆☆その②☆☆☆


 育郎が身を固くしている間に、亜栖羽がコインを投入。

 緊張しながら青年が椅子に腰かけると、すぐ隣に少女が愛顔を寄せて来た。

(うわっ! 亜栖羽ちゃん近いっ!)

 頬も触れるような接近に、育郎の方がドキっとする。

 対して少女は、笑顔でモニターを注視。

「オジサン、画面を見て下さい!」

「は、はいっ!」

 数秒と待たず、マシーンから音声ガイダンスが流れてくる。

『はいは~い、それじゃあまずはぁ 笑顔でピ~ス♡』

「えっ…えっ!?」

「オジサン、笑顔でピースです!」

「ピース–は、はいっ!」

 カシャー。

 機械のシャッター音とフラッシュで、一枚撮影。

 モニターに映っている、緊張が丸出しな青年の笑顔は、まるで村の人たちを食べに来た鬼のよう。

 撮影が済んでホっとしたのもつかの間、マシーンから新たな指示が来る。

『次は可愛く、元気をアピールっ!』

「は、はいっ!」

 笑顔でウィンクで決める亜栖羽に比して、育郎は慌ててガッツポーズ。

 筋肉が盛り上がり、結果的に下方向からのライトも強めな感じになって、さあ村人たちを腹いっぱい喰らうぞと意気込んでいる鬼のようだ。

『それじゃあ今度はぁ、変顔~!』

「へ、変顔っ!?」

「オジサン、早く早く!」

 生涯初の変顔で半魚人のような顔になった育郎と、頬を引っ張って見事に蕩けたようなハイレベルの可愛い変顔を作った亜栖羽だった。

 それからも、マシーンの言うままに慌ててポーズをとって、写真に収められてゆく。

『は~い! 最後はみんなで、友情のハートポーズ~っ!』

「はーとっ–っ?」

「オジサン、こうです」

 上半身いっぱいに、両腕を使って♡の半分を作る亜栖羽。

「こ、こう?」

 育郎も、慌てて左右反転で真似をして、二人合わせて大きな♡を形作り、揃って一枚。

 下光と笑顔と、指を伸ばさず拳にしてしまった事も手伝って、♡の半分というよりボディービルダーのマッチョアピールみたいに見える。

 そして青年のそれは、まさしく満腹な鬼を連想させた。

『お疲れ様でした~! ボックスの写真、忘れないでね~。それじゃあ またね~っ!』

 撮影が終わって外に出ると、自販機の取り出し口みたいな受け皿から、亜栖羽が写真のシートを取り出す。

「あはは、オジサン見て見て~♪」

 全ての写真が枠で収まっているシートが二枚。

 そこに写っているのは、輝くような愛らしさで様々なポーズや表情の亜栖羽と、人食い鬼みたいな育郎の姿。

 とくに育郎は背が高いのもあって、撮影用のライトが下方から当たっている感じが多い。

(………鬼と美少女だ…)

 美女と野獣という邦題が、諺のように感じられたり。

 顔の件には慣れている青年だけど、あらためて撮影してみると、やっぱり落ち込んでしまう。

「オジサン、すっごく良い表情してますよね~♪ 初々しいですし、一生懸命な感じとか~♪」

 と褒めてくれる少女は、気を使っているのではなく、心底からそう感じてくれているような、楽しそうな笑顔だ。

「そ、そう…?」

 亜栖羽が楽しんでくれたなら、それが一番。

 青年の手の中にも、亜栖羽と一緒に色々な表情で写っているシートが一枚ある。

(プリフォトって…亜栖羽ちゃんと一緒だと楽しいんだな…)

 人生初のプリフォトも、心が弾むくらい幸せ気分の育郎だ。

 そして亜栖羽も、プリフォトの写真を幸せそうに、頬を染めて眺めていた。

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