第16話 一緒に朝ごはん


              ☆☆☆その①☆☆☆


 高速を走って東京から出ながら、育郎が問う。

「亜栖羽ちゃん、朝ごはんは?」

「はい! オジサンが言った通り、食べてません♪」

 家族には、ミッキーたちと作って食べると言ってきたらしい。

「ぉお腹、空かせちゃって ごめんね」

 言いながら、少しヒヤヒヤしている育郎。

「いえいえ~♪ どこかで食べるんですか~?」

「折角のドライブだからね。亜栖羽ちゃん、あまり車に乗った事ないって 言ってたし」

「わ~、楽しみです~♪」

 少女の家庭は、夏休みや年末の里帰りなどは飛行機で行くし、家族で車で出かける事は殆ど無いと、以前に聞いていた。

 なので育郎的には、ちょっとしたサプライズになればと、考えている事があったのだ。

「桃ちゃんたち、この間の海水浴、ありがとうございましたって 言ってました~♪」

「あはは、僕も楽しかったよ」

 などと話しながら高速をしばらく進むと、道が左へと大きく分かれていて、青年は車をそちらへと走らせる。

「さ、朝ごはんにしようか」

「はい。わあぁ…♪」

 広い駐車スペースから見えた景色は、いわゆるインターチェンジだ。

 駐車場には、大型の輸送トラックが数台や、家族連れらしい車が何台も停まっていて、空いている駐車スペースを探してバックで侵入。

「よ…」

 助手席のシートに左腕をかけて、後ろを見ながら車庫入れをする育郎だ。

 車はそれなりに慣れているので、自然とスイスイ侵入させてゆく。

 車載カメラで後ろの様子も確認できるけど、育郎は目視する方がずっと慣れているので、無理せずアナログな運転をするのだ。

「………♡」

 そんな青年の姿に、ドキドキする亜栖羽であった。

「さ、到着~」

 車を降りると、大きな施設を見上げる少女。

「わ~、これがインターチェンジですか~♪ 私、初めて来ました~♪」

 赤い屋根の横幅が大きな、二階建ての施設は、晴天の青空よく合っている。

 施設の前にはいくつもの屋台が並んでいて、トイレに行く団体さんや休憩している家族などが、沢山いた。

 亜栖羽はポケットからスマフォを取り出すと、楽しそうにカシャり。

 どうやら、サプライズは成功したようだ。

「中に、いろんなお店があるよ」

 内心でホっとしつつ、恋人をエスコートしながら、ガラスの自動ドアを潜る。


              ☆☆☆その②☆☆☆


 広い施設内の左側には数軒の食堂が開いていて、和食や洋食、牛丼屋さんからピザからハンバーガーなどの軽食まで、メニューは様々。

 中央にはお土産屋さんのコーナーが充実していて、東京や近隣県の名物やマスコットだけでなく、ショップ限定のお菓子なども、沢山の種類があった。

 右側のスペースは、子供たちの為のコインゲームやワンコインの自販機などが並んでいて、にぎやかな音と光で、子供たちを退屈させない造りである。

「わ~、なんだか アミューズメントみたいですね~♪」

「特に最近は、外国人の観光客向けに 色々と置いてあるらしいからね」

 初めて見るインターチェンジの光景に、少女の瞳が興味でわくわくキラキラしている。

「まずは、何か食べようか」

「は~い♪ オジサン、やっぱり和食系ですか?」

「それもいいけど、折角のドライブだから」

 施設の入り口周辺には、たくさんの屋台が並んでいる。

「ここで好きな物を買って、そこのベンチで食べない?」

「えへへ~、ピクニックみたいですね~♡」

 屋台のお店は、焼き鳥やホットドッグやケバブやタコ焼き、お好み焼きや焼き団子から焼きそばやかき氷やジェラートなど、こちらも様々なメニューで溢れていた。

「沢山あって~、迷っちゃいます~♪」

「見て廻って、食べたいものがあったら買って、食べようか」

「ゼータク買いですね~♡」

 二人で屋台を見て廻り、串ステーキやピザ、たい焼きなどを購入して、ドリンクも買って、テーブル席のベンチへ腰かける。

「じゃ」

「「戴きます」♡」

 よく晴れた空に雲はなく、遠くの山が綺麗に見える。

「んふ~、串ステーキなんて、初めて食べまひた~♪」

 にこにこな笑顔で、初めてのメニューを楽しむ少女。

 串ステーキは、大き目な一口サイズにカットされて焼かれたステーキで、ソースもタップリとかかっていて、焼き加減も程よくミディアムで、一本でもなかなかの食べ応えだ。

「オジサン、ドライブの時はいつも こういう感じなんですか~?」

 頬ばった串ステーキを飲み込んで答える育郎。

「んぐん…そうだね。正直、休みの日のご飯の仕度とか、面倒だからね」

 苦笑いしながら、大きな口でピザ一切れを、ほぼ丸呑み。

「そうなんですか~」

 青年の話を聞きながら、少女は毎日のご飯を作ってくれる母の事を、フと思ったり。

「遠くの山、綺麗ですね~♪」

 山の向こうには白い雲が極薄く見えて、夏の盛りを爽快に感じさせる。

 食事をしながら、遠くの景色を写真に撮ったり、山をバックに育郎と二人で写真を撮ったり。

(亜栖羽ちゃん、楽しそうだ。良かった…)

 自信ありげに振る舞いながら、内心ではドキドキしていた青年。

(…今日は正真正銘、亜栖羽ちゃんと二人でデートだ! 精いっぱい、楽しんでもらうんだっ!)

 食事を終えて、ドリンクも飲み干して一息ついて。

「じゃ、そろそろ行こうか」

「は~い♪」

 トイレも済ませると、車を北へと走らせる。

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